太田述正コラム#0535(2004.11.16)
<韓国の現政権の正体(その1)>

1 始めに

 日本が、拉致事件をめぐる日朝交渉の動向に一喜一憂したり、韓流にうつつを抜かしている間にも、韓国はどんどんおかしくなっています。
 今回は、韓国をおかしくしている元凶である、ノ・ムヒョン政権を俎上に載せることにしました。

2 外交

9月に険悪化する米韓関係に警鐘を鳴らした(コラム#472)ばかりですが、韓国のノ・ムヒョン大統領は、米国のロサンゼルスで、さなきだに悪い米韓関係に火に油を注ぐようなとんでもない講演を在米韓国人の聴衆を相手に行いました。
この講演の中で、ノ大統領は、「核とミサイルは外からの脅威から自らを守る抑止力であるという北朝鮮の主張は理解できる」、「北朝鮮が核を開発したのは、他国を攻撃したりテロリストに売ったりするためではない」、「核問題を解決するには北朝鮮との対話しかなく、経済制裁も軍事力の行使も行うべきではない」と、米国が対北朝鮮政策を真っ向から批判し、そのあげく、「朝鮮半島は戦略的に重要なので、米国はどんなにイヤ(disgusting)でもそこから手を引くことはできない」(韓国がいかに反米であれ、米国はいざとなったら韓国を防衛せざるを得ないという趣旨か?)と言ってのけたのです。
 (以上、http://english.chosun.com/w21data/html/news/200411/200411150020.htmlhttp://english.chosun.com/w21data/html/news/200411/200411140025.html、及びhttp://english.chosun.com/w21data/html/news/200411/200411140033.html(11月16日アクセス)による。)
 
 ノ大統領は20日に再選されたばかりのブッシュ大統領と会談することになっており、かつまた先月、米国議会で北朝鮮人権法(注1)案が可決され(http://www.tokyo-np.co.jp/00/kok/20041005/eve_____kok_____000.shtml。10月6日アクセス)、ブッシュ大統領が署名して成立した(http://www.sankei.co.jp/news/041019/kok028.htm。10月19日アクセス)、という微妙な時期であるというのに、これらの発言は文字通りの反米発言であり、そこには政治家に求められる外交的配慮のかけらもうかがえません。

 (注1)この法律は、日本人拉致問題・政治犯拘束・帰還脱出者の処刑・強制労働等を「独裁政権下での深刻な人権蹂躙」と認定。その上で北朝鮮政府に対し、??日本人と韓国人の拉致被害者に関する情報の全面開示と被害者全員の帰国、??人権尊重や表現・信教の自由等を強く求め、実質的な進展がない限り、食糧など人道支援以外の援助はできない(ただし、安全保障上の利益を理由に大統領が実施を猶予できる)と規定した。更に、人権問題を北朝鮮と協議するため、大統領が任命する「特使」ポストを国務省内に新設する、とも規定している。

NATO加盟国であるフランスもドイツも今や反米ではないか。冷戦が終われば同盟関係が風化するのは当然であり、このところの韓国における反米的傾向もさして問題にする必要はない、という意見もあります(http://www.worldpolicy.org/journal/articles/wpj03-2/menon.html。8月17日アクセス)。
しかしフランスやドイツの場合より深刻なのは、韓国のノ政権は、自由・民主主義という価値観を米国と共有しておらず、むしろ反自由・民主主義の立場から反米的言辞を弄しているという点です。
このことを理解するためには、ノ政権の内政に目を転じなければなりません。

3 内政

 朝日新聞が7日に大きく報道した(韓国にも大きくフィードバックされた(http://english.chosun.com/w21data/html/news/200411/200411080014.html。11月9日アクセス))ように、韓国政府は10月末に、朝鮮日報等三大紙(うち二紙は日本の植民地時代の1920年代に創刊され、反ノ政権的傾向が強い)の力を削ぐことを主たる目的とした、新聞紙法改正案を韓国の国会に上程しました。
 この改正案の骨子は、??日刊・週間新聞を発行している新聞社に詳細な経営情報を毎年政府に提出を義務づけ(http://english.chosun.com/w21data/html/news/200410/200410310010.html。11月16日アクセス)、??最大発行部数の新聞のシェアの上限を30%とし、発行部数上位3紙の合計シェアの上限を60%とし(ちなみに、独禁法上はそれぞれ50%、75%)、??弱小新聞には補助金が与えられ、販売支援を行う、というものです。(http://english.chosun.com/w21data/html/news/200410/200410270035.html。11月16日アクセス)
 この改正案は、自由・民主主義社会においては、他に例を見ない報道の自由侵害法というべき代物ですが、国会上程直後に実施された韓国の世論調査によれば、賛成38.2%、反対52.0%であったというのに、与党ウリ党はごり押しする構えを崩していません(最初の朝鮮日報記事上掲)。
 韓国が民主化してせっかく報道の自由が一旦確立したと言うのに、再びメディアへの弾圧が始まったのは金大中政権の時です。
 金大中政権は、23もの新聞やTVの会社に対し、国税庁と公正取引委員会に家宅捜索を実施させ、何百万ドル相当もの罰金を課し、金政権に最も批判的であった三つの新聞社の経営陣を逮捕しました。
 当時、金大統領の側近であったノ・ムヒョン現大統領は、新聞は「暴力団と同じだ」として、新聞はすべて国有化すべきだと語った、と報じられたものです。
http://www.nytimes.com/cfr/international/20040301faessay_v83n2_schleifer_treisman.html。3月5日アクセス)
 ノ大統領は、かねてからの構想を着々と実施に移しつつあるわけです。

(続く)