太田述正コラム#12287(2021.9.25)
<三鬼清一郎『大御所 徳川家康–幕藩体制はいかに確立したか』を読む(その6)>(2021.12.18公開)

 「「南北朝正閏論争」は、学説上の見解の相違が政治上の争いに発展したケースであるが、民衆の間には、それとは別の次元で南朝支持が広まっていった。
 ・・・湊川<の戦いの>・・・話・・・は、修身や国語の授業で教わっていたが、・・・唱歌<(注14)>として親しまれ、人々の心に焼きつけられたのである。

 (注14)桜井の訣別。「「青葉茂れる桜井の」、あるいは「大楠公の歌」ともいう。・・・<1336年、>桜井の駅まで進軍して来た正成は意を決し、息子・正行を呼び、「兵庫へは討死覚悟で出陣するが、汝は故郷へ帰るように」と告げる。正行は「いかに父上の命とは言えど、年若くとも死出の旅の供をしたい」と願い出る。正成は「私の死後は尊氏の天下となろう、その日に備え成長し、国の為に天皇に仕えよ」と諭す。さらに先年、天皇より賜った刀を差し出し、これを我が形見にせよと言い残し、「老いた母の元に帰れ」と正行に告げ、両者は泣く泣く別れ行く。・・・
 作詞は落合直文、作曲は奥山朝恭による。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A1%9C%E4%BA%95%E3%81%AE%E8%A8%A3%E5%88%A5

 また・・・児島高徳<(たかのり)の>・・・話<(注15)>も共感を呼んでいた。

 (注15)「1332年<、>・・・後醍醐天皇<の>・・・隠岐へ遠流・・・護送団・・・<の>警護の前に天皇の奪還を断念、傍にあった桜の木へ「天莫空勾践 時非無范蠡」(天は春秋時代の越王・勾践に対するように、決して帝をお見捨てにはなりません。きっと范蠡の如き忠臣が現れ、必ずや帝をお助けする事でしょう)という漢詩を彫り書き入れ、その意志と共に天皇を勇気付けたという。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%90%E5%B3%B6%E9%AB%98%E5%BE%B3

 民衆が南朝に寄せる素朴な親愛感は、現実の天皇が北朝系であるという明白な事実とも齟齬することなく、天皇そのものへの強い支持へと広まっていった。
 このような心情は、大正から昭和初期にかけて、さらに巨大な姿で立ちはだかる神格化された天皇像を根付かせ、底辺から支えたのである。・・・
 家康は、朝鮮・明をはじめ琉球・台湾や東南アジア諸国との関係を回復させ、国際的な孤立状態から脱却することが、駿府政権の基盤を固める道であることを熟知していた。

⇒17世紀に入ってからの家康時代の日本は、スペイン/ポルトガルのほか、英蘭や、東南アジアのいくつかの国とも交流があり、「国際的な孤立状態」であったとは到底言えそうもありません。だからこそですが、家康が「国際的な孤立状態から脱却することが、駿府政権の基盤を固める道である」と思っていたことを裏付ける典拠を三鬼は示していません。(太田)

 家康の強みは、朝鮮へ全く兵を送っていないことであった。
 朝鮮出兵の際、家康は軍勢を率いて前線基地にあたる肥前の国の名護屋城に在陣したが、秀吉からの渡海指令は受けなかった。
 このときの出兵は、九州・四国・中国地方に所領をもつ大名を主体に構成されたのであるが、結果として家康は、秀吉の対外膨張主義と対極的な立場にある人物のような印象を与えたように思われる。・・・
 武家政権は朝鮮対等観、朝廷・公家政権は・・・厩戸皇子<以来の>・・・朝鮮蔑視観を基調としていた・・・。・・・

⇒首を傾げたくなるけれど、追究しないことにしましょう。(太田)

 <その>朝鮮は、江戸時代を通じて対馬の宗氏を介して日本と外交関係をもつ「通信の国」であった。
 通信とは「信(まこと)を通わせる国」<と>いう意味で、ただ連絡をとりあうだけということではない。
 朝鮮からは、将軍の代替わりなど慶祝の際に通信使が派遣された。
 また、薩摩の島津氏を介して繋がっている琉球も「通信の国」である。
 日本はこの二国だけと外交関係を結んでいたのである。

⇒1609年に、家康の指示を受けて島津家久が琉球侵攻を行い、薩摩藩が琉球を事実上併合しており、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%90%89%E7%90%83%E4%BE%B5%E6%94%BB
三鬼が、朝鮮と琉球を同列で一括りにしていることには違和感があります。(太田)

 また、正式の外交関係はもたないが貿易を行っている国は中国(明、のち清)とオランダである。
 この二国は「通商の国」と呼ばれ、長崎を窓口として繋がっていた。
 このほか、蝦夷島(えぞがしま)(北海道の最南端)を領有する松前(蠣崎)氏は、北方のアイヌ民族と交易を行っていた。」(81~82、96、99~100)

(続く)