太田述正コラム#9492005.11.15

<ブッシュの実像(その2)>

4 やはり神がかっているブッシュ

 10月にガーディアン紙によって、ブッシュが2003年にイラク戦争を開始してから4ヶ月経った時点でエジプトのシャルムエルシェイク(Sharm el-Sheikh)で開催されたイスラエルとパレスティナの首脳会談に立ち会った際に、パレスティナの代表団に対して発言した内容がコンファームされました。

 ブッシュは、「私は神の召命(mission)によって突き動かされている。神は私に、「ジョージよ、アフガニスタンでテロリストと戦え」とおっしゃった。だから私は戦った。次に神は私に、「ジョージよ、イラクの専制を終わらせよ」とおっしゃった。だから私は終わらせた。そして再び神が私におっしゃることを私は関知できたのだ。今度は神は「行ってパレスティナ人に自分達の国が与えられるようにせよ。そして中東に平和をもたらすのだ」とおっしゃった。だから、おお神よ、私はそうしようとしているのだ。」と言ったというのです。

 40歳になって、改めてクリスチャンとして目覚めたブッシュは、飲んだくれの生活から足を洗い、それからはとんとん拍子で大統領にまでなったのですが、神がかっていると言われてきたことは、どうやら本当であったようです(注4)。

 (以上、http://www.guardian.co.uk/usa/story/0,12271,1586978,00.html10月7日アクセス)による。)

 (注4)発言がコンファームされるまで、こんなに時間がかかったのは、敬虔なイスラム教徒ばかりであるはずのパレスティナ当局のアッバス首相(当時。現議長)以下のパレスティナ代表団の面々すら、あっけにとられ、他言をはばかってきたからだろう。

 

困ったものです。今までのご託宣はともかく、神からジョージへの次のご託宣がトンデモナイものでないことを祈るほかありません。

5 いとやんごとなきブッシュ

 11月初めにアルゼンチンのTV局のインタビューを受けたブッシュは、「今ポケットの中に何が入っていますか」と問われ、不愉快な顔もせずに立ち上がってすべてのポケットに手を突っ込んだ後、ハンカチを引きずり出してひらめかし、「ハンカチだけしか入っていません。サイフは持っていません」とスペイン語で答えました。(ただし、スペイン語が流暢だということになっているブッシュは、サイフだけはwalletと英語で言った。)

 そもそも、ブッシュはハンカチ以外は、米国製のTimexの時計以外、何も身につけてはいなかったのです。

 これに、ガーディアン紙上で、コラムニストのチャンセラー(Alexander Chancellor)が猛然と噛みつきました。

 鍵を持っていないということは、おつきが全部前もってドアを開けてくれるということだし、サイフを持っていないということは、おつきが何でも買ってくれるということだ。

 そのあたりまでは分からないでもない。

 しかし、ハンカチ以外何も持たないというのでは、一個の独立した人間としての生活を放棄したに等しい。それではタッソー蝋人形館の蝋人形と同じではないか。

 携帯電話はなくてもいいのか。奥さんのローラや双子の令嬢達に何かあったときに、全部ホワイトハウスの交換(聞かれている!)を通じて電話に出ていていいのか。

 身分を証明するものを何も身につけていないのでは、ドブに落ちて死んだ場合、身元不明の土左衛門ということになってしまわないか。

 それにしても、一番問題だと思うのは、万年筆も鉛筆も、そして一枚の紙もブッシュが持っていないことだ。

 これでは、せっかく有益な助言を聞いても、それを書き留めるすべがないではないか。まさか、ブッシュが<英国の盲目の政治家である>ブランケット(David Blunkett)ほどの記憶力の持ち主であるわけがあるまい。

(以上、http://www.guardian.co.uk/Columnists/Column/0,5673,1639326,00.html1112日アクセス)による。)

 チャンドラーの言うことはもっともです。

 民主主義社会における政治家や行政官が貴族になってしまっていいはずがないからです(注5)。

(注5)私が米国に留学する直前だったと思うが、防衛事務次官をお辞めになったばかりの内海倫氏のお話を、防衛庁のキャリアの会でうかがったことがある。その時、退官してから、生まれて初めて切符を買って電車に乗った、と言われたのでたまげた。

社会人になる前に切符を買ったことがなかったとはちょっと信じがたいことだが、それはともかく、1941年に内務省に入られた内海さんが、最初の頃は地方勤務で、最初から車付きであり、やがて警察庁の交通局長を経て、防衛庁に局長として出向され、次官に昇格されて、ついに一度も電車通勤をする機会がないまま退官された、ということはありえないことではない。

その後、随分経ってから内海さんは人事院総裁になられたが、その間、フツーの一市民としての生活を経験されたことは、総裁として経綸を振われる際に大いに役立ったことと信じたい。

6 終わりに

 さて皆さん。実像を知った今、改めてブッシュについて、どう思われますか。

(完)