太田述正コラム#647(2005.3.3)
<日立製作所(その2)>
 仙台勤務になって、半年以上経過し、新職務に慣れ、仙台局がかかえていた一
連の懸案事項も片づいたこともあって、私は、庁OA問題にケリをつけるべく、不
本意ながら、ある政治家に事情を説明して介入してもらうことを決意した。しか
し、人を介してご本人に面会を申し込んだところ、相手が大物で超多忙であった
ために、なかなか返事が来ない。
 その間、念のために本庁(防衛庁)に電話を入れて、グループウェアがどう
なったかを確認してみた。
 すると、驚くべきことに、日立が内局に対し、グループマックスからノーツへ
の切り替えを要請してきたため、内局もその要請に従わざるをえなくなり、全機
関がノーツを採用するに至り、結果として全庁のグループウェアは統一されたと
いう。(正確に言えば、一つの幕はノーツではなく、ノーツ・ドミノを採用した
のだが、この二つの製品はどちらもIBMの、(これも正確に言えば、IBMが買収し
たばかりの米ロータス社の)しかも相互互換性のある製品なので、全く問題はな
かった。)
 以上が事実関係です。
 その時の私の解釈は、日立としては、防衛庁のグループウェアの不統一が将来
不祥事としてマスコミや国会で取り上げられ、そのとばっちりが日立に及ぶのを
避けるために、(グループウェアに係る営業収入こそ計算上少し減るけれども、
庁OAに係るハード・ソフト全般にわたってのシステムの内局等への納入業者とし
ての地位は確保済みなので、総営業収入に殆ど差は生じないとの前提で)このよ
うな行動をとった違いない、というものでした。
 私は、30年弱の防衛庁勤務において、企業に直接関わる仕事をしたことは余り
ないのですが、このグループウェア問題等を通じ、日本の歴とした大企業であっ
ても、商道徳に反することや場合によっては違法なことも厭わず利益追求を図ろ
うとする場合がある(注5)が、利益を確保しなければならないという歯止めが
かかるので、極端に非合理的な行動はとらない、という認識を持つに至っていま
した。
 (注5)緊急事態が発生したことに伴い、日本の著名な某重機メーカーと、急
遽同社保有の巨大可動機器を借り受ける交渉をすることになったところ、私が政
治加算して心づもりしていた金額の三倍もの巨費をふっかけられて腰を抜かした
ことがある。しかも、要求額の積算内訳は、(個々の経費に水増しがあることは
当然として)ほんの少し原価計算のたしなみがあれば、二重計上が随所にあるこ
とを見破れる杜撰なものだった。こちらを内局のフツーのキャリア並の原価計算
音痴とふんでのことであったろうが、とんだところで、昔受けたMBA教育の痕跡
が役に立ち、ことなきを得た。
 つまり、吉田ドクトリンによって毒され、国益の確保という歯止めを失って堕
ちるところまで堕ちてしまった大部分の中央官庁・・グループマックスに固執し
た防衛庁内局がその典型です・・に比べ、(利益が確保できなくなれば破綻する
だけに、)同じ官僚機構であっても、大企業の方がまだマシだ、と認識するに
至っていた、ということです。
3 日立IT部門との二度目の関わり
 ところが私は、日立IT部門との二度目の関わりを通じ、この部門の、というよ
り恐らく日立という会社そのものの、まことに非合理的な行動に遭遇することに
なるのです。
 ことの経緯は次のとおりです。
 
 (本稿の以下の記述は、日立の特定の個人の批判をしたり、責任を追及したり
することを目的とするものではなく、日立を例にとって日本の大企業の病理の一
端を白日の下に晒すことが目的であるので、日立の登場人物の名前や肩書きは伏
せることとした。他方、日立以外の登場人物については、公人に限って、名前や
肩書きを記した。)
 2003年10月、コンサルタント業をやっている私の友人aから、日立IT部門に新
しい面白いセクション(以下「セクション」という)ができたので、行ってみな
いかと誘われ、東京の中心部のビルにあるセクションを訪問した。
 セクションの責任者Aと顧問Bがわれわれ二人を応接した。後から知ったのだ
が、Bは日立の取引先企業αからの派遣社員だった。
 この四人でセクションの業務についてブレーンストーミングを行った後、Bか
らaと私に対し、コンサルティング(セクションのコンセプト作成)とある製品
販売の口利きをやってくくれないかと依頼があった。結論から言うと、aはコン
サルティングを、私は口利きを引き受けることになった。
 その後、すぐに問題が起こった。
 aは、形式上はα、しかし実質上はセクションとの間でコンサルタント契約を取
り交わした(注6)のに、私との販売委託契約がいつまでたっても締結されない
のだ。
 (注6)日立と取引できる会社は限定されており、新規に日立と取引したい会
社等は、日立と取引できる会社を経由して行わなければならないことになってい
る。こんなシステムにしている理由が、今でもよく分からない。
(続く)