太田述正コラム#705(2005.4.27)
<日中対話用メモ(その2)> 
 それにしても自分の耳を疑いました。
 本日(27日)王毅駐日中共大使は、講演の中で、靖国神社参拝に関する「紳士協定」が日中両政府間にあったと指摘した上で、「日本国民が靖国神社に行くことには何も言わない。政治家が行っても政治問題にしない。首相、官房長官、外相の3人だけは<靖国神社参拝に>行かないでほしい」と発言したのです(TV朝日の昼の「スクランブル」)。
 ちなみに、中曽根首相が公式参拝した翌年の1986年、中曽根内閣は後藤田官房長官談話で「戦争への反省と平和友好への決意に対する誤解と不信さえ生まれるおそれがある」として、「公式」参拝を差し控えることを表明し、爾来、1996年の橋本首相による参拝(公私を明らかにせず)まで首相による靖国参拝は行われず、その後再び首相による参拝は途絶え、これが本格的に復活するのは2001年に小泉首相が就任してから、という経緯があります(http://www.asahi.com/politics/update/0427/005.html?t5http://www.tokyo-np.co.jp/00/sei/20050427/eve_____sei_____002.shtmlhttp://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20050427k0000e010061000c.html(いずれも4月27日アクセス))。
 「紳士協定」があろうとなかろうと、靖国問題で中共側には理屈などなきに等しいことがこれではっきりしました。
 対外的には日本の元首である天皇(注5)や憲法上国権の最高機関である国会の衆参両院議長は参拝してもかまわないないのに、これらの人々より「偉くない」首相、そして更に「偉くない」内閣官房長官・外務大臣はだめだというのですから、官房長官も随分出世したものです。逆に、財務大臣も経産大臣も落ちぶれたものです。こういうことを内政干渉と言うのです。

  • (注5)A級戦犯が、1978年に靖国神社に合祀されていた事実が、1979年にマスコミに大きく報道された。戦後昭和天皇は数年おきに参拝していたが、合祀発覚以降、参拝を中止した。それ以降、春秋の例大祭などにおいては勅使が遣わされているものの、昭和天皇・平成天皇による参拝は途絶えている(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9D%96%E5%9B%BD%E7%A5%9E%E7%A4%B前掲)。

 揚げ足を取るようですが、閣内序列ナンバー2の副首相(副総理)が置かれ、この人物が官房長官または外相を兼務していない場合、この副首相は参拝してもかまわない、というおかしなことにもなりますね。
 もとより、首相が事実上日本の最高権力者であることは確かですが、首相は国会議員が選び、その国会議員は国民が選挙で選んでいるのであって、首相の権力は、あくまでも主権の存する国民の負託に基づいて行使されるに過ぎず、中共の共産党主席=国家主席のような独裁権力者とは全く立場が違うということも、中共当局は全く分かっていないようです。
 こんな王毅「妄言」があった以上、小泉首相が今年の靖国参拝をやめるわけにはますますいかなくなった、と思うのですがいかがでしょうか。

 (3)歴史認識/教科書問題について
  ア 教科書問題 
 日本は自由・民主主義国家ですから、様々な歴史観に基づく歴史書があり、それらが互いに競い合っています。当然、いかなる歴史的事実を取り上げるかについても、たとえ同じ時代を扱う歴史書であっても、それぞれ違いが出てきます。
 これが教科書となると、若干話は違って来ます。共産主義史観やファシズム史観等に基づく教科書は検定で排除され、広い意味での自由・民主主義史観の枠内における様々な史観に基づく教科書だけが検定を通ることになります。
 また、たとえ自由・民主主義史観に基づく教科書であっても、自国の醜悪な面にかかわる歴史的事実ばかりを取り上げているようなものは、やはり検定を通らないでしょう。これは、いかなる自由・民主主義国の教科書にも共通して見られるバイアスですが、自国が嫌いな若者を作ることが教科書の目的ではない以上、ある程度致し方のないことです(注6)。

  • (注6)例えば米国の典型的な教科書では、インディアン迫害史はほんの少ししか登場しないし、北部も奴隷制の維持に関わっていたこと・・奴隷の輸入貿易をほぼ独占的に行っていたこと・・も描かれていない(http://www.taipeitimes.com/News/edit/archives/2005/04/23/2003251640。4月23日アクセス)。

 いずれにせよ、自由・民主主義国相互であれば、かかるバイアスが大きすぎないかどうかを相互にチェックし合うことは可能であり、有益でもあるでしょう。
 ところが、中共では共産主義史観、しかも中国共産党史観、更に端的に言えば中共の現政権の史観しか認められておらず、しかも教科書は国定教科書であって、歴史教科書は、中共の現政権による国家の独裁的支配の正当性を国民にインドクトリネートするために作られ、用いられているのですから、教科書問題、ひいては歴史認識に関する対話を日中間で行うことなど到底不可能なのです。

(続く)

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