太田述正コラム#7732005.7.1

<米国の対中共戦略(その1)>

1 最近の動き

米国は、沖縄の基地負担低減の観点から海兵隊の戦闘部隊の一部を国内外に移転する意向を一時示していたのですが、今春在沖海兵隊の戦闘部隊の削減はできない旨を日本政府に伝えてきていた、と報じられました。

中台有事のシナリオとして、中国軍が特殊部隊だけを派遣して台湾の政権中枢を制圧し、親中政権を樹立して台湾を支配下に収めることを想定し、親中政権が台湾全土を完全に掌握するまでの数日間に、在沖縄海兵隊を台湾に急派し、中国による支配の既成事実化を防ぐ必要があるというのです。

(以上、http://www.yomiuri.co.jp/main/news/20050630it01.htm(6月30日アクセス)による。)

また先日、米台間の1996年以来の交渉が妥結し、米国が台湾に米レイセオン社(Raytheon Co)の早期警戒レーダーの主要構成部分たるフェーズドアレイ・レーダー等を総額75,200万ドルで2009年9月までに提供することを決めた、と報じられました。この早期警戒レーダーの有効探知能力は半径約3,000kmで中国大陸の東南半分をほぼ網羅し、飛来する弾道・巡航ミサイルを現行システムより4?7分早く察知でき、軍用機や艦船の動きをより正確に探査、追跡することも可能であり、パトリオットPAC3システムと連接される予定だといいます。(http://www.tokyo-np.co.jp/00/kok/20050626/mng_____kok_____005.shtml及びhttp://www.taipeitimes.com/News/front/archives/2005/06/25/2003260647(どちらも6月26日アクセス))

この話と相前後して、イスラエルが米国の抗議を受けて、レーダー攻撃用の無人偵察機(Harpy Killer unmanned attack drones)の新部品の中共への提供を取りやめた(http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/4108446.stm。6月20日アクセス)ところ、中共が今度はイスラエルに圧力をかけたとして米国に抗議する(http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2005/06/27/AR2005062700351_pf.html。6月28日アクセス)、という騒ぎがありました(注1)。

(注11990年代に、イスラエルから中共にこの無人偵察機が約100機、総額5,000万米ドル以上で売却されているが、米国の技術が使われていないこともあって、米国は売却を黙認していた。今回の新部品は、米国の技術が使われている上、無人偵察機の航続距離とレーダー探知(home in)能力を大幅に向上させることから問題視された。なお、この新部品に換装すべく中共からイスラエルに既に移送された無人偵察機は、イスラエルが賠償金を支払った上で中共に返還しないことになった。(ワシントンポスト上掲)

2000年にも、似たような話で、米国の抗議を受けてイスラエルが中共への早期警戒機(Phalcon early warning radar plane)を総額10億ドルで売却する話を取りやめるということがありました(ワシントンポスト上掲)。

また、昨年末から今年3月の中共の反国家分裂法採(コラム#661)前後にかけて、米国とEUの間でEUの対中武器輸出解禁の是非をめぐって、ぎりぎりの攻防が行われ、対中武器輸出禁止の継続を主張する米国の言い分が通った形になっている(コラム#613664)ことは記憶に新しいところです。

これらのことは、すべて米国が台湾を防衛するために、あるいはより政治的にニュートラルな表現を用いれば、台湾海峡両岸の現状を維持するために行っていることだ、と思われるかもしれません。

もとより、それは誤りではありません。

しかし、これらを、よりマクロ的な、米国の対中戦略の一環としてとらえる視点も必要です。

つまり、以前(コラム#695で)申し上げたように、台湾が米日陣営側にあることから、有事において中共は台湾周辺海域を通って石油等を確保することが困難であるのが現状であり、この現状を維持するためにも、あるいはそのためにこそ、米国は中共の対台湾攻撃能力向上を妨げるとともに、米国及び台湾の台湾防衛能力向上を図っている、という視点が必要なのです。

日本への石油供給を絶とうとした先の大戦前の米国の対日戦略を思い出してください。

(続く)