太田述正コラム#0551(2004.12.2)
<ウクライナ情勢(その2)>

3 今次紛争

 (1)根本的疑問
 問題は、以上のウクライナの歴史だけで、ウクライナの選挙をめぐるこのたびの紛争について説明できるかどうかです。
 到底説明はできません。
 独立後10年余にわたってウクライナの東西間の対立がこのように先鋭化した(注4)ことがなかったこと一つとってもそうです。

 (注4)例えば、東地区内のドネツク(Donetsk)地方議会は、164対1の圧倒的多数でウクライナ内の自治共和国となるかどうか、住民投票にかけることを議決した(http://www.guardian.co.uk/ukraine/story/0,15569,1361667,00.html。11月30日アクセス)。

しかし、ウクライナの東部がいかに重工業地帯としてウクライナの産業の中心であろうと、その製品の主たる顧客は西部であり、東部の「独立」など経済的に不可能であることは東部の住民を含め、ウクライナの人々はみんなよく知っています。どうも「分離」とか「自治」とかいうのは、青陣営の牽制球に過ぎない感は否めません(http://www.nytimes.com/2004/12/01/international/europe/01kiev.html?pagewanted=print&position=。12月1日アクセス)。
また、ウクライナ全体として見れば、ロシアの天然資源もEUの大市場もどちらもウクライナの経済的生存のために不可欠であり、本来ウクライナにとって、一方的なロシア寄り政策もEU寄り政策も成り立ち得ないはずです。
第一、青のヤヌコヴィッチが、橙のヤシュチェンコと比べて、政治家としての資質において、或いは政策において、本当に優れているのかどうかも疑問です。
ヤヌコヴィッチは現首相として経済の活況化に成功し、年金や公務員給与の倍増を実現しています(http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A18131-2004Nov28?language=printer。11月29日アクセス)。
他方、ユシュチェンコはヤヌコヴィッチと同様クチマ(Leonid Kuchma)大統領の下でかつて1999年に首相を務めたという点で代わり映えしないだけでなく、(在任が短期だったこともあるでしょうが)ヤヌコヴィッチと違って在任中さしたる業績を挙げていません。しかもユシュチェンコは当時、副首相のティモシェンコ(Tymoshenko)女史(注5)を始めとする(ロシアと同様、共産主義体制崩壊後、民営化を推進した政府とのコネで大金持ちになった)オリガーキーの側近に囲まれ、とかく腐敗の噂が絶えませんでした(http://www.guardian.co.uk/Columnists/Column/0,5673,1360296,00.html。11月26日アクセス)。

(注5)ティモシェンコは、現在の紛争において、橙陣営の雄弁な闘士としてユシュチェンコの片腕以上の役割を果たしているが、かつて独立後のウクライナで、天然ガス商権を握り、GNPの2割を支配したこともあると囁かれる大富豪の女傑だ(http://www.guardian.co.uk/ukraine/story/0,15569,1360112,00.html(11月26日付)。12月1日アクセス)。ちなみに、同女史に関する読売記事(http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20041201id31.htm(12月1日付)。12月1日アクセす)は、出た時期と(上記記事を短くしただけの)内容から見て、ガーディアンの記事のパクリであると断ぜざるをえない。

それなのに現在の紛争において、ヤヌコヴィッチ首相の政策によって勃興し裨益したはずの欧米寄りで自由・民主主義志向のウクライナの中産(ブルジョワ)階級は、こぞってユシュチェンコの橙陣営の下に結集しています(http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/4057839.stm。12月2日アクセス)。
これでは疑問は深まるばかりですね。

(2)米国陰謀説
 そこで、一部で唱えられているのが米国陰謀説です。
 しかもその説が、よりにもよって、あのガーディアンのしかも著名なコラムニスト二名によっても唱えられたとなれば穏やかではありません。
 この二つのコラムの主張は、簡単に言えば、反ユダヤのファシストグループが橙陣営の有力構成員である(http://www.guardian.co.uk/ukraine/story/0,15569,1360951,00.html。11月27日アクセス)ことも承知していながら、米国は、米国がいまだに仇敵扱いしているロシアの一層の孤立化を図るために、ウクライナを欧米陣営に完全に取り込むことをめざし、欧米寄りのポーズをとる橙陣営に対し、資金や組織面で梃子入れを図ってきており、選挙違反は橙陣営にも見られたにもかかわらず、一方的に青陣営の選挙違反をとがめ、ユシュチェンコの大統領当選を画策しており、ウクライナの欧米よりの人々をたぶらかし、扇動している(http://www.guardian.co.uk/Columnists/Column/0,5673,1360296,00.html。11月26日アクセス)、というものです。

 (3)ロシア失策説
 これに対し、ガーディアンは、記者や他のコラムニストが上記コラムニストを批判する記事やコラムを掲載しているほか、(ケリー支持では共同歩調をとった)米ワシントンポストまで、上記コラムニストを批判するコラムを掲載する、という面白い展開になっています。

(続く)