太田述正コラム#1452(2006.10.16)
<北朝鮮核実験か(続x7)>

1 始めに

 北朝鮮制裁決議の8条f項には、「国連全加盟国は、国内当局の手により、かつ国内法に準拠し、更に国際法に合致する形で、必要に応じ、北朝鮮との間を行き来する積載荷物(cargo)の徹底検査(through inspection)を含む協力的行動をとることが求められる(all Member States are called upon to take, in accordance with their national authorities and legislation, and consistent with international law, cooperative action including through inspection of cargo to and from the DPRK, as necessary)」と書かれており(
http://www.un.org/News/Press/docs/2006/sc8853.doc.htm。10月15日アクセス)、禁制品を積載している懼れのある船舶等に対し、いわゆる臨検を行うことが認められました。
 ニューヨークタイムスのある記事(
http://www.nytimes.com/2006/10/15/world/asia/15nations.html?ref=world&pagewanted=print。10月15日アクセス)は、この条項は、公海上で軍事力を用いて船舶に停船を求める権限を与えていない、と指摘していますが、どう考えてもそうは読めません。
 そこで、いわゆる臨検が認められた、という前提で議論を進めたいと思います。

2 日本のなさけない状況

 朝日新聞の記事(http://www.asahi.com/politics/update/1015/001.html。10月15日アクセス)の一部をそのまま転載しましょう。

 「米国などに比べ、日本が実施できる船舶の検査には制約が多い。国連海洋法条約は、公海上での海賊行為などを取り締まるため、軍艦が外国船を「臨検」することを認めている。しかし、日本には根拠となる国内法がないため、できない。<「周辺事態法」に言う>周辺事態の際には<「船舶検査法」に基づき、>海上自衛隊による「船舶検査」ができるが、武器使用などに制約はある。船舶検査では、日本の領海や周辺の公海を監視中に不審船舶を発見すると無線通信、発光や手旗で注意を喚起。応答がなければ、信号弾を打つ。さらに無線で船名、船籍港、船長名、目的港、積み荷を問い合わせる。不審な場合は、相手の船長に停止を「要請」。隊員が相手船舶に乗り込むのも船長の「承諾」が必要だ。書類や積み荷を検査し、禁輸品を積んでいないことが確認できない場合は、目的港や航路の変更を「要請」する。停船の要請に応じなかった場合は、追尾や伴走をするなどして「説得」し続けるしかない。米国などのように相手船舶の前方の海面に警告射撃をすることは、憲法で禁じた武力による威嚇にあたるとして許されない。日本の船舶検査は、現状が「日本の平和と安全に影響する」など周辺事態6類型にあてはまることが必要だが、防衛庁首脳は「国連決議だけでは認定できない。認定しても後方支援は米軍だけにしかできない」と消極的だ。しかし、米国は「意味ある貢献」(シーファー駐日大使)を求めてきているため、外務省では「周辺事態の認定は可能だ」という主張が強い。」

 どう思われますか?
 笑っちゃいますよね。
 同じ記事によれば、「自民党国防族は船舶検査に強制力を持たせる特措法の制定を主張。船長が拒んでも検査を強行できるようにしたり、船舶検査活動への後方地域支援を米軍以外の他国軍にも広げたりする考えだ」そうですが、この国防族のドンとも言うべき山崎拓前自民党副総裁(元防衛庁長官)は、「周辺事態法が想定するのは北朝鮮が暴発した状態だ。まだそこまではいっていない・・臨検を行えば宣戦布告とみなし北朝鮮が暴発する可能性がある。日本に被害が出ることも覚悟しなければならない・・<だから>米朝協議をやるしかない」と述べており(
http://www.sankei.co.jp/news/061014/sei005.htm
。10月15日アクセス)、自民党がこの期に及んで、まだ吉田ドクトリンの呪縛から解放されていないことが良く分かります。
 要は、山崎氏らが、本当に拉致問題や核問題を解決したいと思っているかどうかです。
 解決するためには、北朝鮮の体制変革ないし体制崩壊以外ありません
 現時点では、北朝鮮が弾道弾に搭載できるところまで核弾頭の小型化に成功している可能性は限りなくゼロに近いし、北朝鮮は米本土に到達する長射程弾道弾の開発にも成功していません。だから、日本列島が北朝鮮の核攻撃を受ける可能性は限りなくゼロに近いし、そもそも、米国の核抑止力も完全に機能しています。
 北朝鮮を叩くのは今しかないのです。
 臨検を行うだけで山崎氏が言うように「北朝鮮が暴発する可能性がある」上、今後次第に制裁が強化されていくにつれて、その可能性はますます高くなります。暴発してくれれば、米国は北朝鮮に限定的武力攻撃をかけ、北朝鮮の体制変革ないし体制崩壊がもたらされることが期待できます。
 北朝鮮がどうしても暴発しなければ、最終的には、制裁を非軍事的措置に限定した「国連憲章7章・・41項の措置をとる」(
http://www.un.org/News/Press/docs/2006/sc8853.doc.htm
前掲)という現決議のしばりをはずす新決議が行われて、米国は晴れて一方的に限定的武力攻撃ができるようになることでしょう。

3 米軍の準備状況

 米統合参謀本部議長のペース(Peter Pace)海兵隊大将は、12日、20万もの兵力がアフガニスタンとイラクに割かれているものの、米軍はなお200万人の兵力を控置しており、北朝鮮との戦争が起こったら、海空兵力を中心に戦い、勝利すると語りました。
 ペースは同時に、米軍の武力攻撃は、誘導システムの大半が中東で使用されていることから、精密照準ができないので、爆弾を沢山用いる「汚い」ものになるだろう、と述べました。
 無人偵察機であるグローバル・ホークやプレデターを余り使えないので、北朝鮮は悲惨なことになる、というわけです。
(以上、
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-pace13oct13,0,2395298,print.story?coll=la-home-headlines
(10月14日アクセス)による。
 どうやら金正日体制は、滅びる時にもまた、一般市民の犠牲者の山を築くことになりそうですね。