太田述正コラム#0656(2005.3.11)
<分かりにくいレバノン情勢(その1)>

 (2月(11日)??3月(10日)のHPへの訪問者数は、残念ながら、17670人と、最近では最も少なかった昨年10月??11月の18549人を下回ってしまいました。もっとも、31日間と28日間の差があるので、これを勘案すると、ペース的にはこの時の一ヶ月間を上回っており、一喜一憂する必要はないのかもしれません。(昨年11月??12月に24310人という、最高記録を達成。)しかし、メーリングリスト登録者数は、1204名と、一ヶ月前に比べて12名も減りました。(掲示板に掲げた数字、1203名は誤り。)訪問者数とメーリングリスト登録者数の挽回に向けて、読者の皆さんのお力添えをよろしく。)

1 始めに

 レバノンを訪れたのは、小5の時の1959年の夏、エジプトから日本に戻るちょっと前だったと思います。
 ベイルートの瀟洒な町並み、地中海の青、そして透き通るように蒼い空。荒野の中に屹立するバールベック遺跡。旅の間、私の側らには、いつも亡くなった父と母がいたはずなのですが、記憶の中に登場してくれません。もどかしい限りです。
 当時、レバノンには「アラブ世界で最も活動的で機略に富んだ心暖かい人々が住み・・レバノンは、アラブ政界の知的・政治的前衛(catalyst)の役割を果たしていた」のですが、その後のキリスト教徒・イスラム教徒・PLOの三つどもえの内戦にイスラエルが一枚加わった戦乱により、レバノンは見る影もなくなってしまいました。
(以上、http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn/A22109-2005Mar9?language=printer(3月10日アクセス)による。)
 さて、今回はどうしてレバノンなのか?
 それは、コラム#652(アラブ世界における自由・民主主義化のうねり)とコラム#654(EUによる対中武器禁輸解除問題の本質)それぞれにおける私の主張に、一見相反する動きがレバノンで見られるからです。
 読者の皆さんからの疑問・反論を心待ちにしていたのですが、やはり、皆さんにとっては、レバノンは遠くの小さな国なのでしょうね。どなたも何も言ってこられません。
 そこで、私の方からお話しすることにしました。

2 米仏協調?

 コラム#654で、「フランスはドイツとともに、或いは中国と提携して、外交的に米国の行う「戦争」の足をひっぱり、国連安保理ではお墨付きを与えることに抵抗し、米国に各国が加勢することを妨げ続けるでしょう」と指摘したところです。フランスは、ことあるごとに米国の邪魔をするだろう、ということです。
しかし、レバノンに関しては、米仏両国が手を携えて、昨年9月国連安保理で、シリア軍(まだ14,000人もレバノンに駐留)の撤退(注1)とヒズボラ(Hezbollah)(注2)の民兵組織の解散を求める決議1559号を採択しています(http://www.isn.ch/news/sw/details.cfm?ID=10478。3月11日アクセス)。

 (注1)シリア軍のレバノン進駐は、もともと、1976年に米仏の了解の下に行われたものであることを考えると感慨深いものがある。進駐の目的は、不文憲法に基づいてレバノンの政治権力を掌握してきたかつてのレバノン多数派、しかしその後少数派となったキリスト教徒が、イスラム教徒との内戦の結果、政治権力を失いそうになったため、これを阻止するために行われたものだ。米国は世界の覇権国として、またフランスはレバノンの旧宗主国として、親欧米のキリスト教徒を救援するために、レバノンに食指を動かす独裁国家シリアを利用した、という構図だ(http://www.guardian.co.uk/Columnists/Column/0,5673,1434294,00.html。3月10日アクセス)。
 (注2)ヒズボラは、1982年のイスラエルの(レバノン内のPLO討伐を目的とした)レバノン侵攻を契機に結成されたところの、シーア派の原理主義的テロリスト団体であり、イランの強い影響下にある。ヒズボラは、衛星テレビ局やラジオ局を持ち、学校・病院等をシーア派住民のために運営しており、最近では、レバノン議会に議員も送り込んでいる。(http://cfrterrorism.org/groups/hezbollah.html。3月11日アクセス)

 私の主張は誤りなのでしょうか。
そんなことはありません。実のところレバノンに関しては、米仏は全く同床異夢なのです。
 米国のブッシュ政権は、2002年の春以来、一貫して中東の現状(status quo)を打破する政策を追求してきており、ハリリ元首相暗殺を契機として澎湃として沸き上がった、キリスト教徒を中心とする反シリア民衆運動(Cedar Revolution)を好機として、レバノン、更にはシリアの現状を打破し、自由・民主主義化を推し進めようとしているのです。
 これに対してフランスは、レバノンの旧宗主国として、親欧米であるところのキリスト教徒を支援し、シリアの影響力を排除することによって、キリスト教徒の政治権力を再確立し、自らのレバノンへの影響力を回復しようとしているのです。つまりフランスは、レバノンを過去に引き戻す形で安定させようとしているわけです。
 このように、片や現状打破を目指す米国、片や過去の安定を回復しようとするフランス、と両者の思惑は180度異なっているのです。
 (以上、ワシントンポスト前掲による。)

(続く)

<読者>
レバノン、シリアなど、この地域に関心を持っている者です。シリア軍がレバノンから撤退を開始しましたが、この撤退の今後の見通し、撤退後のレバノン国内の見通し、他のアラブ諸国、イスラエル、米国などが今後どのように動くのかについて関心を持っています。シリア軍の撤退は、当地域をより不安定にする効果があるのではないかと思っています。

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