太田述正コラム#11992006.4.23

<緊迫化する竹島問題(その4)>

5 交渉妥結

竹島周辺での海洋調査問題で、日本側が今回の調査を取りやめ、韓国側は6月の国際水路機関(IHO)の国際会議で竹島周辺の海底地形の韓国名を提起しない、というラインで日韓の外交交渉が妥結し、当面の危機は回避されました。

ただし、毎日の電子版は、「韓国側はIHOに対する海底地形の韓国名提起を放棄したわけではなく、「今後、必要な準備を進めて適切な時期に推進する」との立場<であり、>韓国の柳次官は21日、韓国名の提起を「6月にすると発表したことはない」と語っており、譲歩ではないと主張できる形だ」としていますし、讀賣の電子版も、「韓国が6月の国際会議に名称提案しないことは「谷内氏が確認」することとし、日本側がそれを公表することについて、韓国側は「勝手にすればいい」と突き放す形で、協議はまとまった。韓国側は「6月の国際会議に韓国名の提案をしない」と明言しておらず、日韓双方のメンツが立つ“玉虫色”の決着と言える。」としています。

(以上、http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20060423k0000m010088000c.html(4月22日アクセス)、及びhttp://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060422it14.htm(4月23日アクセス。以下、特に断っていない限り同じ)による。)

6 またまた朝鮮日報の論調について

例によって、朝鮮日報の論調はどうでしょうか。

 23日付の朝鮮日報日本語電子版は、最初のページで、海洋調査問題の妥結記事を、23日の0821時点の更新では4番目、0845時点の更新では5番目に掲げる、という「見識」を示しました。

 確かに、23日朝の時点の日本の各紙の電子版では、上記妥結記事の序列は低いのですが、韓国側から見て、この海洋調査問題の重要性がそんなものであるはずがありません。実際、朝鮮日報日本語電子版は、海洋調査問題を扱った記事を5つ(靖国問題と海洋調査問題をひっかけた漫画(及びその解説)を含めれば6つ)も最初のページに(妥結記事以下を団子状態で)掲げていることからすれば、当然、妥結記事をトップに持ってくるべきところを、韓国の朝野(より正確には在日の人々)の興奮にあえて水をかけるねらいで、トップからはずした、というところでしょう。

 妥結記事の中身も注目されます。

 この記事は、「2日間行われた韓日両国の外務次官会談は22日夜、妥結に至ったことがわかった。これにより、日本は6月30日までと予定していた海洋測量調査を見送るものとみられている。また韓国は、今年6月にドイツで開かれる予定の国際水路機構に韓国名の地名を登録する当初の方針を修正し、「十分な準備を経て適当な時期に行う」とした。」(http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/04/22/20060422000026.html)としており、上掲の毎日や讀賣の記事等の日本の各紙電子版の記述ぶりに比べて、「当初の方針を修正し」と、韓国側の譲歩をより明確に記しているからです。

 本件に関するその他の記事(すべて妥結前の時点で執筆された記事)も興味深いものがあります。

 「盧大統領は、この問題が主権に関わる問題との認識を強めている。事態への対応も、他のどの政府部処(日本の省庁に当たる)よりも強硬だ。かえって関係部処は大統領府について行くのが精一杯な状況だとある政府当局者は伝えた。したがって韓日間の外交交渉は、盧大統領の決断次第で合意もしくは決裂が左右されそうな状況だ。」(http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/04/22/20060422000023.htmlと、たった一人の殿のご乱心ぶりに部下が迷惑顔で振り回されている様子を紹介し、婉曲にノ大統領批判を行っています。

 その一方で、次の記事で、「安倍官房長官「波風立てたくない」」というキャプションを立ててているのですから、日本の安倍長官を、ノ大統領と比較して持ち上げている、としか思えません。

 更にその次の記事では、「?明桓・・外交部第1次官<は>21日、これまでに例のない強硬な発言を繰り返し注目を集めた。?次官は交渉を控え、記者らと懇談し「大韓民国の存続をかけ、物理的な力を動員してでも(日本の探査は)防がねばならない」と話した。外交官としての33年の経歴を持つ柳次官によるこの発言は、会談会場の内外で大きな話題となった。 柳次官はまた、別の場所で「今日は手加減しない」とも話した。日本の外交官らは普段慎重な言動で知られる柳次官の「非外交的」な発言に、驚いた様子だったと伝えられる。それだけに、一連の発言は今回の事態に対する韓国政府の厳しい姿勢を反映したものとの見方もある。」(http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/04/22/20060422000016.htmlと記し、韓国の柳第1次官の外交官らしからぬ発言を描き、この種発言の原因をつくった「殿」の乱心ぶりを再度婉曲に批判するとともに、やんわりとではあるけれど、韓国の高級官僚のプロフェッショナリズムの欠如も、同時に批判の俎上に載せました。

21日に行われた第一回の交渉の後、「柳次官は上気した表情で会談場を後にし、谷内次官も口を閉ざした。」と記した記事(http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/04/22/20060422000021.html)も、第1次官のプロフェッショナリズムの欠如を、日本の谷内次官と比較して指摘したもののように読み取れそうです。

また、今回の海洋調査問題に法的・技術的検討を加えた記事(http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/04/22/20060422000017.html)も大変参考になりました。

 なお、朝鮮日報がこの間、日本語電子版の最初のページの文化欄で、「文芸雑誌の中で発行部数が日本一の講談社『ファウスト』が25日に韓国で創刊される。」という記事(http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/04/19/20060419000032.html)を19日以来、「韓日両国が良き隣人に」というキャプションをつけた村上龍氏と韓国人作家の対談http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/04/18/20060418000023.html。4月19日アクセス)を18日以来、そしてこの村上氏の「半島を出よ」の紹介(http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/04/17/20060417000021.html)アクセス)を17日以来、掲載し続けている「見識」にも頭が下がります。

今回の問題で改めて朝鮮日報の電子版の熟読を続けた結果、次第に朝鮮日報の方が、日本の全国紙より、記者の志においても、記事のクォリティーにおいても高いような気さえしてきました。

皆さんは、どう思われましたか。

(完)