太田述正コラム#8412005.8.29

<米国に吸い込まれつつあるメキシコ(続)(その2)>

 (本篇は、8月28日に上梓しました。)

3 米国の白人のメキシコ観

 (1)始めに

 以上、米国の白人から中南米系、つまりはメキシコ系の住民がどのように見えているかを想像してみましたが、今度は隣国のメキシコがどんな風に米国の白人の目に映っているかを想像してみましょう。

 

2)ふがいなくてはた迷惑な隣国

  ア ふがいない隣国

 メキシコは世界一の経済力を誇る米国と2,000マイルもの国境線を共有しています。

NAFTAが発効した1994年以降、そのメキシコの商品は無関税で米国に輸出されるようになり、また米国はメキシコに対し多額の投資を行ってきました。そして、米国は毎年百万人もの合法・不法のメキシコ人労働力を受け入れてきました。

 更に、1994年から95年にかけてのメキシコ通貨(ペソ)危機が起きると、米国はその安定化に尽力しました。

 にもかかわらず、1992以来のメキシコの一人当たりGDPの伸びは毎年1%をちょっと超える程度で低迷を続けています。メキシコの一人当たりGDP1982年の債務危機までの20年間の伸びは毎年3.6%だったのですから、せっかく巨大な米国市場へのアクセスができるようになったというのに、国内問題が足を引っ張り、そのせっかくの効果が帳消しになってしまっているのです。

(以上、http://www.nytimes.com/cfr/international/20050701faessay-v84n4_birdsall-rodrik-subramanian.html?pagewanted=print(7月24日アクセス)による。)

 イ はた迷惑な隣国

米国の白人にとって迷惑千万なことは、前に述べたように、そんなメキシコから、不法に米国に越境してくる人々がひきもこらないことです。

米国では1986年に、メキシコ人労働者の流入を食い止めるため、不法労働者を雇用することを違法化し、爾来国境パトロール要員は三倍に、またその経費は10倍に膨れあがるに至っています。

しかしこのところ、効果どころか逆効果ばかりが取り沙汰されています。

取り締まりを強化したにもかかわらず、麻薬密輸業者達の手を借りて行われるところの人里離れた地域での危険な不法越境者が増え、不法越境者捕獲率は40年来の低さに陥っている反面で、越境者の死亡率は三倍に増え、毎年300人から400人の死者が出ています。しかも、こんな危険な越境を繰り返したくないため、家族を越境させて呼び寄せる割合が増えており、都合、不法越境者は毎年100万人のオーダーに達してしまいました。

また、不法労働者の雇用を違法化した結果は、雇用主は仲介業者を通じた間接雇用を行うようになり、この仲介業者の中間搾取によって、不法労働者の得られる賃金は低下し、この賃金低下が一般労働者に波及するに至っています。しかも、間接雇用制は一般の労働者にも普及を始めており、当然、間接雇用下では、労組を作るわけにはいかないことから、賃金以外の雇用条件もまた、不法労働者から始まって全般的に低下を見ています。

このような状況の下、メキシコと国境を接するニューメキシコ州とアリゾナ州の知事(二人とも民主党)が今月非常事態宣言を行ったところであり、今やメキシコ人流入問題は、全米的な問題と受け止められつつあります。

4 メキシコ人流入問題をどうすべきか

エドワード・ケネディ上院議員(民主党)らは、NAFTAの下で財・サービス・カネ・情報に関して米国とメキシコの間で垣根がなくなったというのに、人の行き来についてだけこれを犯罪視して取り締まるというのはそもそも矛盾だとし、不法労働者にゲスト・ビザを与えて彼らの雇用を合法化するとともに、メキシコからの合法移住枠を大幅に増やす等を織り込んだ法案を提出しました。

共和党のブッシュ政権も、不法労働者にゲスト・ビザを与えて彼らの雇用を合法化することを先般提案したところです。

しかし、これら提案とて、メキシコからの不法労働者すべてにゲスト・ビザを与えるところまでは踏み込めそうもないし、仮に不法労働者全てにゲスト・ビザを与えるようなことになれば、メキシコからの流入が一層募ることは必至であることから、米議会の中でも世論の間でも、(大多数の白人の意向を踏まえ(太田)、)これら提案に強く反発する声があがっており、実施に移すことは困難であると思われます。

結局米国がとりうる方策としては、流入規制を一層強化しつつ、むしろメキシコに国内問題の抜本的解消を働きかけ、メキシコ経済を成長路線に乗せることによって、メキシコ人の米国居住熱を冷ますこと以外にはなさそうです。

(以上、http://www.latimes.com/news/opinion/commentary/la-op-immigration31jul31,0,4130424,print.story(8月1日アクセス)、http://www.csmonitor.com/2005/0824/p08s02-comv.html(8月24日アクセス)、及び(http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2005/08/25/AR2005082501571_pf.html(8月27日アクセス)による。)

これから人口が急激に減っていく日本に住むわれわれにとって、米国のこのような悩みをうらやむべきなのか、同情すべきなのか、むつかしいところですね。

(完)