太田述正コラム#9622005.11.22

<フランスにおける暴動(その12)>

 (4)在日「差別」の現在と課題

 このところ日本では、中高年における韓流ブーム(コラム#401)と若者における嫌韓意識の高まり(コラム#942)の並存、という興味深い状況が見られます。

 前者は、かつての日本人の在日を含む朝鮮半島の人々に対する、上述したような心暖かい心情の復活であり、後者は、北朝鮮による拉致問題の進展のなさや、ノ・ムヒョン政権による日本の歴史認識問題・・首相の靖国神社参拝問題と教科書問題・・の執拗な提起に対する反発が、インターネットの世界で伏流となってくすぶり続けてきた在日「差別」感情と化学反応を起こして顕在化したもの(注21)である、と私は見ています。

 (注21歴史認識問題は韓国側に非があるとする山野車輪著「マンガ嫌韓流」(晋遊舎)が30万部を超えるベストセラーとなっていることがその端的な現れだ。ちなみに、中国は「売春大国」(?!)などと書いた「マンガ中国入門」(飛鳥新社)も売れている。http://www.nytimes.com/2005/11/19/international/asia/19comics.html?pagewanted=print1120日アクセス)

 日本人のこの在日に対する差別意識の解消を図るためには、その原因をつくっている韓国・北朝鮮・在日の側が変わる必要があります。

 しかし、日本政府にもできることは多々あります。

 第一に日本人の拉致問題について、それだけを取り上げるのではなく、北朝鮮における人権侵害問題全般に取り組むことを通じて、韓国の北朝鮮に対する人権問題での及び腰の姿勢(注22)を改めさせ、もってこの問題での日米韓連携の確立を図り、北朝鮮を追いつめることです。

 (注22)ノ・ムヒョン政権は、韓国における過去の軍事政権の人権侵害と戦ってきたことを誇りとする人々の政権であるというのに、北朝鮮の、はるかに悪質な人権侵害には目をつぶっており、今年も国連における北朝鮮人権侵害批判決議に賛成せずに棄権した。その一方で、ミャンマーの軍事政権の人権侵害を批判する国連決議には賛成票を投じている。この論理矛盾ないし偽善性は、追及されるべきだろう。(http://english.chosun.com/w21data/html/news/200511/200511180030.html1119日アクセス)、http://english.chosun.com/w21data/html/news/200511/200511210026.html1122日アクセス)

 第二に歴史問題について、日本と朝鮮半島だけを対象にするのではなく、日本の台湾統治と朝鮮半島統治の比較、そして、東アジアにおける欧米諸国による植民地統治である米国のフィリピン統治との比較、更には、(日本による朝鮮半島統治と同様の)隣接地域の植民地統治であるイギリスのアイルランド統治との比較、に幅を広げること(注23)を韓国政府側に提案することです。

 (注23)植民地獲得方法と植民地統治実績を見れば、フィリピン統治とアイルランド統治は、台湾統治や朝鮮半島統治に比べて、はるかに暴力的であり、拙劣だった。

 日本政府は、単独ででもかかる研究を助成すべきでしょう。(助成対象を、日本の学者だけに限定する必要はありません。)

 第三に日本政府は、在日による日本人差別について、その歴史と現状を調査し、情報を開示すべきでしょう。その結果、在日あるいは朝鮮半島出身またはその子孫で日本国籍をとった人々、もしくは韓国の人々の間から、自然に遺憾の声が出てくれば、一番良いと思います。

 (5)部落差別はどうなったのか

 1922年に結成された水平社は、部落差別解消に大きな役割を果たしましたが、差別解消に成功しませんでした。

 戦後、1955年に部落解放同盟が結成され、アファーマティブアクションを含む様々な差別解消施策の実施を政府に強く求めました。

 その結果、1969年に同和対策事業特別措置法が成立し、目的を達成したとして(三回の延長を経て)同法が終了した1992年まで、政府によって鋭意差別解消施策が講じられました。

 (以上、http://www6.plala.or.jp/kokosei/hr/buraku.html前掲による。)

 その間に、部落差別は基本的に解消したのです。

 部落差別の歴史(根)が浅かったからこそ、部落民側と政府の努力によって、このような急速な差別解消が実現した、ということです。

 しかし、特措法による差別解消施策が余りにも長く続けられたため、それが利権(同和利権)化し、様々な弊害が起きた(注24)だけでなく、1980年代からは、部落民を語って金銭を強要する者(エセ同和)まで出現して現在に至っています。

 (注24)同和利権のもたらした弊害についてはhttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%8C%E5%92%8C%E5%88%A9%E6%A8%A9%E3%81%AE%E7%9C%9F%E7%9B%B81119日アクセス)を、エセ同和についてはhttp://blhrri.org/nyumon/yougo/nyumon_yougo_10.htm1121日アクセス)を参照のこと。

これは、在日による日本人差別に倣って言えば、部落民(エセ同和を含む)による一般納税者の差別である、と言ってもいいでしょう。

 現在形で書いたのには理由があります。

 部落民による一般納税者の差別は、特措法が終了した現在でもなお、形を変えて続いているからです。