太田述正コラム#0528(2004.11.9)
<ブッシュの大統領再選(番外編1)>

1 始めに

 お目当てのケリー(注)ではなく、ブッシュが大統領選で再選を果たしたことで、欧州と英国の政府関係者達は困惑しています。このままでは遅かれ早かれ欧州と英国で、反ブッシュ感情が嫌米感情に転化することは必至だからです。

 (注)10月に実施された世界10カ国で実施された世論調査結果によれば、ケリーの当選を望む回答が多かった順に並べると、72%のフランスを先頭に68%の韓国、60%前後のカナダ・スペイン・メキシコ、5割台のオーストラリア・日本・英国と続き、ブッシュの当選を望む回答が多かったのは、イスラエルとロシアだけだった。ドイツでの調査結果はないが、やればフランス・韓国並みの数字が出ただろう。

 その様子を彷彿とさせる記事と論考を一つずつご紹介しましょう。

2 ドイツ

疎遠となった米独関係の修復を図り、ドイツにおける嫌米感情の発生を回避するねらいから、ブッシュの信仰心が厚く、かつブッシュの有力支持母体がキリスト教原理主義勢力であることにドイツ外務省が目を付けています。
ドイツ人も忘れていることですが、欧州の国会のうちキリスト教神学を専攻した議員が一番多いのがドイツ連邦議会だからです。
例えば、連邦議会議長と四人いる副議長のうち二人がそうです。面白いことに右派よりも左派に神学専攻者が多いのが実態です。
ブッシュ大統領が、閣議の前に閣議メンバー及び上級補佐官達とともにお祈りをすることは有名ですが、ドイツ連邦議会にも礼拝堂があり、100名もの議員が朝食お祈り会のメンバーになっています。
そこで、ドイツ外務省は、ブッシュ政権のメンバー達と神学を専攻したドイツ連邦議員との対話を実現しようとしています。
もっとも、米国のキリスト教原理主義勢力は、愛国主義(patriotism)とキリスト教を結びつけており、かつ聖書の字義通りの解釈を信じていて、これにはドイツの世俗主義者はもとより、ドイツの信仰心の厚い人々ですら強い違和感を覚えていることから、両者の間の対話が成功する可能性は低いものの、対話を試みる価値はある、とドイツ外務省は考えているのです。
この対話が成功するためにも、英国のブレア政権が、より欧州的な立場に立ってブッシュ政権にもの申して行くことが必要だ、ともドイツ外務省は考えています。
(以上、http://www.nytimes.com/2004/11/07/international/europe/07cnd-allies.html?pagewanted=print&position=(11月8日アクセス)による。)

3 英国

 その英国でも、在野の有識者達はおしなべて反ブッシュであり、その中から早くも、嫌米感情をあらわにした論考が現れています。ガーディアン紙に掲載された、コラムニストのスティール(Jonathan Steele)のNATO解体論です。私の言葉に置き換えたその要旨は次のとおり。

 米国と欧州・英国は、政治制度等の制度は共有しているが、価値は共有していないことを今回の米大統領選挙ははっきりと示した。
 米国が世界について危険なまでに無知であること、米国では、知的孤立主義と外国への帝国主義的介入主義が混在していること、パスポートの数よりも多くの銃器が家庭にあること、等は、欧州・英国と際だって異なっている点だ。
 欧州・英国よ。こんな米国からの完全な独立を追求せよ。
 そのためには、冷戦終焉と同時に解体されてしかるべきだったNATOを解体させる必要がある。
 NATOがあるからこそ、米国も欧州・英国も、欧州・英国が米国のリーダーシップに服し、米国をサポートしてしかるべきだ、という気になってしまうのだ。その米国が無知蒙昧で乱暴な国に成り果ててしまった現在、そんな米国を盟主としているNATOは、もはや欧州・英国にとって脅威へと変じてしまったと言えよう。
 この際、米国も欧州諸国も英国も、それぞれ別個の国益を持つ国々であるがゆえに、国益が相互に一致することもあれば一致しないこともあり、それが当然だ、という自覚を抱くべきだ。
 その上で、欧州諸国と英国の国益は一致することが多いからこそEUを形成している、ということに思いを致すべきだろう。そのEUが独自の軍事力と安全保障政策を持つことを妨げているのもNATOなのだ。
 もとより、NATOが解体した暁に、米国といくつかのアジア諸国のように、欧州・英国の中から米国と二国間で安全保障条約を結ぶ国がいくつか出てきてもかまわない。
とにかく、一刻も早くNATOは解体されなければならない。
(以上、http://www.guardian.co.uk/Columnists/Column/0,5673,1345996,00.html(11月9日アクセス)による。)