太田述正コラム#10969(2019.12.7)
<関岡英之『帝国陸軍–知られざる地政学戦略–見果てぬ「防共回廊」』を読む(その45)>(2020.2.27公開)

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[ウイグル人弾圧とイスラム世界]

 「・・・2017年、ミャンマー軍がロヒンギャを弾圧した際には、ヨルダンやイランの市民はロヒンギャとの連帯を示す抗議デモを何度も行った。
 サウジアラビアの国連代表団もツイッターで批判した。
 「イスラム世界の総意」を掲げる国際組織、イスラム協力機構(Organisation of Islamic Cooperation:OCI)も、5月にロヒンギャ危機に対して「適正な調査」を実施する意向を・・・表明した。
 [<また、>イスラム過激派組織のアフガン・タリバン、アル・シャバブそしてパキスタン・タリバンはミャンマー国内での仏教徒によるイスラム少数派への暴力行為に対して繰り返しジハード(聖戦)を宣告している<ほか、>・・・イスラム国は・・・ロヒンギャ・・・から人材を勧誘しようとしている<。>]
 <ところが、中共>のウイグル人弾圧に対して<は>、イスラム諸国は抗議の声をあげない・・・
 一帯一路構想を通した巨額の貿易と投資機会、そして<中共>からの債務負担によって、イスラム諸国は沈黙を守<っているのだ。>・・・
 <それどころか、例えば、>エジプトは、<中共>のウイグル人弾圧を助長するような行動を取った。
 2017年夏、エジプトは理由を明らかにしないまま、ウイグル人留学生を相次いで拘束、弁護士や家族との面会も許さ<ず、>・・・少なくとも12人の<中共>籍ウイグル人を<中共>に送還した・・・。
 <また、>イスラム諸国の多くは人権問題について悪しき実績を抱えており、個人の権利よりも社会の安定を優先している。・・・これは<中共>とよく似て<おり、>・・・自国への干渉を避けるために、他国の国内問題には干渉しない・・・
 <なお、>2009年、当時の・・<トルコの>エルドアン首相(現在は大統領)は、新疆ウイグル自治区での弾圧を「ある種の大量虐殺」と表現した。さらに「これだけの事件に対して、<中共>首脳が傍観者の立場を取り続けていることは理解に苦しむ」と述べた。
 この発言の直後、<中共>国営の英字新聞チャイナデイリーは「事実を捻じ曲げるな」という見出しで、エルドアン氏に発言の撤回を迫る社説を掲載した。
 さらにトルコは<、>2015年、<中共>から逃れたウイグル人難民に避難所を提供、これに対してチャイナデイリーは「両国のつながりに悪影響を及ぼし、協力が頓挫する恐れがある」と再び警告した。
 エルドアン氏は最近、この問題に対して発言していないが、<中共>国営メディアによるトルコへの警告は続いている。
 <2018年>8月に入って、・・・<中共>国営の英字紙グローバルタイムズは、<中共>による経済支援を提案しつつも、もう2度と「新疆ウイグル自治区での民族政策に対して無責任な発言」を行わないように警告する手厳しい社説を掲載した。」
https://www.businessinsider.jp/post-178027
https://www.huffingtonpost.jp/maha-hosain-aziz/isis-rohyngya_b_7876454.html ([]内)

⇒関岡同様、引用したこのコラムの執筆者も中共を非難しているところ、私には、むしろ、イスラム世界でウイグル人弾圧を批判しているのはトルコだけであって、イランの市民には言論の自由がないとしても、相当程度言論の自由のあるヨルダンの市民からも、そして、何よりも、(中共との経済関係を顧慮する必要などない)イスラム過激派諸組織からさえ、何の批判も出ていないことに注目したい。
 ちなみに、このトルコの「特異な」姿勢は、「トルコ国内でもカイセリ県やイスタンブル県に多くのウイグル族が住んで<おり、>トルコ民衆の間でも「同族」であるウイグル族に対して同情的な意見が強く、<中共>のウイグル族に対する対応に反発を感じる人も多い」
https://www.ide.go.jp/Japanese/IDEsquare/Eyes/2018/ISQ201820_028.html
ことが背景にあるが、「「イスラーム国」の台頭はトルコ政府のウイグル族に関する対中姿勢を変化させることになった。きっかけは、<中共>政府の対応に耐えかねた一部のウイグル族が東南アジア諸国などを経由してトルコに渡り、最終的にシリアやイラクに入るケースが増えたことである。トルコ政府が2015年に国内で拘束した外国人戦闘員は913人であったが、最も多かったのは<中共>人の324人、次いでロシア人の99人、3番目はパレスチナ人の83人だった。ここでいう「<中共>人」がウイグル族のことを指しているのは間違いない。トルコ国内でも、103名の死者を出した2015年10月10日のアンカラでのテロをはじめ、2015年夏から2017年初頭にかけて「イスラーム国」によるテロが相次いだ。トルコ政府は2016年7月以降、ロシアと<中共>が主導する上海協力機構と関係を強化していくことになるが、その背景には、上海協力機構が打ち出したテロ対策への同調があった。」(上掲)というのが現在のトルコの状況だ。
 それにしても、私にも分からないのは、イスラム過激派諸組織の沈黙だ。
 (分からないことに忸怩たる思いがある、と言っておこう。)
 一時期のトルコは別として、ほぼイスラム世界全体が、ウイグル人弾圧に沈黙し続けてきた以上、欧米諸国や欧米系人権諸団体がどれだけ声をあげようと、中共当局には痛くもかゆくもないだろう、というのが私の結論だ。(太田)

(参考)

 「米紙ニューヨーク・タイムズは11月16日、<中共>の「政界の人物」から約403ページに上る中国政府内部の「機密」文書を入手したと報じた。主に<中共>の民族・宗教政策及び新疆におけるテロ対策、脱過激化等に関する内容だ。・・・
 <しかし、そ>の内容や<中共>上層部の過去の演説と関係法規はいずれも、中国がテロ対策と脱過激化措置を行ううえでターゲットにしているのは具体的なテロリズムと過激主義イデオロギーであり、特定の民族または宗教ではない、ということをはっきりと示している」
http://j.people.com.cn/n3/2019/1205/c94474-9638313.html
 New Silk Roads in action at China-Kazakh border・・・
https://www.asiatimes.com/2019/12/article/at-china-kazakh-border-new-silk-roads-in-action/
(どちらも、12月6日アクセス)
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(続く)