太田述正コラム#11187(2020.3.25)
<丸山眞男『日本政治思想史研究』を読む(その19)>(2020.6.15公開)

 「人性論におけるオプティミスティックな構成はこの様に規範が自然と連<←之繞を二点之繞に(太田)>續してゐる事に胚胎してゐた。
 ところでこの連<(同上)>續的思惟といふことがまた朱子哲學の大きな特色である。

⇒島薗進(注46)は、『現代救済宗教論』の中で、日本の新宗教の生命主義的思想が丸山の言う「連続的思惟」であるとした上で、「それ・・・が近代的な社会思想として未熟であるとしても、人々が近代的な社会関係に適応していく際に、積極的な役割を果たし得たのは確かであり、その意味で近代的ないし近代以降的な社会思想の基礎となりうるものを含んでいるはずだ」とし、それは、「伝統的な共同体の社会結合を解体させる・・・近代化の過程<において、>・・・世界の整合的、合理的解釈とか社会秩序や社会正義の実現方法とかいった問題に先立つ、人間の生のもっとも基底的なレベルで<ある、>>・・・それまでは自明であった他者や自然との連帯<、>について、あらためて明確な思想的表象を求めようとする<思想である>」、と指摘しています。
https://books.google.co.jp/books?id=WDlxDgAAQBAJ&pg=PA149&lpg=PA149&dq=%E9%80%A3%E7%B6%9A%E7%9A%84%E6%80%9D%E6%83%9F&source=bl&ots=Uw6hkaI2t5&sig=ACfU3U25hryfToZS7ixP3CMtHFSXJhi_-g&hl=ja&sa=X&ved=2ahUKEwjLlPTbkLXoAhXlLqYKHW76AvYQ6AEwBHoECAsQAQ#v=onepage&q=%E9%80%A3%E7%B6%9A%E7%9A%84%E6%80%9D%E6%83%9F&f=false

 (注46)1948年~。「東京大学理科Ⅲ類に入学するも医学部への進学を選ばず、 1972年東京大学文学部宗教学・宗教史学科卒業、1977年同大学院博士課程単位取得退学、筑波大学哲学思想学系研究員・・・東京外国語大学外国語学部日本語学科助手。専任講師、助教授、1987年東京大学文学部宗教学・宗教史学科助教授、1994年1月教授、1995年同人文社会系研究科教授。2013年定年退任、名誉教授。上智大学神学部特任教授・グリーフケア研究所所長。1984年8月カリフォルニア大学バークレー校に留学( – 1985年7月、フルブライト奨学金)。1996年3月シカゴ大学宗教学部客員教授( – 1996年5月)。1997年11月フランス社会科学高等研究院招聘教授(-1997年12月)。2000年6月テュービンゲン大学日本文化研究所客員教授(-2000年7月)。・・・
 新型コロナウイルス感染について、2020年2月25日にTwitter上で、「肺炎が心配な方は、2日目でも4日間熱が続いているといって医療機関に行った方がよい。そうしないと検査もしてもらえず、新型肺炎対応の治療もしてもらえない」と、医師に虚偽の報告をして限られた医療リソースを使用するよう教唆。猛烈な批判を浴び、発言を削除した。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B3%B6%E8%96%97%E9%80%B2

 私は、丸山批判を行った点では評価するけれど、島薗もまた、丸山同様、近代主義に「毒され」ているように思います。
 そうではなく、人々が荒み、また、世の中が乱れて来たこと、に対して危機意識を抱いた、ソクラテス/プラトンや釈迦が、人間主義が失われた理由、それを回復する方法、を追求したところの、いわゆる枢軸の時代における諸思想には、多かれ少なかれ、丸山の言う、規範が自然と連続する、連続的思惟が見られたのであり、類似の思惟が、その後の時代においても、世界各地で、「人々が荒み、また、世の中が乱れて来た」、と感じた人々によってなされることとなった、ということだ、と考えている次第です。(太田)

 われわれが宇宙論において見た「理」の超越卽内在、實體卽原理の關係もかゝる連<(同上)>續的思惟の表現である。
 天理は人性と、氣は人欲と、法則は規範と、物は人と、人は聖人と、知(格物窮理)は徳と、徳(修身齊家)は政治(治國平天下)と悉く直線的に連<(同上)>續せしめられる。
 さうしてかうしたすべての連鎖がさきに述<(同上)>べた道徳性の優位(理=誠)の下に一絲亂れざる配列を指名してゐるのである。・・・
 「日用に卽きて天理有れば則ち、君臣・父子・夫婦・長幼の間、應對・酬酢<(注47)>・食思<(注48)>・視聽の頃、一として理に非ざる者無く、亦一として紊る可きもの無し。一の紊る所あれば天理喪はる」(朱子文集巻四十五)。・・・」(28、31)

 (注47)しゅうさく。「主人と客が互いに酒杯のやりとりをすること。献酬。また、詩文を応酬すること。」
https://kotobank.jp/word/%E9%85%AC%E9%85%A2-288362
 (注48)しょくし。「食欲。食気。」
https://kotobank.jp/word/%E9%A3%9F%E6%80%9D-534148

(続く)