太田述正コラム#7402005.6.1

<ある試作車について>

 一昨日、ご縁があって、宮城県村田町菅生のスポーツランドSUGOで開催された、ある試作車のお披露目式(高速走行を含む)に行ってきました。

 この試作車は、東海大学工学部(神奈川県平塚市)が同大学工学部教授の林義正氏の総指揮の下に製作したものであり、エンジンは同教授がエンジン開発のベンチャー企業であるYGK(本社・山形市)と共同開発したものです。

 このお披露目式には、マスコミ関係者も多数出席しており、そのニュースは、昨日、毎日新聞と産経新聞の全国版にも掲載されたので、目にされた方もおられるのではないでしょうか。

 マスコミが注目した理由は、この試作車でデータを収集して更に改良を加え、将来、ル・マン(ルマン)24時間耐久レース(注)に参加する車を製作しようという夢のある話だからです。

 (注)ル・マン(Le Mans24時間レースは、アメリカのインディ500F1のモナコGPとともに、世界三大レースの一つと称される(http://www.ocn.ne.jp/sports/motorsports/tpx/ms_0045.html。5月31日アクセス)。また、スパ・フランコルシャン(Spa-Francorchamps24時間レース、デイトナ(Daytona24時間レースとともに、世界三大24時間レースの一つと称されることもある(http://www.jah.ne.jp/~take1/car/。5月31日アクセス)

ル・マン24時間耐久レースには既存の乗用車メーカーが社をあげて参加したり、既存の乗用車メーカーの車を愛好家グループが買って参加したりするケースが大部分であるところから、こんな手作りの車が参加して、しかも好成績を挙げたら、世界で大きな話題になることでしょう。

 これは夢のある話であると言いましたが、決して夢物語ではありません。林教授は、日産時代に、日産のレーシングエンジン及びレーシングカー開発の総責任者を務め、日産車による1992年のデイトナ24時間レース総合優勝をなしたげた人物だからです。

 なお、この車の開発には学部学生や修士課程の学生が参加していること、エンジンは産学協同の成果であってしかもその「産」が(地方の)一ベンチャー企業であること、から(車に限らず)日本における製品開発として最先端の形態であることも注目されます。

 カーレース参戦なんて道楽の最たるものではないかと思われるかもしれませんが、決してそんなことはありません。

 モータースポーツが自動車技術と自動車文化の発達に大いに貢献してきたからです。

 自動車技術と言えば、ラジアルタイヤ・ディスクブレーキ・キセノンランプなどは、文字通りカーレース用の車から始まった技術です。

 エンジンについても、カーレース用の車に適したエンジンは、コンパクトで軽くて、耐久性があって、低燃費のもの、ということになりますが、これらは、日用車のエンジンに求められるものでもあります。コンパクトで軽くて耐久性があれば、低コストにつながり易いし、低燃費(リーン・バーン)であれば当然有毒排気ガス排出量も少ないわけで、環境にも優しいことになります。

 なお、車載エンジンは、バイクや小型船舶の動力源としてはもちろん、発電やヒート・ポンプ用動力源等として様々な形で転用できることも重要です。

 (以上、特に断っていない限り、産経新聞2005.5.31付朝刊1面・30面、東海大学「新エンジン開発とル・マン挑戦に燃えて」12頁及び、お披露目式出席者の話、による。)

 私は、1999年から2001年にかけての一年半余り、東北地方全体を所管する仙台防衛施設局長を務め、特にお膝元の宮城県については、公私ともども、最も頻繁に各所を訪問する機会がありましたが、もともと車のことには余り興味がなかったこともあって、スポーツランドSUGOなるサーキット施設が宮城県に存在することすら知りませんでしたし、カーレースについても、ほとんど知識がありませんでしたが、役所を飛び出したおかげで、また一つ世界が広がったようです。

 私の本プロジェクトとのご縁がいかなるものか、についてはおいおいご披露させていただくつもりです。

(続く)