太田述正コラム#7282005.5.20

<イラク不穏分子という謎(後日譚)(その2)>

                      

 (3)やがて謎は解ける

イラク不穏分子は謎だというのは、イラクの状況が混沌としていて、1980年代の中米類似の状況なのか、50年近く続いている南米のコロンビア類似の状況なのか現時点ではまだはっきりしていないからに過ぎない、とするのがクリスチャン・サイエンス・モニターの記事(以下、特に断っていない限りhttp://www.csmonitor.com/2005/0518/p01s03-woiq.html5月18日アクセス)による)です。

この記事の要旨を、やはり私の言葉に直してみましょう。

中米では、左翼と右翼との間の国内武力紛争が次第に両者による権力の分かち合いと政治的競争の受忍へと止揚されて行ったのに対し、コロンビアでは、外国勢力の関与もあって、叛乱勢力が勝利も敗北もしない膠着状況が政府との間で続いている。

 現在のイラクが、果たしてコロンビア類似の状況なのか80年代の中米類似の状況なのかは、イラクの移行政府や今後の本格政府が、政府と不穏分子との間で洞ヶ峠を決め込んでいるスンニ派の一般市民を惹き付けることができるかどうかがはっきりする段階まで明らかにはならないのではないか。

 中米では、一般市民が、叛乱勢力ではなく政府の側を選択したのに対し、コロンビアでは40年以上一般市民がどちらとも決めかねている状況が続いたままであることが両者の明暗を分けている。

 現在のイラクと80年代の中米とを比較すると、80年代の中米の方が暴力と一般市民の難民化の程度が、現在のイラクより甚だしかった一方で、中米では、現在のイラクのような、外国系の、しかも神がかった叛乱勢力は存在しなかった。これだけ見ると、良い材料と悪い材料が相殺して、現在のイラクの状況は80年代の中米の状況並であるようにも思える。

 しかし、イラクにはコロンビア的な悪材料がそのほかにもある。

コロンビアでは、叛乱勢力は当初はマルクス主義を掲げる武力組織だけだったものの、やがてこれに対抗する右翼の複数の民兵組織が出現し、これら民兵組織が国際麻薬密輸等の犯罪集団と化し、こちらが叛乱勢力の中心となるに至って、紛争の解決は一層困難なものとなっている(注3)ところ、イラクでは、莫大な石油収入があり、麻薬がコロンビアに落とすカネと似た悪影響をイラクに及ぼしている(注4)。しかもイラクでは、営利誘拐業等に携わっている犯罪者達が横行し、これら犯罪者達の一部は不穏分子と提携している上、イラクはアフガニスタンからレバノン、そしてそこからアジアと欧州に至る国際麻薬密輸ルートの有力中継地となりつつあり、不穏分子と密輸商人との提携関係も成立しつつある(http://www.foxnews.com/story/0,2933,156395,00.html(5月19日アクセス)も参照した)。

 (注3)現在、右翼民兵/麻薬犯罪集団はコロンビアの三分の一以上の地域を事実上支配下に置いている。国際麻薬密売にはむろん海外の犯罪組織が関わっているし、米国はかねてからコロンビア政府に有形無形の梃子入れを続けてきている。

 (注4)フセイン時代には、スンニ派がイラクの石油収入を牛耳っていた。だから、彼らを手なづけるためには、彼らも石油収入の分け前にあずかれるようにすることが、洞ヶ峠を決め込んでいるスンニ派一般市民を手名づけるためには不可欠だ。

 だから、イラクがコロンビアなのか80年代の中米なのか、はたまたその間なのか、まだ何とも言えないのだ。

(以上、コロンビアについてはhttp://www.nytimes.com/2004/10/11/international/americas/11colombia.html?pagewanted=print&position=20041012日アクセス)、http://www.nytimes.com/2004/10/09/international/americas/09colombia.html20041013日アクセス)、及びhttp://www.csmonitor.com/2004/1102/p06s02-woam.html200411月2日アクセス)も参照した。)

 (4)コメント

 以上、NYタイムスの記事と、これに関連する二つの記事をご紹介してきましたが、このいずれについても、要旨をつくるのに大変苦労させられました。要するにどの記事も論旨が明晰ではないのです。

 これは、イラクの不穏分子の謎の深さを物語っているように私には思えてなりません。

(続く)