太田述正コラム#8402005.8.29

<岡田民主党敗れたり(その3)>

4 私が民主党に投票を、と言えない理由

 (1)マニフェストに欠缺あり

 しかし、党首の質に問題があるだけなら、ふつつかな党首だけれど、そこはまげて(比例区は)民主党に投票していただきたい、と言いたいところ、それが言えないのはなぜか、ご説明しましょう。

 (お読みになっていない方はぜひとも目を通していただきたいが、)岡田民主党が掲げる政策、つまりマニフェスト(http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/senkyo/05shuinsen/news/20050817org00m010004000c.html(8月17日アクセス)及びhttp://www.dpj.or.jp/seisaku/sogo/image/BOX_SG0062_kakuron.pdf(8月27日アクセス))が余りにもできが悪いからです。

 できが悪いと言っても、マニフェストに書かれていることのできが悪い、という意味では必ずしもありません。書かれていることの9割方以上は私も賛成であり、自民党のマニフェスト(http://www.jimin.jp/jimin/saishin05/pdf/seisaku-010b.doc。8月28日アクセス)に比べて網羅的でこそないものの、全体として、自民党のマニフェストより具体性があり、かつ既得権益打破・行財政改革をより徹底して目指す内容になっています。

 問題は、当然書かれていなければならないことが書かれていないところにあります。

 それは、「憲法をどうするのか」、「女性差別解消にどう取り組むのか」、「少子化にどう取り組むのか」です。後の二つは特に密接に相互に関連しているので、一つの懸案として括れるかもしれません。

この三つないし二つの懸案については、私はホームページを立ち上げた2001年から、繰り返しその重要性を訴えてきたところです(注1)。

(注1)例えば、http://www.ohtan.net/opinion/index_frash.html及びコラム#73(2002.11.3。存亡の危機に直面する民主党)参照。後者ではもう一点、「政治をどう改革するのか」の重要性も訴えているが、これについては、今回のマニフェストで相当カバーされている。

私が訴えようと訴えまいと、この二つ、ないし三つの懸案と正面から向き合うことなくして政権がとれると思う方がおかしいのです。

なぜなら、憲法改正問題の無視は、北朝鮮や中共等の国際的「脅威」に警戒感を増しつつある世論の動向に背を向けるものであるだけでなく、国政を担おうとする政党としての資格に根本的な疑問を投げかけさせるものです。また、女性差別解消問題の無視は、有権者の半分の利益を顧みないことを意味すると同時に、今後の日本を女性からのインプットなしで方肺飛行させようというものだとの批判を免れません。更に、少子化問題を無視するようでは、長期的な国のかたちを全く考えることなく、「改革」論議ごっこにうつつをぬかしている、と言われても反論することは困難でしょう。

以上について、もう少し具体的にご説明しましょう。

 (2)憲法改正

 民主党のマニフェストは、大項目「1.憲法」から始まります。

 しかし、約470?480字も費やしつつ、中身は全くありません。信じられない方は、ご自分の目で確かめてください。

 執筆者は慚愧に堪えなかったのでしょうか、末尾に、「皇室典範を改正し、女性の皇位継承を可能とします。」と唯一具体的な話が出てきます。

 しかし、ご存じのように、皇室典範は単なる法律であり、「憲法」とは関係ありません。

これに対し、自民党のマニフェストでは、大項目「一、大胆に日本の改革を進めます」の中で「12.新憲法制定」という中項目をたて、「党是」に則り、「1115日までに党憲法草案を策定します」と明確に憲法改正姿勢を打ち出しています(注2)。

 

(注2)ちなみに、自民党のマニフェストには皇位継承問題は全く登場しない。

 そうは言っても、民主党が憲法改正を打ち出すことは党の分裂を引き起こしかねないだけでなく、まだ国民世論が憲法改正の方向で固まっていないだけに、選挙にとって有利にならない、という反論が予想されますが、これらの点については、後ほど。

 (3)女性差別解消

女性差別解消については、民主党のマニフェストは完全に無視しています(注3)。

(3)ただし、目を皿のようにして探すと、大項目「9.経済・規制改革・中小企業」中の中項目「(2)農山漁村を活性化します。」の中に、「農業就業人口の約6 割を占める農山漁村女性の重要な役割を考慮し、農山漁村における女性支援のために、「農山漁村女性起業支援法」の制定や、農山漁村女性子育て支援ヘルパー制度を創設するとともに、行政や地域社会運営の意思決定の場への女性参画支援を行います。」というくだりがある。どうやら民主党は、農産漁村以外に男女差別は存在しない、と考えているらしい。

これに対し自民党のマニフェストでは、「一、大胆に日本の改革を進めます」の中で「9.男女共同参画社会」という中項目をたてていますが、これは当然のことです。

 

(4)少子化問題

 ちょっと信じがたいことに、民主党のマニフェストには「少子化」という言葉が登場しません(注4)。

(4)やはり目を皿にして探したところ、中小企業における人材育成・確保に触れた箇所で、枕詞的に「少子化」という言葉が用いられているだけだった。

大項目「4 子育て」のなかで、少子化対策になるところの、児童手当の充実・出産時助成金の創設、保育や学童保育の充実等を謳ってはいるのですが、これらは「少子化」という項をたてて、その中に位置づけるべきでしょう。

民主党の少子化問題への鈍感さ、ここに極まれり、という観があります。

これに対して自民党のマニフェストでは、大項目「三、世界に羽ばたく文化・産業を育成します」の冒頭で「わが国は、急速な少子高齢化、国際競争激化など大きな環境変化に直面し、」というくだりが出てくるほか、大項目「五、日本の未来を担う人材を育成します」の中で中項目「2.青少年健全育成・教育」と並列で中項目「3.少子化対策」をたてており、論理的です。

(続く)