太田述正コラム#9941(2018.7.12)
<松本直樹『神話で読みとく古代日本–古事記・日本書紀・風土記』を読む(その23)>(2018.10.26公開)

 「・・・一書を含めて日本書記全体を眺め、時に古事記が伝えるような内容をも頭において読むことで、はじめて・・・イザナキ・イザナミが「天」を担い「天」から降りてくることが理解できるのである。

⇒耳タコでしょうが、大和王権当局が、記紀プラス風土記、の三本立てにしたのはどうしてか、ますます、分からなくなりました。(太田)

 <その>段の主文では、「陰陽二元論」と、「天主導の国作り」の原理とが混在しているのだが、その違和感は、<建国神話>の常識が解消してくれるのである。・・・
 イザナキ・イザナミは、山・川。草木などを生み、次に・・・「天下(あめのした)の主者(きみたるもの)」を目指す。
 まず「日の神」が誕生し、・・・<この神を>「光華明彩(ひかりうるは)」しく、イザナキ・イザナミ自身も「これほど霊威の優れた子はいない」と絶賛し<つつも、>・・・続いて「月の神」・・・を生<んだ時点で>・・・日の神(太陽神)と月の神(太陰神)<の二柱>を「天下の主者」に指名して、「陰陽二元論」を徹底させ<ることなく、>・・・イザナキは早々に隠去してしま<うばかりか、>・・・この後、月の神・・・ツクヨミ<(注57)>・・・も主文の中に二度と顔を出すことがない。
 
 (注57)「一般的にツクヨミと言われるが、伊勢神宮・月読神社ではツキヨミと表記される。・・・後世では一般に男神と考えられているが、記紀では性別の記述はない。・・・
 記紀(古事記と日本書紀)において、ツクヨミは伊弉諾尊(伊邪那岐命・いざなぎ)によって生み出されたとされる。月を神格化した、夜を統べる神であると考えられているが、異説もある・・・。天照大神・・・の弟神にあたり、須佐之男・・・の兄神にあたる。・・・
 <ツクヨミの>支配領域の不安定ぶりはアマテラスとツクヨミの神話に後からスサノオが挿入されたためではないかと考えられている。ツクヨミはスサノオとエピソードが重なることから、一部では同一神説を唱える者<も>いる。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%84%E3%82%AF%E3%83%A8%E3%83%9F
 「月読神社(つきよみじんじゃ、月讀神社)は、「月読(月讀)」を社名とする神社。そのほとんどは月読命(ツクヨミ)を祭神とする。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%88%E8%AA%AD%E7%A5%9E%E7%A4%BE
 他方、「月読(月讀)」を社名としないが月読命(ツクヨミ)を祭神とする神社に、京都府亀岡市の小川月(おがわつき)神社がある。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E5%B7%9D%E6%9C%88%E7%A5%9E%E7%A4%BE

 つまり「陰陽」が揃うことは<その>後一切ないのだ。・・・
 <そもそも、><建国神話>の理念は「天による統治の思想」に他ならない(戸谷高明<(注58)>・・・)。

 (注58)「早稲田大学教育学部教授」
https://ndlonline.ndl.go.jp/#!/detail/R300000002-I5412992-00
 著書、『古代文学の天と日―その思想と表現』、『古事記の表現論的研究』、『古代文学の研究』 (1965年)、『万葉景物論』、『古代文学の思想と表現』、
https://bookmeter.com/books/3710601
『故事ことわざ活用辞典』(1993年)、
http://tsutaya.tsite.jp/item/book/PTA0000GQLWY
『要点の学習 日本文学史』。
http://tsutaya.tsite.jp/artist/PPS0000ACEK7?sc_int=tsutaya_item_book_personal_check_normal_package

⇒このくだりで、松本が、わざわざ、神野志ではなく、戸谷を引用した理由が定かではありませんが、詳しい経歴は分からないものの、戸谷、学者としての生産性は高そうな人物ですね。(太田)

 <そのためには、>まず、「天」があり、その後に「天の下」が定ま<らなければならない>のである。
 この常識の中で、日本書記主文が「陰陽二元論」を貫くことには無理があったのではないだろうか。
 だから、陰陽二神は、まず<アマテラスという>「天」の主宰神を<事実上>定めたのではないか。
 日本書記主文では、この後、「天」<、すなわち、アマテラス>主導の国作りが展開するのであった、「陰」の影などまったく見えなくなるのである。」(183、184~186 )

(続く)