太田述正コラム#706(2005.4.28)
<風雲急を告げる北東アジア情勢(その12)> 
 しかし、中共当局としては、これらのコストはすべてあらかじめ織り込み済みだった、と考えられます。
 その上で、予定通り進行させ、目的も達成したので反日行動を収束させた、ということなのでしょう。

  イ 不協和音
 今回の反日行動は、秘密厳守のため、胡錦涛政権の首脳レベルを含めた、ごく限られた人々だけで企画し、実行に移したはずです。
 だからでしょう、政権の内部から不協和音が聞こえて来ました。
 国営の上海解放日報(The Liberation Daily of Shanghai)は25日付の論説で、「種々の事実を総合すると、最近起きた非合法デモは愛国的運動ではなく、非合法な行動であったことが明らかだ。・・あれは大衆の自然発生的な運動であったのではなく、背後で何者かが操っていたのだ。・・いくつかの場所で行われたデモは、隠された目的を達成するためのものであったことが判明している。・・共産党員はこの闘争の本質を見抜くと同時にその重大さを理解する必要がある。」と訴えました。
 今回の反日行動が自然発生的なものであった、と一貫して主張している党中央の見解とは180度違う見解をあえて公にする、というのはただごとではありません。
 この新聞の論説は、上海市の共産党当局の意向を受けて書かれることになっており、このことと、上海市が、反日行動に参加して破壊活動に従事した42名もの人物を既に拘束するとともに、破壊活動従事者には賠償責任を追及する(http://www.asahi.com/international/update/0427/008.html?t。4月28日アクセス)と発表したことからも分かるように、他の地域に比べて、特に熱心に反日行動の事後的弾圧に努めていることとを併せて考えると、これは、反日行動を実行した党中央に対する、上海市の共産党当局による異議申し立てである、と見ることができそうです。
 確かに、今回のような反日行動は、中共の中で最も国際化し、最も繁栄し、かつ極めて親日的な都市である(注16)上海市のイメージを著しく傷つけるものであり、市当局=市共産党当局が、党中央に対し、怒り心頭に発していても不思議はありません。
 とはいえ、党中央に考えを一にするグループがなければ、上海市の共産党当局がこんな大胆な動きに出られるわけがない、と考えるのが自然であり、中共当局内部に対外政策を巡って深刻な抗争があるらしいことが推察できます。
 (以上、特に断っていない限りhttp://www.nytimes.com/2005/04/27/international/asia/27china.html?pagewanted=print&position=(4月28日アクセス)による。ただし、部分的に私見を織り交ぜた。)

4 再び台湾での動き

 このシリーズ冒頭(のコラム#687)で、台湾の国民党副主席の3月の中共訪問を取り上げましたが、現在、同党の連戦(Lien Chan)主席が中共を訪問中であり、胡錦涛(Hu Jintao)中共主席との会談が予定されています。
 近々、親民党の宋楚瑜(James Soong)主席も訪中し、胡錦涛と会談する予定です。
 陳水扁(Chen Shui-bian)総統は、台湾独立派なので、中共からお呼びがかからないわけです。
 (以上、http://www.nytimes.com/2005/04/26/international/asia/26cnd-chin.html?pagewanted=print&position=(4月27日アクセス)による)。
 国民党副主席の中共招待も、反国家分裂法の採択も、反日行動も、その収束も、そしてまたこの連戦主席招待も、ことごとく、「反日ナショナリズムの代わりに(漢人)民族主義的イデオロギーを掲げ、台湾の非平和的手段による「奪還」を追求する方針」を決定した(コラム#690)中共当局が、この方針に基づいてさっそく打った一連の布石である、と考えられます(NYタイムス上掲)。
 連戦のこの中共訪問については、明の遺臣として台湾を統治してきた鄭家の最後の頭領・鄭克?(Zheng Keshuang。鄭成功(Zheng Chenggong)の孫)の1683年の清への投降になぞらえたり(http://www.taipeitimes.com/News/edit/archives/2005/04/25/2003251933。4月26日アクセス)、訪中に反対して、連戦が出発した台北の空港で台湾独立派の最右翼の台湾建設連盟が訪中賛成派に殴り込みをかけたり(http://news.ft.com/cms/s/977ce73a-b638-11d9-aebd-00000e2511c8.htmlhttp://www.tokyo-np.co.jp/00/kok/20050427/mng_____kok_____002.shtml。4月27日アクセス)、にぎやかなことでした。
 陳水扁政権は、連戦や宋楚瑜の訪中に反対していたのですが、中共側と合意を結ばないという条件で、訪中を認める姿勢に転じました(NYタイムス上掲)。
 これは、台湾世論が連戦訪中に賛成か反対かで真っ二つに割れているものの、全般的に言って冷静かつ成熟した見方をしている者が多いこと(注17)(http://www.taipeitimes.com/News/taiwan/archives/2005/04/26/2003252032。4月27日アクセス)、国民党が中共と台湾の統一をめざしているとしても、それは中共が自由・民主主義化することが前提であり、自由・民主主義化路線を放棄した胡錦涛政権と自由・民主主義化した台湾の政党となった国民党との間には超えがたい溝がある(http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/4489739.stm。4月28日アクセス)という認識、からでしょう。

  • (注17)45%は連戦が中共当局と会うことに賛成で42%は反対であり、71%が連戦は陳水扁総統の承認なくして中共当局と合意を結んではならないとし、64%が連戦は台湾の人々を代表する権限がないとし、66%が連戦や宋楚瑜は訪中前に陳水扁総統に会うべきだとし(24%が会う必要なしとし)、50%が一年前に比べて中共の台湾政策はより敵対的になったとし(20%はその逆であるとし)、39%が今年台中関係は悪化するとし(31%は良くなるとし)た。

(続く)