太田述正コラム#1380(2006.8.18)
<現在進行形の中東紛争の深刻さ(その7)>

 (二人の有料読者からいただいた年会費分のアマゾン・ギフトカードを使おうと思い立ち、英国の史家アラン・マクファーレンの本3冊(どれも英国の出版社)を購入すべく、アマゾンUKにアクセスし、この3冊(絶版のものを含む)を古本で注文しようとして、高いのに驚くと同時に、古本(アマゾンが直接扱っていない)にはギフトカードが使えないことを知って、がっくりきました。しかし、気を取り直して、1冊くらいは買おうと思い、今度はアマゾンJapanにアクセスしてみたところ、3冊中2冊は先程よりかなり安く(古本が)買えることが分かって、結局Japanで2冊、UKで1冊をクレジットカードで発注しました。古本の場合、アマゾンでもworld wideには最安値が一義的に決まるというわけではないのですね。
 ところで本日、自宅のEpsonパソコンで、Outlookで返信画面を開こうと思うとハングしてしまう、という障害が発生し、これを何とかしようと4時間も悪戦苦闘して空費してしまいました。Office全体を削除して再インストールしても同じでしたし、システムの復元も試みたのですが、不思議なことに、いつの時点に戻そうとして復元もうまくいきませんでした。SOS!)
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 もう停戦になったのだから、「現在進行形の中東紛争の深刻さ」という「現在進行形」という言葉が入ったシリーズ名の下で書き続けるのはおかしいのではないか、と思われる方がおられるかもしれませんが、レバント紛争(注9)の北方戦域では停戦が成立したけれど、イスラエル対ハマス等の南方戦域ではいまだ停戦に至っていません。

(注9)この紛争を第6次アラブ・イスラエル戦争(The sixth Arab-Israeli war)と呼ぶ人もいる(例えば、
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/story/0,,1851813,00.html
(8月17日アクセス))が、1948年の第1回、1956年の第2回、1967年の第3回、1973年の第4回まではいいとして、第5回が、1982??2000年のイスラエルのレバノン侵攻を指すのか、パレスティナ過激派によるインティファーダ(第一次が1987??1993年、第二次が2000年??)を指すのか定かではない。
 
 北方戦域での停戦発効以降も、南方戦域ではイスラエルが砲撃をガザ地区に加えて死者が出たり、同地区からカチューシャ・ロケットがイスラエル領内に打ち込まれたりしています。
 そして、これまでのところ、パレスティナ側では砲爆撃や地上戦闘で200名近くが死亡し、数百名が負傷しており、イスラエル側では兵士1名が死亡(ただし、友軍誤射)しています。
(以上、
http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/4792313.stm
(8月16日アクセス)による。)
 もう一つ、南方戦域でも北方戦域でも、紛争の発端となったイスラエル兵士の拉致事件はいまだ解決していません。
 以上から、私としては、レバント紛争(ないし第6次アラブ・イスラエル戦争)はまだ終結していない、と考えているのです。
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 米国と英国で、イランやヒズボラをイスラム・ファシスト(Islamic fascistsないしIslamo-fascists)と形容する米ブッシュ政権や英ブレア政権に対し、気持ちは分かるが、問題ありとする主張が散見されます。
 これらの論者が「気持ちは分かる」としているのは、第一に、私がかねてから指摘しているように、エルサレムのイスラム教指導者のフセイニ(Amin Husseini)がナチスドイツと連携し、反ユダヤ主義という点でも意見を同じくしていたこと等、ファシズムと20世紀以降のイスラム原理主義とは同根であるからですし、第二に、ナチスがユダヤ人を収容所に送って虐殺したのは本当にユダヤ人が(資本家や共産主義をコントロールすることによって)世界を支配しておりドイツを破滅させようとしている思い込んで「自衛」のために行ったものであるところ、イスラム原理主義者もまた、ユダヤ人に対し憎しみというよりは恐怖心を抱き、「自衛」行動を行っているという点で共通しているからです
http://www.latimes.com/news/opinion/la-oe-goldberg17aug17,0,4678690,print.column?coll=la-opinion-rightrail
。8月18日アクセス)し、第三に、戦間期の仏伊独におけるファシズムが自由主義的・世俗主義的・国際主義的・腐敗エリートに対する民衆の怒りの産物であったのと同様、イランのイスラム革命はパーレビ王制下の自由主義的・世俗主義的・国際主義的・腐敗エリートに対する民衆の怒りの産物であった点、或いはまた、ナチスドイツが第一次世界大戦でのドイツの敗北の屈辱から生まれたようにヒズボラはアラブのイスラエルに対する長年にわたる連続的敗北という屈辱から生まれたという点、等の共通点も見られるからです
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/08/17/AR2006081701193_pf.html。8月18日アクセス)。
 ここまでは、私もその通りだと思います。
 他方、彼らが「問題あり」としている理由は以下の通りです。
 第一に、イスラム・ファシストという呼称は、あたかもヒトラーやムッソリーニをキリスト教・ファシストと呼ぶようなものであり、それはイスラム教(徒)やキリスト教(徒)を貶めるものであるからだというのです
http://news.bbc.co.uk/2/hi/americas/4785065.stm
(8月13日アクセス)、及びワシントンポスト上掲)。
 第二に、イラクのフセイン政権は、その軍国主義的ナショナリズムと言い、秘密警察と言い、国家至上主義的な、まさにファシストらしい政権だったが、非イスラム的な世俗主義的政権だった。ところが、イスラム世界の大部分の人々は、イスラム教に対する忠誠心を国家に対する忠誠心より上位に置いている。タリバン等のイスラム原理主義者は特にそうだ。いくら反欧米だからと言ってフセイン政権とタリバン等を一括りにしてイスラム・ファシストと呼ぶのは荒っぽすぎる
http://www.latimes.com/news/opinion/la-oe-nunberg17aug17,0,5757144,print.story?coll=la-opinion-rightrail
。8月18日アクセス)からだというのです。
 私は、これは枝葉末節な議論だと思います。
 ファシズムを、悪の文明である欧州文明の歴史の中で巨視的にとらえれば、それがスターリニズムと双子の兄弟であることは明らかであり、スターリニズムは共産主義ファシズムと言い換えられるのではないでしょうか。
 経済面ではファシズムは市場を組織(国家)より重視し、スターリニズムは組織(国家)を市場より重視すると標榜していましたが、実態はそれほど違わなかった上、どちらも民主主義的独裁や国家至上主義(注10)や秘密警察による恐怖政治といった属性を共有していたという点で瓜二つだったからです。

 (注10)共産主義は本来国際主義的イデオロギーだが、共産主義をロシア国家主義のイデオロギーへと「矮小化」させたのがスターリニズムだ。

 フセイン・バース党政権はイスラム世界におけるファシスト政権であるのに対し、イスラム原理主義のタリバン政権はイスラム世界におけるスターリニズム(注11)政権であり、これらを総称してイスラム・ファシストと呼ぶことは極めて自然で論理的なことではないでしょうか。

 (注11)本来国際主義的宗教であるイスラム教をそれぞれ国家主義と国家内党派主義のイデオロギーへと「矮小化」させたのがイスラム原理主義のタリバンであり、ヒズボラであるということだ。ちなみに、アルカーイダ系テロリストは、ファシストそのものではなく、ファシスト的(=ファシストと親和性を有する)テロリストといったところだろう。
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(続く)