太田述正コラム#11712006.4.8

<パレスティナ情勢の動態的均衡続く(その2)>

 (前回のコラムに、小見出しを入れる等、手直しを加えました。)

 カディマのような中道政党の創設についても、実はシャロンは以前から構想を描いていたのですが、昨年8月にシャロン内閣の蔵相のネタニヤフ(元首相)が、ガザからの一方的撤退に反対して蔵相を辞任し、与党リクード内の右派分派活動が活発化し、11月には連立相手の労働党で左派の新党首が生まれると労働党が連立を解消したことにより、シャロンは急遽構想を実現に移し、リクードを離党した上で、リクードと労働党の離党組を中心にカディマ・・「引き続き前進を続けよう」という意味・・を創設したのです(ウィキペディア上掲)。

 (4)シャロン倒れる

 ところが、カディマ党首となったシャロンが今年3月のイスラエル議会総選挙向けの戦略を練っていた昨年12月中旬、シャロンは軽い脳卒中に倒れ、年を越えた今年1月上旬には、二度目の、今度は重い脳卒中に倒れ、人事不省の状態になってしまいました(http://www.guardian.co.uk/israel/Story/0,2763,1680729,00.html。1月7日アクセス)。

 (5)パレスティナ議会選挙でのハマスの勝利

そこへ、驚天動地のことが起こりました。

今年1月25日に実施されたパレスティナ議会(Palestinian Legislative Council)選挙で、イスラエル抹殺のための武力闘争を標榜するハマスが過半数以上の議席を獲得してしまったのです。ハマスは、132議席中76議席をとり、これまでPAの中心であったファタは、43議席しかとれませんでした。(http://www.nytimes.com/2006/01/27/international/middleeast/27mideast.html?_r=1&pagewanted=print。1月27日アクセス)

昨年5月の地方選挙において、ハマスは初めて選挙に参加して大健闘しhttp://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20060127/mng_____kakushin000.shtml。1月27日アクセス)、それ以降も支持を伸ばしてきていたとはいえ、選挙前の世論調査での支持率は三分の一を超えた程度であり、獲得議席数はファタに次いで二番目になるだろうと予想されていた(http://www.guardian.co.uk/israel/Story/0,2763,1684472,00.html13日アクセス)からです(注3)。

(注3)米国は選挙に至る数週間に200万米ドルを密かにPA、つまりはファタに資金提供を行い、ファタの勝利を画策したと報じられており(http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/01/26/AR2006012600526_pf.html。1月27日アクセス)、この選挙結果に愕然としたに違いない。

    ところで、東京新聞は、イスラエル政府が密かにハマスを支援した、と報じた。独自取材に基づく斬新な記事と言いたいところだが、ファタ系の過激派組織が唱えている陰謀論をうのみにしたものに他ならず(http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20060127/mng_____kakushin000.shtml前掲)、勇み足の記事だと断ぜざるを得ない。

3 それでどうなる?

 (1)パレスティナ議会選挙結果をどう見るか

 米国政府も主要プレスも、この選挙の結果には顔をしかめつつも、公正に行われた選挙の結果を否定するわけにもいかないことから頭を抱えており、米国政府は、ハマスがイスラエルの存在を認め、武力闘争を放棄しなければ、PAへの資金援助停止するとの方針を打ち出しました(ワシントンポスト上掲等)。

 興味深いのは、英国政府はこの米国政府のスタンスに同調しているものの、英国のパレスティナ問題消息通は、一様にこの選挙の結果に拍手を送り、ハマスにエールを送っていることです(A:http://www.guardian.co.uk/israel/comment/0,,1696158,00.html(1月27日アクセス)、B:http://www.guardian.co.uk/Columnists/Column/0,5673,1697440,00.html(1月29日アクセス)、C:Governing Palestine, Strategic Comments Volume 12 Issue 2  March 2006, IISS(4月6日にオンラインでアクセス))。

(続く)