太田述正コラム#648(2005.3.4)
<日立製作所(その3)>
 販売委託契約が締結されなかった結果、私の口利きで商談がまとまった場合に
私が受け取る口銭の算定方法や私が口利きをする商品の範囲も曖昧なままとなった。
 私は不満だったけれど、販売委託契約は成立したという理解の下、口利きを始
めた。
 なぜか。
 相手は天下の日立だということで安心感があった上に、私は口利きをする場
合、アポとりをセクションにやらせた上で、口利き先と面会する際も必ずA等、
セクションの職員を同道するつもりだったので、いざとなったら口利き先は、私
が日立と何らかの契約関係にあると思っていたと証言してくれるだろうし、仮に
日立が背信行為を行うようなことがあれば、私の口利き先等(注7)が心証を害
し、結局日立が損をすることになる、と考えたからだ。
 (注7)「等」について:私は内局にこそ煙たがられているが、制服の間では
シンパが少なくない。他方、日立も防衛産業であり、とりわけIT部門は防衛庁と
深い関わりがある(コラム#647)。
 しかも、私はセクションが技術系職員ばかりで構成されており、営業の専門家
が一人もいないことに同情していた。セクションが法令遵守(compliance)面で
疎かなのは、そのためだ、と自分に言い聞かせていた。
 さて、私は三村青森県知事・広瀬大分県知事を始めとする地方公共団体首長等
数名に口利きを行った(注8)。このほか、私の友人数名に販売協力を要請した。
 (注8)日立は大分県庁との関係が疎遠であり、何かきっかけが欲しかった日
立の大分県事務所は、Aを同道した私の県庁訪問を大歓迎してくれた。この事務
所の責任者も、知事の執務室に一緒に入った。
 しかし、全く売れなかった。
 その最大の原因は、われわれがかついだ主力製品に大きな弱点があったからだ。
 しかし、その弱点はセクションが作成した、この製品の説明資料には掲載され
ていなかったし、私も聞かされていなかった。口利き先がなぜこの製品を買って
くれなかったのかについても、セクションから私にきちんとした報告はなかっ
た。この主力製品は米国のベンチャー企業の新製品だったが、不審に思った私が
自分でこの会社のサイトを調べて、この弱点を発見した。
 セクションが法令遵守面で遺漏があるだけでなく、情報開示面でも不十分であ
ることに私はあきれた。この弱点が是正されない限り、この主力製品は売れない
だろうと思い、私は当分口利きは見合わせることにした。
 2004年9月初旬、人を介して、セクションから、Aが上司と衝突した結果、9
月末でセクションの責任者からはずされ早晩日立を退職させられること、セク
ションは業務を大幅に縮小し、私が口利きを実施してきた一連の製品は取り扱わ
ないことになったこと、これに伴い、私との関係を終了したいこと、を連絡して
きた。
 そこで、私はメールでA宛てに、
ア 私が口利きをした先々とセクションとの間で今後商談が成立した場合、私と
の関係はどうなるのか。((注8)参照。)
イ 私の友人に、彼の主宰しているフェアへのセクションの主力製品(上記)の
出品を依頼し、内諾を得ているが、どうするのか。
ウ セクション(日立)から私に感謝状を発出してほしい。
という三点をぶつけ、AまたはAの後任から私への返事を求めた。
 これは、セクションと私との間の契約が依然有効であるとの前提の下で、契約
終了の条件を提示したものだ。
 感謝状の趣旨は、契約書もなく、契約内容も確定していない状況下、しかも情
報開示も不十分であったにもかかわらず、私は、結果的に無償で、セクション
(日立)に貢献したのだから、きちんと謝意を表して欲しい、ということだ。
 これに対して直接の返事はなかったが、またもや人を介して、イはなくなっ
た、と連絡があった。
 これで実害はなくなったと思い、私は馘首されることになったAをこれ以上追
及するのはしのびないので、ネゴを中止した。
 ところが、である。12月に入ったばかりの頃、私はイスから飛び上がらんばか
りに驚いた。
(続く)