太田述正コラム#7592005.6.20

<中共の経済高度成長?(その3)>

 (本篇は、6月18日に上梓しました。)

 (2)政治的制約

 ア 民主化と経済成長

以上の構造的制約論議が比較社会学者達によってなされてきたのに対し、経済学者や経済ジャーナリスト達によってなされてきたのが政治的制約論議です。

フォーリン・アフェアーズ誌(Foreign Affairs)のSeptember/October 2004 issue に掲載されたJOSEPH T. SIEGLE, MICHAEL M. WEINSTEIN, MORTON H. HALPERINによる‘Why Democracies Excel’という論文(http://www.nytimes.com/cfr/international/20040901facomment_v83n4_siegle-weinstein-halperin.html?pagewanted=print&position=200410月1日アクセス)の内容をご紹介しましょう。

 東アジアのシンガポール・インドネシア・韓国・台湾・更には中共、といった専制的な諸国で経済の高度成長が実現したことから、専制的な国の方が経済成長の点では有利だ、という見方が一部にある。

 しかし、東アジア以外の低開発国(一人当たりGDP2000米ドル(1995年価格)の国)で見ると、1960年から2000年までの40年間で民主的な国の方が専制的な国よりも(注4)一人当たりGDPの伸び率が50%高かったことから、このような見方は誤りであることが分かる。

 (注4)民主的な国とは、Ted Robert GurrUniversity of Maryland)が1990年に開発した民主化指数0?10でいう、8?10の国であり、専制的な国とは0?2の国を指す。

 しかも、上記低開発国では、民主的な国は専制的な国に比べて平均寿命が9年長く、乳児死亡率が20%低く、中学校進学率が40%高く、農業の反当収量が25%高く、非腐敗度や法治主義度において15?25%高い、という結果が出ている。また、民主的な国の方が、経済成長率の下方へのふれの程度が小さく、また、内戦等が起きにくいことも分かっている(注5)。

 (注5)このほかセン(Amartya Sen)が、民主的な国では餓死者が出ない、と指摘している(コラム#210315)。

 では、一体シンガポール・インドネシア・韓国・台湾・更には中共のケースはどう考えたら良いのでしょうか。

 このフォーリン・アフェアーズ論文は、中共を除く上記諸国が欧米の民主主義諸国の強い影響下にあったこと等を挙げていますが説得力があるとは言えません。しかも、この論文は、中共については、説明をあきらめてしまっています。

 私は韓国と台湾については、日本の植民地であったこと、インドネシアについては、日本の占領を受けた上、旧宗主国のオランダと独立戦争を戦う過程においても残留日本軍人達が指導的役割を果たしたことが大きかったと思いますし、シンガポールはかつて英国の植民地で支那人が現地人の中心であり人口が少ないという、香港と似通った条件であったことが大きかったと考えています。

 また、支那については、10数年間にわたってその人口・領域のかなり大きな部分が日本の占領下ないし影響下にあったことと、開放経済に移行した際に香港や台湾等の華僑の協力を得られたことが大きかったと思っています。

 いずれにせよ、重要なことは、1960年以降で見ると、非低開発国(一人当たりGDP2000米ドル超の国)の中で専制的な国は16カ国しかなく、またこの16カ国中民主化したのは台湾・韓国・スペイン・ポルトガル・ギリシャ・メキシコ(若干疑問符が付く)の6カ国しかない、という点です。

 つまり、専制的な国が非低開発国に移行するのは容易ではないし、仮に移行できたとしても、それから民主化するのも容易ではない、ということです。

 そうだとすると、中共についても、非低開発国に移行するのは容易ではないし、仮に移行できたとしても、それから民主化するのは容易ではない、ということになりそうです。

  イ 民主化に背を向ける中共

以上の分析を踏まえると、中共が最近民主化に背を向け始めたように見えるのは大変気になります。

皆さんもご存じと思われる最近の事例を一つ挙げましょう。

マイクロソフトが、先般中共でブログ・サービスを始めたところ、自由(freedom)とか民主主義(democracy)といった言葉をブログ中で使おうと思ってもはじかれてしまうしくみになっている、というので中共政府はもとより、マイクロソフトも非難されています。

日本のマスコミはそこまで報道していないようですが、実は、共産主義・社会主義・資本主義・台湾独立・チベット・法輪功・テロリズム・虐殺、等もはじかれてしまいます。つまり、中共当局が自由・民主主義を嫌っているのはもちろんなのですが、そもそもブロッガー達が政治について語ることを一切禁じようとしているわけです。

傑作なこともいくつかあります。例えば、「民主主義」はだめですが「無秩序」や「革命」はOKですし、「デモ」はだめですが「抗議」はOKですし、「胡錦涛」はだめですが「ブレア」はOKです(注6)。

(以上、http://www.guardian.co.uk/china/story/0,7369,1506601,00.html(6月16日アクセス)による。)

 (注6)本件について、ガーディアンのサイト上で一般読者による議論がな
    されたが、その中で’I would be interested to know when China
    was supposedly "raped" by the West. The West have been good
    trading partners with China for centuries. There was no
    colonization or direct control of the Chinese people as
    there was in Africa. China has always shot itself in the
    foot.In WW2 I strongly supported Japense occupation of China
    even though we (the US) were at war with Japan. The Japanese
    punished the Chinese for all the suffering created by China
    for centuries in the orient. Payback is a true bitch as you
    say Bruce. And in Shangai the Japanese truly made the
    Chinese pay and pay big time! Let us ferverently pray that a
    restored Japanese military will yet occupy China again and
    that there will be even greater payback for the Han
    racists.’という書き込みがJohn Caranなる人物によってなされた
    (http://blogs.guardian.co.uk/news/archives/2005/06/16/
    beijings_bitch.html。6月17日アクセス)ものの、他の読者から何
    のお咎めもなかったことにびっくりした。アングロサクソンの対中
    認識はかくも厳しくなってきている。中共当局は、反日行動をしく
    んだり、日本の国連安保理常任理事国入りに反対したり、といった
    ことに血道を上げるのは早急に止め、日中友好路線に復帰するのが
    身のためだろう。

 これでは中共当局は、せっかくのこれまでの経済高度成長の成果をドブに捨てたがっている、としか私には思えません。

(続く)

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