太田述正コラム#1379(2006.8.17)
<現在進行形の中東紛争の深刻さ(その6)>
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 沈黙を保っていたシリアとイランが、15日、示し合わせたかのように、相次いでヒズボラ側の勝利を宣言しました。
 シリアのアサド大統領は、「軍事的観点から言えば、戦闘はヒズボラの勝利で終わった。イスラエルは最初から負け続け・・物笑いの種になった。・・アラブ世界の将来の世代はイスラエルを敗北させる方法を見つけることだろう」とイスラエルを挑発し、「<米国が>描いた中東構想は幻想となった」と米国を切り捨て、サウディ・エジプト・ヨルダンを念頭に置いて、「われわれとともに戦ってくれとは言わないが、連中はせめて<反ヒズボラ的な>敵の見解を採用すべきではなかった」と非難しました
http://www.cnn.com/2006/WORLD/meast/08/15/syria.assad.ap/index.html
。8月16日アクセス)。
 その数時間前、イランのアフマディナジャド大統領は、「イスラエルは敗北した。・・ヒズボラは勝利の旗印を掲げた。」米国とその一派が「いわゆる新しい中東を作ろうとした」計画はヒズボラによって失敗した、と宣言しました
http://www.cnn.com/2006/WORLD/meast/08/15/iran.ahmadinejad.ap/index.html
。8月16日アクセス)。
 これで、イスラエルと米国はイスラエル側勝利を宣言し、ヒズボラ・シリア・イランはヒズボラ側勝利を宣言したことになります。
 ドイツ政府は、ただちにアサド発言を批判し、予定されていた外相のシリア訪問を中止しました。
 また米国の国務省報道官は、アサド発言を「空威張り<であり、アラブ世界の中で>完全に孤立している」と評し、アフマ発言を「事実を無視するもの」と評しました
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-react16aug16,1,2871323,print.story?coll=la-headlines-world
。8月17日アクセス)
 アフマのいかれた発言は今に始まったことではありませんが、熟慮の上で行ったはずのアサドの発言には呆れるほかありません。英国政府のアサド観に従い、「イギリス人」バシャール・アサド夫妻によるシリアの上からの自由民主主義化を期待していた私ですが、そろそろこのアサド夫妻を見放すべき時が来たようです。さぞやブレア英首相も肩を落としていることでしょう。
 ここで、ようやく全貌が明らかになりつつある「事実」を押さえておきましょう
 34日間にわたったイスラエル軍の「反撃」の結果、2000年のイスラエル軍の南レバノンからの撤退以降、ヒズボラが6年間にわたって営々と整備にこれ努めてきたインフラは壊滅し、シリアとイランからの武器補給ルートもずたずたになり、発見しやすい中・長射程ロケット用発射台の70??80%と発見しにくい短射程ロケット用発射台の50%は破壊され、保有していたロケットやミサイルの半分以上は破壊され、民兵約530人が死亡しました(注8)。
(以上、特に断っていない限り
http://blog.washingtonpost.com/earlywarning/2006/08/did_israel_win.html
http://www.latimes.com/news/opinion/commentary/la-oe-boot16aug16,0,7702608,print.column?coll=la-news-comment-opinions
(どちらも8月17日アクセス)による。)

 (注8)これに対し、イスラエル側の損害は、兵士の死亡が118名、ロケット攻撃による一般住民の被害が39名だった
http://www.time.com/time/world/printout/0,8816,1227264,00.html
。8月16日アクセス)。

 今度は、数字で表せない部分に目を向けてみましょう。
 ヒズボラは、イスラエルが南レバノンから撤兵した2000年5月以降、南レバノンのほぼ全域をコントロール下に置いてきました。その上で、ヒズボラは、パレスティナ過激派諸派がイスラエルに対しテロ攻撃するのを支援してきました。7月にイスラエル兵(8名を殺害して)2名を拉致したのは、ヒズボラの指導者であるナスララの声望を更に高めるため、イスラエルに収容されているレバノン人やパレスティナ人のテロリストと交換するためであったと考えられています。しかし、イスラエルの「反撃」によって、この目的は達成されず、また安保理決議によって、ヒズボラはリタニ川以南における支配的地位を失うに至ったのです。
 シリアのアサド大統領を除き、おおむねアラブの指導者全員のヒズボラを走狗とするイランのシーア派勢力拡大戦略に対する警戒心は一層強まっています。
 より重要なのは、ヒズボラが引き起こしたイスラエルの「反撃」によって、レバノンの人命・住居・インフラに大きな被害が生じたことは、ヒズボラの支持母体である貧しいシーア派住民を含むレバノンの広汎な人々のヒズボラ離れをもたらす可能性が大きい、という点です。
(以上、
http://www.csmonitor.com/2006/0817/p09s02-coop.html
(8月17日アクセス)による。)
 イランは既にヒズボラに復旧資金1億5,000万米ドルを提供したと目されています
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/08/15/AR2006081501413_pf.html
。8月17日アクセス)が、ヒズボラは、これらイラン等からの資金とノウハウ・マンパワーを動員して、2??3年はシーア派住民を対象とする復旧活動に専念することによって、上記ヒズボラ離れの食い止めを図らざるをえない上、今回のイスラエルによる「反撃」が身にしみて、仮に武装解除を免れたとしても、今後少なくとも10年くらいは、イスラエルに対する挑発行動を控えざるをえないだろうという観測がもっぱらです
http://www.nytimes.com/2006/08/17/world/middleeast/16cnd-mideastnew.html?ei=5094&en=ff2ecf9b146bef0e&hp=&ex=1155787200&partner=homepage&pagewanted=print
。8月17日アクセス)。
 もうこれくらいでよろしいでしょう。
 間違いなく、今次紛争においてイスラエルは勝利し、ヒズボラは敗北したのです。
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(続く)