太田述正コラム#7722005.6.30

<イランの新大統領誕生(その4)>

そして、イランの人々のイスラム教シーア派原理主義化への熱情をこの上もなく煽ったのが、同時多発テロ後の米国の2001年のアフガニスタン侵攻と2003年のイラク侵攻、この間のキルギスタンとウズベキスタンでの米国の軍事基地獲得、パキスタンの親米路線への転換、という、四囲を「仇敵」たる米国勢力に包囲される、という事態の出来です(http://www.atimes.com/atimes/Middle_East/GF28Ak02.html。6月28日アクセス)

4 ブッシュ政権のイラン認識

 2002年1月にブッシュ米大統領は、イランについて、「選挙の洗礼を受けていない少数の人間がイランの人々の自由への願いを抑圧しつつ、鋭意これら<大量破壊>兵器を追い求めるとともにテロを輸出している」として、イラク・北朝鮮の二カ国と並ぶ悪の枢軸(axis of evil)呼ばわりした演説を行いました(http://www.whitehouse.gov/news/releases/2002/01/20020129-11.html。6月29日アクセス)。

 改革派のハタミ政権の第二期目が始まった2001年8月からまだ余り時間がたっていない時点で、イランをイラクや北朝鮮と同一視するとは、今振り返ってみても、随分思い切った演説をしたものだと思います。

ところが、2002年8月にイランの亡命者団体が、イランがウラン濃縮工場を建設中であると発表した(http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-iran21oct21,1,4913276,print.story?coll=la-headlines-world20041022日アクセス)ことを契機に、イランが「大量破壊兵器を追い求め」ている疑惑が明るみに出たかと思ったら、2003年2月のイラン議会総選挙では、護憲評議会が3,000人もの改革派候補者の立候補を禁じ(コラム#769)、今次大統領選挙では、護憲評議会が候補者を絞り込んだ上で保守強硬派のアフマディネジャドの当選、というわけで、「選挙の洗礼を受けていない少数の人間がイランの人々の自由への願いを抑圧し」ている図式もはっきりしました。

少なくともイランに関しては、米国の情勢分析の的確さに感嘆させられます(注9)。

(注9)イランが、インド・パキスタン・中共・ロシア・イスラエル・そして(四囲に進出している)米国、という核保有国に取り囲まれるに至った(http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/4626081.stm。6月28日アクセス)以上、誇大妄想狂的誇りを抱いているイラン人がイランの核武装を目指さないわけがない、と米国は考えていることだろう。

5 より現実味を帯びてきた米国によるイラン攻撃

 (1)状況証拠

 米国が、アフマディネジャドの大統領当選を受け、北朝鮮より先にイランの核関連施設攻撃ないし体制変革に乗り出す可能性が現実味を帯びてきた、と私は見ています。

 今年1月中旬、米ニューヨーカー誌に衝撃的な記事が出ました。

 アブグレイブ収容者虐待事件を最初に記事にした気鋭のジャーナリストのハーシュ(Seymour Hersh)が、米特殊部隊が既にアフガニスタンからイラン東部に潜入して地下核関連施設を探索しており、その一方でイラン侵攻作戦計画も最新のものに改定され、米国はいつでもイランを攻撃でき、攻撃する場合、米国は核関連施設の破壊だけでなく、体制変革をねらっている、と書いたのですhttp://news.bbc.co.uk/2/hi/americas/4181325.stm。1月18日アクセス)

 この記事を受け、英ガーディアン紙は、米特殊部隊が潜入しているかどうかはともかくとして、米国防省が、現在米軍の監視下にあるところの、サダム・フセイン政権によって庇護されてきたイラク反体制グループのムジャヒデン・ハルク(MEKMujahedin-e-Khalq)の要員をイランに潜入させることを検討した事実はあった、と書きましたhttp://www.guardian.co.uk/international/story/0,3604,1392687,00.html。1月19日アクセス)

 そのガーディアンは追い打ちをかけるように1月末に、米国は米軍機をイラン領空に侵入させているが、これはイランの核関連施設の偵察を行うとともに防空レーダーの位置や性能をあぶり出すためだ、と報じました(http://www.guardian.co.uk/iran/story/0,12858,1401310,00.html。1月30日アクセス)。

 ところで、私は昨年10月に、イスラエルによる「イランの核関連施設への攻撃必至か」と(コラム#512で)書いたところですが、今年2月に入るとイスラエルの外相が、イランが6ヶ月以内にウラン濃縮能力を持つ可能性があり、EU(英仏独)がウラン濃縮計画放棄を求めてイラン政府と行ってきた交渉は時間切れを迎えつつある、と語りました。そして3月には英サンデー・タイムス紙が、イスラエル政府がイランの核関連施設への空と地上からの攻撃の予備的指示initial authorisation)を出したと報じたのに対し、イスラエル議会の外交防衛委員会委員たる一議員は、イスラエルが軍事攻撃するのは、米国が外交的手段を尽くした後の最後の手段だ、と沈静化に努めた(http://www.guardian.co.uk/israel/Story/0,2763,1436990,00.html。3月15日アクセス)のですが、イスラエル政府が沈黙していることと、この議員の口ぶりから、米国とイスラエルのイラン核関連施設攻撃に係る協議が相当進んでいる印象を受けました。

 そこに、危険きわまりない保守強硬派のアフマディネジャドが大統領に当選した、というわけです。

 それではどうして米国は、イラン攻撃をする必要があってそれは北朝鮮攻撃より優先度が高いと考えているのでしょうか。そもそも、イラクとアフガニスタンで手一杯の米軍にイラン攻撃を行う余裕があるのでしょうか。

(続く)