太田述正コラム#1441(2006.10.10)
<北朝鮮核実験か(続)>

1 依然謎の爆発規模

 世界各国からの核実験監視データを集約しているウィーンのCTBT機関(注1)準備委員会によると、今回の爆発による揺れの規模はマグニチュード(M)4.0(誤差0.3以内)でした。一般に揺れを招くのは実際の核爆発エネルギーの1%とされるため、M4.0ならTNT火薬換算で1,500トン(1.5キロトン)に相当します。一方、ロシアは5??15キロトンとしています。

 (注1)The Comprehensive Nuclear Test Ban Treaty Organization=包括的核実験禁止条約機関。この条約は、核保有国か実験用原子炉を保有する44カ国以上が批准して発効するが、まだ34カ国しか批准していない。米・中・印・パキスタン・イスラエル・北朝鮮は批准していない。CTBTの監視網は、世界約100ケ所から得られるデータによって1キロトン程度以上の地下核実験を探知することを目指している。1キロトンは、広島型原爆(濃縮ウラン型)の約15分の1、長崎型原爆(プルトニウム型)の約20分の1相当だ。これより小さい核爆弾は高度な製造技術が必要で、米ロなど核実験を重ね、大量に核兵器を保有する国にしか製造できないと考えられているためだ。

 これらは、昨日韓国等が報じた推定値より大きいものです。
 他方、フランスは、約500トンだとしており、これは韓国の推定値並です。
 米国政府は、まだ公式には何も言っていませんが、米国の政府専門家達は、恐らく1キロトン前後かそれ以下だったと見ています。
 なお、核爆発ではなく、在来型爆弾を爆発させたものではないかという憶測もあることに対しては、これら政府専門家達は、実験場を含む地域は偵察衛星によって監視されてきており、数百トンから1,000トン内外の在来型爆弾を運び入れた形跡がないことから、核爆発ではあったと見ています(注2)。

 (注2)この点については、実験によって発生した放射性物質を米軍や航空自衛隊が航空機で収集しており、その分析結果が収集後72時間後には出るのではっきりしよう。なお、地下核爆発の規模が大きければ大きいほど、回りの岩盤が溶解・粉砕されて防壁となるため、放射性物質が空中に放出されにくくなるが、今回の爆発の規模は小さいため、核爆発だったとすれば、確実に放射性物質を収集できると考えられている。

 現時点では、米国のある政府専門家は、核実験は「失敗に近いものだったと思われる<が、>・・地震波の規模があまりにも小さく、当局者らは確実な結論を下すことができずにいる」とし、別の政府専門家は、「規模が小さ過ぎる。北朝鮮は今回の実験で意図した結果を得ることができなかったとみられる」としています(注3)。

 (注3)核爆弾は100万分の1秒程度という瞬時に爆発しないと、連鎖反応がうまく続かず「未熟核爆発」になることがある。長崎原爆でも核反応を起こしたのは、6キロのプルトニウムのうち5??6分の1程度だったという。韓国政府が公表した地震波では大きな波がいくつかに分かれ、「理想的な核爆発」とは考えにくい面もある。

 米国の更に別の政府専門家は、今回の核実験が失敗であって、核爆発が部分的にしか起きなかったとしても、そんな核爆弾であってもテロリストは欲しがるだろうし、今後北朝鮮は改善を重ねていつかは成功するであろうことから、気休めにはならない、と語っています。
 (以上、
http://www.asahi.com/international/update/1010/006.htmlhttp://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2006/10/09/AR2006100900543_pf.html
http://www.sankei.co.jp/news/061010/kok000.htmhttp://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2006/10/10/20061010000006.htmlhttp://www.nytimes.com/2006/10/09/world/asia/10detectcnd.html?_r=1&oref=slogin&pagewanted=print
(いずれも10月10日アクセス。以下同じ)による。)

2 各国等の反応

 公式には核保有を認めていないイスラエルを除き、パキスタン・インドを含む全核保有国が今回の北朝鮮の核実験を非難しています。EUも国際原子力機関も、インドネシア等のめぼしい非核保有国も非難しています。
 ただし、核疑惑の渦中にあるイランだけは、米国が北朝鮮を恫喝し侮辱したから北朝鮮は核実験に追い込まれた、と米国に矛を向けています。
 (以上、
http://www.nytimes.com/2006/10/09/world/asia/09cnd-nuke.html?ei=5094&en=e294c996e3f77f14&hp=&ex=1160452800&partner=homepage&pagewanted=print
による。)

 米国は9日、北朝鮮制裁決議草案を国連安保理に提出しました。
 この草案は、北朝鮮が6日の安保理議長声明を無視して核実験を強行したことを非難し、国連加盟国に対して、武器・核兵器・弾道ミサイル関連物資・指導者層が消費するぜいたく品の輸出入や技術移転の禁止、マネーロンダリング(資金洗浄)・麻薬・通貨偽造等の違法行為に関連した金融資産などの凍結、北朝鮮に行き来する貨物の検査、などを求め、更に、6カ国協議への復帰と核開発放棄を北朝鮮に要求し、決議採択から30日以内に北朝鮮の行動を再検討の上、必要なら追加措置を取るとしています。日本は、草案が定める物資の移転防止のため、北朝鮮籍船舶などの入港禁止、北朝鮮産物資の輸入禁止、北朝鮮高官の入国禁止、制裁委員会の設立、などの措置も盛り込むよう補足意見を出しました(http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20061010k0000e030022000c.html)。

3 コメント

 ここ一両日中に、核爆発であったか否か、核爆発であったとして、それが成功であったか失敗であったか、が判明する可能性が高く、また、国連による当面の北朝鮮制裁措置の内容が固まりそうです。
 いかなる成り行きになるか、手に汗を握って見守ろうと思います。