太田述正コラム#0542(2004.11.23)
<アルジェリア紛争の教訓(その3)>

 (3)民族解放側による対民間人テロ
 他方、アルジェリア独立紛争は、パレスティナ紛争におけるパレスティナ側にとって不吉な教訓を呈示しています。
 アルジェリア独立紛争において、FLNは現地フランス人の民間人をテロの対象としました。FLNの指導者のベンベラ(Ahmed Ben Bella。アルジェリア独立後大統領となる)は、対民間人テロはフランス軍のように戦車や航空機を持たないFLNにとってやむをえない最後の手段だと弁明したものです。
 しかし、一旦対民間人テロに手を染めると、テロに歯止めがきかなくなりがちです。
対民間人テロは、フランス側のスパイ狩りから始まって次第に解放勢力間の内ゲバの手段として用いられるようになって行きます。対民間人テロはまた、フランス側からの対アルジェリア原住民テロや強圧的弾圧を誘発し、それがFLNによる一層大規模な対民間人テロを呼び起こして行くのです。
こうしてアルジェリアは、暴力の文化とでも言うべきものに冒されてしまい、構造的な反民主主義的傾向・腐敗・非効率性がアルジェリア社会に蔓延することになるのです(注5)。

(注5)対民間人テロを最小限に抑えたネルソン・マンデラ(Nelson Mandela)が率いたANC(African National Congres)の南アフリカにおける黒人解放武力闘争の勝利(アパルトヘイト体制打倒)後の南アフリカにおける民主主義の確立と平和の維持、は好対照だ。

こうして見てくると、ここまではPLOを中心とするパレスティナ解放勢力がたどった道と生き写しであり、いかにパレスティナ解放勢力がアルジェリア独立紛争から何も学んでいないかを示しています。
このままでは、(もはやありえないことですが)仮にパレスティナ解放勢力が全面的に勝利したとしても、(ほぼ確定的ですが)イスラエル側の押しつけた条件を飲む形で「敗北」したとしても(コラム#321)、アルジェリアが経験したもう一つのアルジェリア紛争と同様の紛争がパレスティナで起きることは必至でしょう。腐敗したPLOとパレスティナがらみのイスラム教原理主義テロ組織との間の長期にわたる「内戦」です。
幸い、イスラエル側の押しつけた条件を飲む形の敗北でもPLOの全面的敗北ではありません。
アラファトの死去を好機として、PLOは、対民間人テロを行ってきたPLO内外の勢力と絶縁し、これら勢力の根絶を図るとともに、自らの腐敗体質を抜本的に改め、「敗北」後のパレスティナのあり方に真剣に思いを巡らせるべきなのです(注6)。

(注6)PLOは、FLNの場合とは違って、植民者をイスラエル「本土」に撤収させるだけでは済まず、その「本土」から「追い出された」パレスティナ難民問題を解決する必要があり、また経済的に依存しつつイスラエルと共存して行く必要があることから、PLOの前途は困難に満ちている。対民間人テロを黙認し続けたり、腐敗にうつつをぬかし続けたりすることなど到底許されない、と言うべきだろう。

5 イラク情勢と二つのアルジェリア紛争

一繋がりの二つのアルジェリア紛争は、現在のイラク情勢(コラム#481??484、492、493、499、500)を理解する鍵も提供していることは、改めて説明を要しないでしょう。
アルカーイダ(コラム#191、193)とアルジェリアのGIA(前出)との密接な関係はさておくとしても、例えば、現在アルカーイダ系「戦士」とイラク国内系スンニ派不穏分子がゆるやかに提携しつつ、イラクの警察官や兵士への攻撃を執拗に行っていますが、これはアルジェリア独立紛争の時の戦法の踏襲です。
 しかし、よりマクロ的視点から言えば、アルジェリア紛争にせよ、現在のイラクにおける不穏分子の跳梁にせよ、豊かで成功した欧米に対するフラストレーションを克服するまっとうな方途を、イスラム世界、就中アラブ世界がいまだに見いだしていないことを示しているのではないでしょうか。
(以上、http://www.theaustralian.news.com.au/printpage/0,5942,11314459,00.html前掲(注7)、による。)

(注7)何度も本シリーズで典拠としたこの論考は、ホーン(Alistair Horne)という、英国のフランス史の専門家の手になるものだが、これは、現在のイスラム世界の病理は、長年隣人として抗争を続けてきた欧州文明によって生み出された部分があることを示唆している。いずれこの点はもっと掘り下げたいと考えている。

(完)