太田述正コラム#0533(2004.11.14)
<第三国潜水艦の領海侵犯(その4)>

 (コラム#531の冒頭の括弧の中で言及した論議はその後も私のホームページ(http://www.ohtan.net)の掲示板上で続いています(#765??772(771は欠番))。ぜひご覧下さい。)

  ク 私の見解
 私自身は、二つの可能性があると考えています。
 一つは、中国海軍の潜水艦がかねてから日本の領海内を潜航航行してきたが日本政府がこれを黙認してきたところ、今回初めて海上自衛隊に追尾させたという可能性です。
 こんな可能性は考えたくもないけれど、日本政府には前科があります。
 北朝鮮の不審船への対応です。
 海上保安庁と海上自衛隊は、不審船に対してそれまでは何の措置もとらずに放置してきたにもかかわらず、1999年3月に初めて、日本の領海を侵犯した北朝鮮の不審船(2隻)を、北朝鮮の沿岸まで追跡しました。
 米軍からの通報があったために、何らかの措置をとらざるをえなくなったためです。
 今回も米軍からの通報が発端であったことは、ちらほらと報道がなされてきましたが、具体性のある日経の下掲の報道でそれが決定的になりました。

 「米軍の偵察衛星が先月下旬、中国の寧波とみられる海軍基地近くで浮上している中国原潜を捕捉。間もなくその原潜が潜行したため動向を探っていた。しばらく後、米軍が東シナ海の周辺海域に大量に敷設している海底ケーブルの音響探知装置(私が「ソナー網」と記してきたもの(太田))が原潜の音をとらえたため、先島諸島の日本の領海内に入る直前、海上自衛隊へ通報した。衛星が視認した潜水艦と同一のものかどうかは確認されていない。海自はこの米軍情報をもとに、哨戒機P-3Cなどを現場海域に派遣し、原潜が潜行しているとみられる海域に・・ソノブイ・・を集中的に投下。10日午前5時すぎ、原潜の位置を把握した。」(http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20041114AT1E1300H13112004.html。11月14日アクセス)

 ただし、この記事のニュースソースは、日本自身が米国のコントロール下のソナー網(以下、「日本/米国のソナー網」という)を日本周辺海域に張り巡らせていることを意図的に隠して話のつじつまを合わせようとしているので、この話は、「米軍の衛星で発見→台湾/米国のソナー網で追跡→日本/米国のソナー網で追跡→P-3Cで追尾」または、「米軍の衛星で発見→日本/米国のソナー網で追跡→P-3Cで追尾」、と読み替えなければなりません。
 もとよりニュースソースが、日本/米国のソナー網の存在を隠し通すために、米国の関与をあえてでっちあげた可能性も全くないとは言えませんが、米軍の関与についての報道内容がメディアによって微妙にくい違っており、日本政府ないし防衛庁の統一想定問答での受け答えだとは思えないだけに、米軍が関与したことはほぼ間違いないと言っていいでしょう。
 もし以上が正しい推論であるとすると、米軍が北朝鮮の不審船について通報したのは日本を北朝鮮の「脅威」に目覚めさせて米国の対北朝鮮軍事戦略に組み込むことがねらいであったと思われることにならって言えば、今回の米軍の通報は日本を中国の「脅威」に目覚めさせて積極的に(台湾防衛等を念頭に置いた)米国の対中国軍事戦略に組み込むのがねらいであることになります。

 もう一つの可能性は、中国の潜水艦による日本の領海侵犯が初めてのケースだったことです。(たまたま今回初めて探知された、という可能性は殆どないことは、ソナー網の話でご納得いただけると思います。)
 この場合、露見した時の中国政府のダメージが大きすぎることから、中国政府の意思でやったとは考えにくく、中国政府首脳のあずかりしらないところで海軍、あるいは部隊が独断で日本の領海侵犯を行ったか、あるいは潜水艦の艦長の過失ないし発狂で領海に迷い込んだ、ということにならざるをえません。
 第一の可能性の方が真実であったとしても、中国政府と日本政府双方暗黙の協力の下で、あえて第二の可能性にそったストーリーをでっちあげ、しかも艦長一人に責任を押しつけ、両国政府ともども責任逃れを図ることになりそうな予感がします。

5 終わりに

 町村外務大臣は、12日に在京の中国公使に本領海侵犯について抗議し、公使は「申し入れは本国に伝える。中国も調査中であり、直ちに抗議を受け入れ、謝罪するわけにはいかない」と答えました(http://www.sankei.co.jp/news/041112/sei055.htm等。11月13日アクセス)が、今後の日中双方の政府のお手並み拝見です。
 それにしても日本の「軍事評論家」の皆さん、お疲れさまでした。
 以下、その他の面白い報道に私の短いコメントを付して、本シリーズを終えることにしましょう。

「小泉首相は11日昼、海上警備行動発令が領海侵犯後3時間近くたった後だったことについて「適切だったと思います。慎重さも必要ですからね」と記者団に語った。」(http://www.asahi.com/politics/update/1111/007.html前掲)、「公表を当面控えようとした理由について政府高官は12日、「発令を公表したら相手に伝わり、手の内を知られてしまう」と説明したうえで「そもそも、公表する必要があるのか。防衛庁に、各国の発表方法を勉強してもらおうと思っている」と語り、一定期間非公表とすることを検討する考えを示した。」(http://www.asahi.com/politics/update/1113/001.html。11月13日アクセス)
<コメント>吉田ドクトリン的たわごとです。各国海軍は、領海侵犯には「発令」などを待たずに自動的に対応できます。

「日本の領海を侵犯した潜水艦は、海上自衛隊のP-3C哨戒機などに追跡され、低速で蛇行を繰り返した。海自幹部には「追跡を逃れようとした」「こちらの能力のデータを収集していたのでは」などの見方が出ている。 ・・海自幹部は「問題がより大きくなることを望まなかったため、尖閣諸島周辺を避けた」とみる。蛇行について、別の幹部は、単に追跡をかわすためだけでなく「攻撃されることはないと読んで、我々の能力や監視手法のデータ収集を狙ったのではないか」と話す。潜水艦が向かった先には中国・東海艦隊の司令部がある寧波や、同艦隊で最大級の軍港、舟山軍港がある。」(http://www.asahi.com/politics/update/1112/006.html。11月13日アクセス)
<コメント>何度もバーチャルに撃沈される経験を繰り返しただけのことであり、中国海軍は恥を天下に晒しました。私がαの艦長で正気であれば、探知されたことが分かった時点で、最短コースで東シナ海か太平洋に出て、一挙に最高速で南下し、日本のP-3Cの行動圏外に出て追跡を振り切り、中国政府に少しでもマヌーバーの余地を与えようとしたことでしょう。
ちなみに、探知されたことが分かった時点以降、αは上級司令部と連絡をとることはできなかったはずです。連絡はVLF波を使って行われますが、そのためには海面近くまで浮上し、アンテナを海中に展張しなければならないからです。(http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20041113k0000m070159000c.html(11月13日アクセス)がちょっと触れていた。)

「政府関係者によると、「海上自衛隊は沖縄近海に入ってきた原潜を探知し、領海侵犯前日の9日にはスクリュー音から原潜の艦名まで特定していたという。」(http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/feature/news/20041113k0000m010172000c.html。11月13日アクセス)
<コメント>何度も言わせてもらいますが、潜水艦の艦名まで分かる、と私が指摘した(コラム#530、531)ことが完全に裏付けられました。

(完)

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