太田述正コラム#12762006.6.4

<経済社会の英国モデルと米国モデル(その4)>

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 前回からほぼ半年経ちましたので、第二回のオフ会の開催を考えています。

 7月8日(土)1400??、を第一候補に考えています。場所は、第一回同様、練馬区豊玉南の事務所です。

 期日や「式次第」、会費(前回500円)、飲み物等について、前回ご出欠のいかんにかかわらず、メールで、あるいはこの掲示板上でご意見をお寄せいただければ幸いです。

 出席する、というご連絡が複数の方からあれば、この日時に決定させていただきます。

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 (本篇は、コラム#1235の続きです。)

 (3)見かけは絶好況の米国経済

 実際、米国経済は絶好況です。

 2006年の第一四半期にはGDP4.8%も伸び、プラスの経済成長率はこれで18四半期続いたことになります。失業率は4.7%と過去40年の平均より低くなっていますし、2003年以来500万もの雇用が新たに生み出されました(注6)。

 (注6)クリントン大統領は、1990年代に2200万の雇用を生み出したのに対し、ブッシュ大統領は一期目に数百万の雇用を減らしたと言われたが、それを一挙に挽回したことになる。

 個人所得は第一四半期に6%以上伸び、住宅価格は大幅な伸びが続いています。

 ガソリン価格の高騰が懸念されていますが、どうやら心配無用のようであり、価格高騰にもかかわらず、米国の一人当たりガソリン消費量は増え続けています。

(以上、http://www.latimes.com/news/opinion/commentary/la-oe-goldberg18may18,1,3055341,print.column?coll=la-util-op-ed(5月19日アクセス)による。)

この米国経済の絶好況の基盤には、IT革命による生産性上昇がある(注7)として、これを米国のニューエコノミーと呼ぶ人もいるようです。

(注7)米国の労働生産性は90年代の後半以降、確かに高まり、特に2000年以降、その傾向は顕著になっており、この間、日本の労働生産性上昇率を一貫して上回っている(http://bizplus.nikkei.co.jp/colm/harada.cfm。5月24日アクセス)。

絶好況をもたらした要因として、前述した世界的な好況に加えて、ブッシュ政権の減税政策を挙げる米経済人も少なくありません(http://www.csmonitor.com/2006/0515/p09s02-coop.html。5月15日アクセス)。

そんなところへ、先月、1979??82年の不況時以来の大幅な消費者の景況感の落ち込み(drops in consumer confidence)という椿事が出来しました。

それに対し、全く心配はいらない、絶好況の時に消費者の景況感が落ち込んだ前例がある、という論考(http://www.nytimes.com/2006/06/02/opinion/02morris.html?pagewanted=print。6月3日アクセス)がニューヨークタイムスに掲載されたのにはぶったまげました。

その要旨は次のとおりです。

その前例とは、1870年代末期の労働争議や都市暴動の頻発だ。

 かつては、1870年代(Gilded Ageと称されることがある).が不況期だったからだと思われていたが、経済データの洗い直しが進んだ結果、当時が米国史の中でも恐らく最も高度成長が長期にわたって続いた時代だったということが分かった。

 ところが、当時の消費者の景況感はひどいものであり、だからこそ労働争議や暴動が頻発したわけだが、その最大の理由は、当時が激変期であり、人々は新たな職を求めて社会的にそして地理的に移動することを余儀なくされ、かつ(南北戦争前には米国は世界で恐らく最も富が平等に均霑された社会であったというのに、)富の不平等度が急速に高まったためだ。

 現在もまた、激変期であり、年金制度や企業医療保険制度の劣化や富の不平等度の高まり・・現在の不平等度は奇しくも1870年代と同程度・・が消費者の景況感の落ち込みをもたらしていると言えよう。

 つまり、1870年代も現在も、経済は絶好況で、家庭には物が溢れている反面、公正感・非孤立感・安定感・予測可能性が減衰していることが、消費者の景況感の落ち込みをもたらした、という点で共通しているのだ。

 これだけ手放しの楽観論を聞かされると、ひょっとしたら、その通りなのかもしれないと思えてくるのが不思議です。

(続く)