太田述正コラム#10879(2019.10.23)
<サンソム『西欧世界と日本』を読む(その54)>(2020.1.13公開)

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[財閥]

 「「財閥」という語は1900年前後に使われ始めた造語で、当初は同郷の富豪を指したようだが、明治末期には同郷に限らず一般に富豪の一族を意味するようになった。
 今日の学界においては、「財閥とは、家族または同族によって出資された親会社(持株会社)が中核となり、それが支配している諸企業(子会社)に多種の産業を経営させている企業集団であって、大規模な子会社はそれぞれの産業部門において寡占的地位を占める。または、中心的産業の複数部門における寡占企業を傘下に有する家族を頂点とした多角的事業形態」という規定が通説的である。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B2%A1%E9%96%A5

⇒「豊かな商人銀行家の一族」による支配による「金融上の寡頭制」、や、その文脈の中で出て来るところの、「醸造業者<の>力<の>強<さ>」といった、サンソムによる(日本の)財閥の説明が全面的に当てはまるのは、江戸時代成立の諸財閥の中では鴻池だけだ。
 (三井と住友は醸造業とは無縁だし、銀行業務は副業の位置づけだ。)(注67))

 (注67)「鴻池郷を「清酒発祥の地」とするかについては議論が分かれるものの、・・・鴻池新六・・・が・・・16世紀末、・・・改良したとされる醸造法(鴻池流)は清酒の大量生産を可能にし、一般に流通する契機となった。・・・
 寛永2年(1625年)には・・・新六の八男・・・正成<が>九条島にて海運業を始めた。大坂から江戸への酒積みが多量となり、陸路駄馬で運んでいては間に合わず、海上輸送を行うことにしたのである。海運業の創始によって、西国大名参勤交代の運輸や蔵物の取り扱いなど大名との取引関係が生じ、その関係から大名貸が始まった。明暦2年(1656年)には両替店を開店し、町人貸しや大名貸しで繁栄した。寛文10年(1670年)には幕府御用の両替商として、十人両替という地位にも就いた。鴻池は酒造・海運・金融(大名貸、両替商)という、一見相互に無関係の業務を営む形になった。
 後に、鴻池は海運、酒造から手を引き、金融業と大名貸中心となり、成長を続けた。・・・
 <この>鴻池家は<、>維新後も、金融業から他の事業へ営業分野の拡大はあまり図らなかった。・・・<そ>の営業方針は堅実を旨としていたため、政商としての性格を色濃く持つ<三菱や>三井のように・・・政府の成長政策と歩調をあわせて急速に発展することはできなかった。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B4%BB%E6%B1%A0%E8%B2%A1%E9%96%A5
 「三井<家>は伊勢から江戸に出て1673年(延宝元年)越後屋三井呉服店(三越)を創業。京都の室町通蛸薬師に京呉服店(仕入れ部)を創業。その後京都や大阪でも両替店を開業し<た。>」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E4%BA%95%E8%B2%A1%E9%96%A5
 「寛文2年(1662年)のころで住友家は江戸時代前期において鉱業と金融業を握るコンツェルンを確立し<た。>」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BD%8F%E5%8F%8B%E8%B2%A1%E9%96%A5

 また、戦前の四大財閥は、三井、三菱、住友、安田だ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B2%A1%E9%96%A5 前掲
が、三菱は、「1893年三菱合資会社<が>設立<され、>これを持株会社として造船業・鉱業・鉄道・貿易<、金融、麒麟麦酒という醸造、>などあらゆる分野に進出<した>」ものだ。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E8%8F%B1%E8%B2%A1%E9%96%A5
 但し、安田は、創業期もその後も(醸造業とは無縁だが)金融業が中心だった。(太田)
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⇒サンソムは、財閥、ひいては明治以降の日本の経済体制を、「進んで政府を授け、その代償として・・・便宜<を>・・・受け<る>」という「外国の影響にふれることがほとんどなかった時期からの遺物」、と、否定的な総括的評価を下していますが、この「遺物」を最大限に活用する形で昭和戦前期に、杉山元らの主導の下で日本型政治経済体制が構築され、その一部が韓国で継受され、更に、中共で全面的に継受されつつあって、いずれの国においても高度経済成長をもたらし、アジアの時代への回帰を実現しつつある、というのが、私の見解であるわけです。(太田)

(完)