太田述正コラム#0539(2004.11.20)
<韓国とキリスト教(その1)>

 (前回のコラム#538の「知能指数」のところを、書き換えてホームページに再掲載してあります。
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1 韓国のキリスト教の現状と歴史

 (1)現状
 1995年の統計によると、韓国人の50.7%の人が宗教を持ち、そのうち、仏教信者が46%でキリスト教徒が52%(プロテスタント39%、カトリック13%)です。つまりキリスト教徒は韓国人の実に26.4%を占めています(http://www.kansaikorea.org/v2/Facts_about_Korea/facts_about_korea11.php。11月19日アクセス)。ちなみに、仏教信者には形だけの信者が多いので、実質的な順位は、プロテスタント、仏教、カトリックであるとされています(http://www.erina.or.jp/Jp/Koryu/Chiiki/chiiki01-11.htm。11月19日アクセス)。
韓国でいかにキリスト教の影響力が大きいかは、クリスマスが公休日となっている点に端的に示されています。(仏教界の働きかけによって釈迦の誕生日も公休日になったのはその後です。)(http://www.geocities.co.jp/Playtown-Spade/3447/k-mon66.htm。11月19日アクセス)
 韓国と同じく日本の植民地であった台湾の仏教・儒教・道教の混淆93%、キリスト教4.5%、その他2.5%(http://www.eastedge.com/taiwan/。11月19日アクセス)とは随分様相が異なりますし、キリスト教徒が全国民のわずか1%にとどまっている旧宗主国の日本(http://wwwj.rikkyo.ac.jp/~kyomu/gakubu/1bun/Aa0/052_0_2.html。11月19日アクセス)とは全く別世界の感があります。

 (2)歴史
  ア 起源
朝鮮半島におけるキリスト教の起源は、宣教師によってではなく、1784年に27歳の李承薫(イ・スンフン)が訪問中の中国の北京でカトリック教会を独り訪ねてキリスト教徒になりたいと言って洗礼を受けたことに求められるという点で他に例を見ないユニークなものです(http://www.blu.m-net.ne.jp/~tashima/c17.html。11月19日アクセス)。
 19世紀後半には李氏朝鮮の摂政の大院君(1820??98年)によってカトリック大弾圧が行われます。
20世紀に入ると、今度はプロテスタントの宣教師が英米等から朝鮮半島にやってきて、その近代化に医療面や教育面(延世大学や梨花女子大学を創立)等で多大の貢献をします(http://www.kansaikorea.org/v2/Facts_about_Korea/facts_about_korea11.php。11月19日アクセス)

 イ 三・一運動
 1919??20年の三・一独立運動にプロテスタントは積極的に参加しました。
プロテスタントは当時、朝鮮半島の全人口のわずか1.3%(219,220人)でしかなかったことというのに、この運動の全逮捕者中のプロテスタントの割合は17.3%にも達しています。もっとも、これは植民地当局によって彼らが必要以上に警戒の対象とされたためでもあります。この三・一運動を契機として、プロテスタントは増勢にはずみがつくことになります。(http://homepage1.nifty.com/tkawase/osigoto/shisoushi01.htm及びhttp://members.at.infoseek.co.jp/konrot/bunka15.htm。いずれも11月19日アクセス))

  ウ 民主化運動
 戦後の1960年代以降の韓国の軍事独裁下において、民主化運動の中心的担い手となったのは、学生と一部キリスト教勢力でした(http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/law/lex/99-2/Kimu.htm。11月19日アクセス)。民主化運動の過程で韓国のキリスト教徒の数は再び拍車をかけられた形で増加します(http://members.at.infoseek.co.jp/konrot/bunka15.htm上掲)。
小倉紀蔵東海大学教授は、「かつて民主化運動華やかなりし頃、運動は・・<韓国のカトリックの中心である>明洞・・聖堂をひとつの巨大な求心力として展開していった。ミサで金寿煥枢機卿が何を語るか、ということが国民の大きな関心事であった。明洞聖堂の敷地は国家権力に対するアジール(逃避場)として、民主化運動家たちの聖地であった」と指摘しています。

2 韓国のキリスト教の特徴

 (1)原理主義的側面と混淆主義的側面の並存
 ア 総論
小倉氏(既出)は韓国のキリスト教について、「この国におけるキリスト教信者の類型は二つである。ひとつは、儒教的「理」(仁義)に代わる新しい水平的な「理」として理性的な信仰を生み、抗日運動や民主化運動の重要な部分を担った。社会のエリート層の信仰はこの類型である。これに対してもうひとつの類型は、シャーマニズムおよび仏教を吸収し、魂の救済の側面を強めながら膨張した。抑圧され貧しい生活にあえぐ庶民の信仰はこれである。私は前者を〈理のキリスト教〉、後者を〈気のキリスト教〉と呼ぶ。・・しかしこう区分したからといって、前者が「気」を排除するものであるとか、後者は「理」に対抗するものであるなどと把えてはならない。理気はつねに不相離(相離れず)なのである。ただ、信者の存立する精神的基盤が両者のうちどちらにあるかを示したにすぎない。」と総括しています。
小倉氏の言う二つの類型を、私の言葉に置き換えると、原理主義的側面と混淆主義的側面ということであり、韓国におけるキリスト教の特徴は、儒教の朱子学に由来するこの二つの側面が並存しているところにある、ということです。
(以上、http://www.onekoreanews.net/20031119/bunka20031119002.htm(11月19日アクセス)による。)

 イ 原理主義的側面
韓国のキリスト教の原理主義的側面を象徴するのが、(イスラム世界においてこそ、コーランの暗記に努める信者はめずらしくありませんが、)韓国のキリスト教徒の中に聖書の暗記に努める人々が多いことです。韓国のキリスト教徒は、世界で最も聖書の内容に通暁した人々であるとされています。

 ウ 混淆主義的側面
韓国のキリスト教の混淆主義的側面としては、韓国古来からのシャーマニズム的伝統に則して、巫堂(ムダン。巫女)的神父や牧師等に祈祷や悪魔払いを通じて奇跡を起こしてもらい、病気の平癒や現世利益を得ようとする信徒が多いことです。
このような信徒の典型が、地方出身で都市に住む中高年の女性です。
(混淆主義的側面が行き過ぎて、キリスト教の枠をはみ出してしまい、カルトに堕してしまった一例が、文鮮明が創始した統一心霊教会です。)
(以上、http://members.at.infoseek.co.jp/konrot/bunka15.htm前掲、http://www.kansaikorea.org/v2/Facts_about_Korea/facts_about_korea11.php前掲及びhttp://www.sofukan.co.jp/books/54.html(11月19日アクセス))

(続く)