太田述正コラム#9585(2018.1.15)
<渡辺克義『物語 ポーランドの歴史』を読む(その26)>(2018.5.1公開)

 これまでのところ、EUの外では、反応はにぶいまま推移している。
 この法規(legislation)が法律になった、わずか一日後に、ポーランドの新首相のマテウシュ・モラヴィエツキ(Mateusz Morawiecki)<(注66)>は、英国との防衛協定、及び、英国がEUを脱退した後の在英の百万人のポーランド人達の諸権利を守るとの約束を発表するために、ワルシャワで英首相のテレサ・メイと並んで立った。

 (注66)1968年~。ポーランドの政治家、管理者、銀行家、エコノミスト、弁護士、歴史学者にして、蔵相、開発省、副首相を経て現在首相。「連帯」の過激派が分離してできた「闘う連帯(fighting solidarity)」創設者のコメル(Komel)の息子。叔母のうち2人がユダヤ系。ヴロツワフ工科大学、 ヴロツワフ経済大学、 ハンブルク大学、 バーゼル大学、 ヴロツワフ大学、ヴロツワフ工科大学、 ヴロツワフ経済大学、 ハンブルク大学、 バーゼル大学、 ヴロツワフ大学、等で学ぶ。
https://en.wikipedia.org/wiki/Mateusz_Morawiecki
 コメル(1941年~)はヴロツワフ大学で理論物理学博士号取得。
https://en.wikipedia.org/wiki/Kornel_Morawiecki

 メイ氏は、諸裁判所を巡る争い(battle)についてうやむやな態度を取った。
 「これらの憲法的諸問題は、通常、そして、もっぱらそうあるべきなのだが、それに関わっている国の国内問題だ(a matter for the individual country concerned)」、と彼女は述べ、EU本部との諸交渉があらゆる懸案諸問題を解決するであろうことを希望している、と表明した。
 同じように、米国は、ポーランドを批判することを回避しており、ポーランド政府は、トランプ政権の好意的姿勢を引き出すべく引き続き努力している。
 <例えば、>国連総会が圧倒的多数で、米国政府がエルサレムをイスラエルの首都として承認したことを非難した際、ポーランドは、棄権した米国の同盟国数か国の中に入っていた。・・・」
https://www.nytimes.com/2017/12/25/world/europe/poland-eu-judicial-laws.html?rref=collection%2Fsectioncollection%2Fworld&action=click&contentCollection=world&region=stream&module=stream_unit&version=latest&contentPlacement=2&pgtype=sectionfront
(12月26日アクセス)

⇒先述した私見を踏まえれば、英米両政府の本件に対する姿勢の拠って来る所以がお分かりいただけるのではないでしょうか。(太田)

 「社説:・・・欧州の極右は、予想された通りの怒りを爆発させた。
 顔の見えない官僚機構が主権国家を意のままにしようとしていると非難しつつ・・。
 ハンガリーの政府寄りの日刊紙であるMagyar Hirlapは、これは、EU本部がイスラム教徒たる移民達の定着(resettlement)に反対する諸国を処罰しようとしていることの証拠だ、と獅子吼した。・・・
 実際のところは、それは、懲罰的というよりは象徴的な動きなのだが・・。
 ポーランドには、欧州委員会(European commission)から諸懸念事項を正すのに3か月が与えられているところ、仮に従わなかった場合に、EUがポーランドから現実に投票権を剥奪するためには、他の加盟諸国全部の同意を必要とする。
 そのうち、ハンガリーは、この種のいかなる措置にも拒否権を発動する、と宣明している。
 しかし、EU史上初めて<欧州連合条約>第7条が援用されたことだけをとっても、これは、ポーランド政府及び法と正義の強力な指導者であるヤロスラフ・カチンスキ、に対する尋常ならざる叱責であるわけだ。・・・

 (注67)「<欧州連合>条約
< https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AC%A7%E5%B7%9E%E9%80%A3%E5%90%88%E5%9F%BA%E6%9C%AC%E6%9D%A1%E7%B4%84 >第2条・・・は、EUの基本原則(価値)として、一、人間の尊厳の尊重、二、自由、三、民主主義、四、平等、五、法の支配、六、少数派に属するもの<の>権利を含めた人権の保護を挙げている。同条はプログラム規定としての性格を有するに過ぎないが、EU法の解釈に際し重視されている・・・。 なお、EU加盟国がこれらの諸原則の重大な違反を犯す時、EU理事会は同国に対し、制裁を発動することができる(<欧州連合>条約第7条)。」
http://eu-info.jp/r/rights.html

 <いずれにせよ、>欧州委員会が第7条を援用したのは正しかった。
 但し、カチンスキ氏の追従者達と彼らの<お仲間である>欧州中のナショナリスト諸勢力に対する、彼らが越えてはならない諸レッドラインが存在する、との断固たる説明が更に続かなければならない。
 そうEU本部が欲しているからという説明ではなく、それが彼ら自身のためであるという説明を・・。
 独立した司法は、諸レッドラインのうちの一つなのだ。」
https://www.nytimes.com/2017/12/28/opinion/eu-poland-democracy-vote.html?rref=collection%2Fsectioncollection%2Fopinion-editorials
(12月29日アクセス)

⇒トランプによってその粗野で人種主義的な本性を露わにされたところの、米国の「右」たるキリスト教原理主義勢力も醜悪ですが、それ以上に醜悪なのが、以前から指摘しているところの、米国の「左」たるリベラルキリスト教勢力です。
 ニューヨークタイムスはその拡声器であるわけですが、本件でも、傲慢極まりない言葉でポーランド与党勢力を罵倒しています。
 イスラム系難民/移民に対する拒絶反応は、EU内に充満していて、「欧州中のナショナリスト諸勢力」はそれを素直に表明しているだけのことですし、ポーランドの司法改革については、既に指摘したことに加え、分権的過ぎたことも瓦解要因の一つであったところのポーランド・リトアニア共和国の悲劇を回避する狙いもあるはずだ、ということを付け加えておきたいと思います。
 すなわち、現在のポーランド政府は、ポーランドにおける、シュラフタ的な負の遺産を完全に解消しようともしているのだと・・。(太田)

(続く)