太田述正コラム#1357(2006.7.27)
<イスラエルの反撃の均衡性をめぐって(その2)>

 かつて(コラム#75で)「パレスティナ紛争とは、ファシズム(パレスティナ)対自由・民主主義(イスラエル)の戦いである」と申し上げたところです(注3)が、アラファトの死によって、ファシズムをついに克服したところの、アッバス・パレスティナ当局議長等のファタ上層部に代わって、パレスティナ当局を選挙を通じて牛耳るに至ったハマスはファシスト集団ですし、ヒズボラもまたそうです。ついでに言えば、ハマスやヒズボラの背後にいるイランもシリアもファシスト国家です。

 (注3)アラブ世界におけるファシズムの始祖の一人が、アラファトのいとこである故フセイニ(Amin al-Husseini)であることは以前(コラム#75)で紹介したところだ。

 アルカーイダも当然ファシスト集団ですし、つい最近までは、タリバン統治下のアフガニスタンもサダム・フセイン治下のイラクもファシスト国家でした(コラム#65)。
 欧州でもどこでも、ファシストに共通するのは、過激な反ユダヤ主義(anti-Semitism)です(注4)。

 (注4)過激な反ユダヤ主義を含むところのファシズムは、20世紀における、イスラム世界の欧州からの直輸入品だ。

 イランのアフマディネジャド大統領の過激な反ユダヤ主義的発言は枚挙に暇がないこと(コラム#875、924、994、1010、1034)はご承知の通りですが、ヒズボラが過激な反ユダヤ主義集団、より端的に言えばホロコースト論者集団、であることが今回の紛争の過程で改めて白日の下にさらされました。
 ヒズボラの指導者であるナスララ(Hassan Nasrallah)は、ヒズボラのミサイル攻撃によってイスラエルのナザレ在住のアラブ人の二人の子供が亡くなった時、この二人を殉教者であるとし、二人の家族に謝罪しました。同じミサイル攻撃によってユダヤ人の子供が死んでも、彼は喝采こそすれ、謝罪など全くしないのですから、要するにヒズボラはユダヤ人をできるだけ大勢殺害することを旨とする過激な反ユダヤ主義集団・・ホロコースト論者集団・・以外の何物でもないのです。
(以上、
http://www.csmonitor.com/2006/0727/p09s01-coop.htm
(7月27日アクセス)を参考にした。)
 武器を持ち、その武器をユダヤ人に対して容赦なく行使してきたホロコースト論者集団であり、イスラエル国家の存続を否定する集団であるところのヒズボラ、と戦うに当たっては、ヒズボラを壊滅させることこそ「均衡性」を有するのです。
 いずれにせよ私は、一旦討伐を開始した以上、イスラエルにとっては、ヒズボラを壊滅させるまで戦い続けるという選択肢しか残されていない、と考えています。
 以前(コラム#1350)述べたように、アラブ民衆は、圧倒的にイスラム世界におけるファシスト勢力ににシンパシーを寄せているのであって、ヒズボラのイスラエルに対する「健闘」ぶりを目の当たりにして、アラブ諸国の民衆のヒズボラに対する熱狂は高じるばかりです(注5)。

 (注5)ただし、イランの民衆は、反アラブ意識が邪魔をして反イスラエル一辺倒にはなり切れず、アラブ人集団であるヒズボラの「健闘」に対して醒めた見方をしている
http://www.time.com/time/magazine/printout/0,8816,1218048,00.html
。7月24日アクセス)。

 このままでは、エジプト・ヨルダン・サウディ等のアラブの伝統的独裁諸国家の支配層は、民衆が早晩蜂起するのでは、と戦々恐々としていることでしょう。
 しかも、レバノンからの撤退を余儀なくされて地盤沈下していたシリアが、汎アラブ主義の名残で、今次紛争によって発生したレバノン難民を積極的に受け入れ、保護している
http://www.nytimes.com/2006/07/25/world/middleeast/25refugees.html?ref=world&pagewanted=print
。7月26日アクセス)こともあり、アラブ民衆の間でシリア人気も高まりつつあります。
 また、シーア派のヒズボラとは反りが合わないスンニ・テロリスト集団であるアルカーイダも、ヒズボラ人気による存在感の低下を挽回すべく、今次紛争にテロで「参戦」してくる可能性が出てきたのではないでしょうか。
 つまり、イスラエルがヒズボラを壊滅させない限りは、アラブ世界でファシズムが勝利を収め、パレスティナ紛争が泥沼化する、という恐るべき事態が出来しかねないのです。
(以上、特に断っていない限り
http://www.nytimes.com/ref/opinion/26haykel.html
(7月27日アクセス)による。)

(完)