太田述正コラム#13392006.7.10

<戦後日本史の転換点に立って(その3)>

 (引き続き、有料購読者を募っています。半年分で5,000円です。ohta@ohtan.netにお申し込みを!読みたいテーマが読めなくなってから慌てても遅いですよ。)

3 ペリーらによる論考

 そんなことより、日本の安全保障上より深刻なのはペリーらが発表した論考(ワシントンポスト前掲)とその論考に対する米国内での反応です。

 この論考は、クリントン政権下で国防長官を勤めたぺリー(William James Perry。あの日本を開国させたペリー提督の子孫)スタンフォード大学教授と、同じく同政権下で国防次官補を務めたカーター(Ashton B. Carter)ハーバード大学教授が共同執筆したものであり、北朝鮮に対し、最後通牒を発し、テポドン2の発射を止める(液体燃料を抜き取る)ように促し、それに従わないのなら、米潜水艦等、韓国の領域外に位置するプラットホームから巡航ミサイルで発射台上のテポドン2を爆砕することを米国政府に求めたものです。

 どうしてこれが問題なのかお分かりですか?

 北朝鮮が核爆弾を保有するに至った以上、これを搭載できる可能性があり、かつ北米大陸に到達する可能性があるテポドン(1と2)の開発のための発射は阻止しなければならない、と彼らが主張するだけで、同じく核爆弾を搭載できる可能性があり、かつ日本列島全域に到達可能である(「可能性がある」ではない!)ところの既に開発済みで何百発も北朝鮮が保有するノドンや、韓国全域に到達可能であるところの既に開発済みで、やはり何百発も北朝鮮が保有するスカッドをどうするのかに全く触れていない点です。

 これは、端的に言えば、米本土に住んでいる人の命の方を日本や韓国に住んでいる人の命より重視するというエゴイスティックな主張であり、米国人がそのような主張をすることは一見当然のように見えるけれど、共同執筆者がどちらも、つい最近まで民主党政権下の政府高官であった人物達であり、しかも、現在米国を代表する著名な二つの大学の教授達であるという立場、かつそのテーマが核問題である、ということを考慮すれば、絶対に公に口にすべきではない主張なのです。

 彼らは、戦後の歴代米民主党政権が、日本や韓国は米国の核の傘の外に置いてきたことを公言したに等しい、と私は深刻に受け止めています。そうなると、戦後の歴代共和党政権も同じ穴の狢ではないか、とさえ勘ぐりたくなってきます。

 ここまで説明してもまだ腑に落ちない方がおられるかもしれませんね。

 それでは、話を米国と日本にしぼってもう少し説明することにしましょう。

 戦後の日本は、自らは核兵器を保有せず、米国を信頼し、米国の核抑止力に依存することとしてきたわけですが、この「信頼」とは、単純化すれば、日本が第三国から核攻撃を受けたら、それを米国自身が核攻撃をされたものとみなし、米国がその第三国に対し核報復をしてくれると信じる、ということです。

 しかし、ペリーらのように、米本土に住んでいる人の方を日本に住んでいる人よりも重視するとなれば、米国が核攻撃されたら報復するけれど、日本が核攻撃されても報復するかどうかは時と場合による、ということにならざるをえません。これは、ペリーら、ひいては米民主党は、更には場合によっては米共和党も、日本を米国の核の傘の外に置いている、ということを意味します。(少なくともペリーらが米国防総省にいた時には、日本は米国の傘の外に置かれていた、と考えざるをえません。)

 恐ろしいことに、ペリーらのこの論考に対し、日本のみならず、米国においてさえ、全く批判の声が挙がっていません。

 それどころか、ワシントンポストはテポドン等発射後の社説

http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/07/05/AR2006070501415_pf.html。7月7日アクセス)

で、中共と韓国が北朝鮮の核弾道弾開発に対し煮え切らない態度をとり続けるようなら、米国政府はペリーらの提唱に従い、テポドン発射前にそれを爆砕するオプションを考慮すべきだ、と記す始末です。

 ペリーとカーターも性懲りもなく、今度は米タイム誌に寄せた論考

http://www.time.com/time/world/printout/0,8816,1211527,00.html。7月9日アクセス)

で、(北朝鮮を庇護してきた中共と韓国に対し不快感を表明しつつ、)今次テポドン等発射について北朝鮮が懲罰されるべきであると記した上で、今後、テポドンは発射以前に爆砕すべきである、と改めて強調したのです(注6)。

 (注6)ワシントンポストとペリーらが、この大事な時期に、北朝鮮に対して宥和政策をとってきた韓国に対する嫌悪感を隠そうとしないことも問題だ。嫌悪感の最大の理由が、米本土に対する脅威になりうるテポドンの開発に韓国が結果として手を貸していると彼らが思っているところにあることが、エゴ丸出しであってまず問題であるし、テポドン等発射によって韓国が正気に返ったこと(コラム#1335)を顧慮しようとしない彼らの政治性の欠如も問題だ。

(続く)