太田述正コラム#7712005.6.30

<イランの新大統領誕生(その3)>

その第一の元凶はイラン人が抱く誇大妄想狂的誇りです。

イラン人は、今から2,500年以上前の紀元前550年におけるキュロス(Cyrus)による(ペルシャからメソポタミアに至る)アケメネス朝(Achaemenes Dynasty)ペルシャの建国以来、何度もこの地域に覇を唱えたイランの歴史に誇大妄想狂的な誇りを抱いています。

 しかし、そのイラン人の誇りをずたずたにしたのが、20世紀に入ってからのアングロサクソンのイランに対する所業です。

 1907年にイランの北部と南部が、グレート・ゲームの一環として、英露協議の上、それぞれロシアと英国の事実上の保護領になってしまったところから話は始まります。

 ロシア革命のためにロシアの影響力が一時衰えると、英国は、イランの石油資源の支配権を確保するためにも、親英的でなかったカジャール朝(Qajar Dynasty)の最後の国王(シャー)を嫌って、親英的に見えた軍人レザ・カーンReza Khan)に肩入れし、1921年に彼にクーデターを敢行させます。レザ・カーンは1925年にカジャール朝を廃止し、自らパーレビ朝(Pahlavi dynast)を創始し、国王となるのです。

 ところが、そのレザ・カーンが先の大戦において、親独的姿勢を示し、イランを経由した連合軍によるロシア補給支援を拒否したため、英軍を中心とする連合軍は1941年、イランを占領し、レザを退位させた上で外地で軟禁し、レザの息子のモハメッド・レザ(Mohammad Reza)を王位につけます。このモハメッド・レザ・シャー(いわゆるパーレビ国王)の治世は、1979年のイスラム革命まで、38年間に渡って続くことになります。

ここから先は、米国が英国に替わって悪役を務めることになります。

一番悪名高いのは、1953年8月、アングロイラニアン石油を国有化したイランのモサデグ首相を追放しパーレビ国王に実権を回復させるクーデターを米CIAが主導して実行させた事件です(コラム#203)。

(以上、特に断っていない限りhttp://www.salamiran.org/IranInfo/General/History/前掲及びhttp://www.csmonitor.com/2005/0629/p07s02-wome.html(6月29日アクセス)による。)

これらが、アングロサクソンの傀儡と目されたパーレビ体制を覆す1979年のイスラム革命へとつながって行くのです。

ところが、イスラム革命の後、反アングロサクソン感情(Great Satanとしての米国!)は更に米大使館占拠事件を引き起こし、米国との関係は断絶します。そして、イランは米国の経済制裁を受けることとなり、これがイラン人の反アングロサクソン感情を持続させてしまい、イランによるヒズボラ等の対イスラエルテロ組織支援への米国の反発ともあいまって、イランは米国と関係改善を果たせぬまま現在に至っているのです。

もう一つの元凶は、本来嘉すべきイランの持つ豊富な化石燃料資源です。

そもそも、英国や米国がイランに強い関心を持ち、累次の介入を行ったのは、上述したところからも分かるように、イランが戦略的に重要な場所に位置していることと、そのイランが豊富な石油資源に恵まれているためです。

現在イランは、サウディに次ぐ世界第二の石油埋蔵量とロシアに次ぐ世界第二の天然ガス埋蔵量を誇っています。石油と天然ガスを併せるとやはりサウディに次いでイランは世界第二の埋蔵量、ということになるのですが、サウディの方は目一杯に近い石油生産を既にしており、石油産出量は早ければ2010年から減少し始めると予想されているのに対し、イランには石油にも天然ガスにもまだまだ生産余力があります。

 この巨大な化石燃料資源の存在が、イラン人の誇大妄想狂的誇りを維持させている側面がある、と言えそうです。

他方で、イラン政府とイラン支配層が腐敗しているため、この化石燃料資源の恩恵に一般大衆が十分浴すことができないという憤懣が、イスラム革命を引き起こすもう一つの要因となったのです。

 (以上、(http://www.commondreams.org/views05/0411-21.htm(6月28日アクセス)による。)

 しかし、イスラム法学者達に最高権力を掌握させたイスラム革命は、これら法学者達と結びついた形での政府と支配層の腐敗を新たに生み出しただけに終わってしまい、相変わらず化石燃料資源の恩恵の分け前に十分あずかれないイランの一般大衆の間で、再度憤懣が蓄積していくことになるのです。

 以上から言えるのは、トルコやパキスタンには存在しないところの、イラン人の誇大妄想狂的誇りとイランの巨大な化石燃料資源こそ、イランをイスラム教原理主義化の悪循環過程に陥らせている二大元凶である、ということです。

(続く)