太田述正コラム#9583(2018.1.14)
<渡辺克義『物語 ポーランドの歴史』を読む(その25)>(2018.4.30公開)

 法と正義が再度権力の座に就くと、・・・カチンスキは・・・同じ諸間違いをしないよう、より賢明になって戻ってきた。・・・
 <すなわち、>彼らは、自分達の諸行動を、法的不可能主義の除去から始めたわけだ。・・・
 その最初の動きは、ポーランドの諸法を審査する権限が与えられているところの、憲法審判所(Constitutional Tribunal)を取り壊すことだった。
 彼らは、非友好的な裁判官達を異動させ、かつて強大であった機関がこの党のためにめくら判を押すだけの存在になるようにした。・・・
 <彼らが起草した、>この新しい諸法を詳しく読むと、彼らの真の意図が見えてくる。・・・
 この二つの法案群の背後にある考え方は、要するに、裁判官達の任命権を持っているところの、国家司法評議会(national judiciary council)を完全に支配(control)しよう、ということだ。・・・
 そして、この任命権を持つ委員会を支配下に収めた暁に、必要になるのは複数の空きだ。・・・
 <新しく定められる(?)>停年が最高裁における複数の空きを生み出す。
 ・・・<その上で、>政府が従順(になった)司法機構(system)を使って、古い諸敵と政治的ライバル達を追及するために使われることが懸念されるのだ・・・。
 ・・・新しい条項があって、事実上、過去20年間の全ての裁判を再審理することを可能にするところの、特別非常上訴(special extraordinary appeal)として知られるところの何か<が規定されている。>
 この新しい法的手段(tool)の結果として、今後3年間に100万件を超える裁判の再審理が行われることになろう・・・との憶測<もある。>
 ・・・<また、>カチンスキ氏と彼の党は、保守的諸価値に立脚し、かつ、共産主義の時代にまで遡る有害な(pernicious)諸敵がパージされたところの、「第四共和制」を設立する計画なのではないか、と<いう>恐れ<もある。>・・・

⇒革命というものは、裁判を含む、過去の国家権力による諸決定が遡及的に覆されるということなのであり、ポーランドも、ソ連圏を離脱した時にそれをやっているはずですが、それが不十分であったということであれば、革命を完遂するために、過去の裁判を覆すことは当然でしょう。
 また、憲法無用論の立場に立たないとしても、憲法の硬性が大き過ぎることは、それによって機能不全に陥り、瓦解した、かつてのポーランド・リトアニア共和国(第一共和国)の轍を踏まないためにも好ましくない、と私自身も思います。
 更に言えば、最高裁の裁判官達を含め、その任命権を、少なくとも事実上行政府が掌握するのは、少なくとも、アングロサクソン系の諸国においては常識(コラム#省略)であり、この点でもカチンスキらの考え方は間違っていない、と私は思います。
 私自身の基本的な見立ては、ポーランドの現行の第三共和制(1989年~)は、ソ連によって粉砕された1956年のハンガリー動乱、同じくソ連によって粉砕された1968年のチェコスロヴァキアのプラハの春、そして、結局失敗に終わった1980年代後半におけるソ連のペレストロイカ(注65)、の同類項であって、マルクスレーニン主義(スターリン主義)からマルクス主義への回帰をタテマエ上ないし事実上目指す試みであるところ、人民の人間主義者化を図る方法論を持ち合わせていないことから、外国による妨害の有無にかかわらず、早晩失敗することが運命付けられている、というものです。(太田)
 
 (注65)ハンガリー動乱時に同国の首相であったナジ・イムレ(1896~1958年)は、「一党独裁体制の解体・ワルシャワ条約機構からの脱退とハンガリー中立の表明など次々と民主化・自由化政策を打ち出した。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%82%B8%E3%83%BB%E3%82%A4%E3%83%A0%E3%83%AC
 また、プラハの春の理論家となったズデネク・ムリナーシ(Zdeněk Mlynář。1930~97年)は、モスクワ大学法学部留学中に、同学部学生であったゴルバチョフ・・ペレストロイカの主導者・・に強い影響を与えている。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BA%E3%83%87%E3%83%8D%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%83%A0%E3%83%AA%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%82%B7
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%B4%E3%83%AB%E3%83%90%E3%83%81%E3%83%A7%E3%83%95

(続く)

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