太田述正コラム#1555(2006.12.5)
<FACTAと貸金業規制法改正>

1 始めに

 本日は12月9日ですが、12月5日に1扁しか上梓しなかったことで、ホームページの時事コラム欄に空きがあるので、それを埋めがてら、PRを打たせてもらいます。
 ただし、単なるPRにしたくないので、コンテンツもつけました。

2 FACTA

 高校の同級生の阿部重夫君が、今年「FACTA」という総合誌(月刊)を立ち上げました。
 予約購読方式なので、本屋にはありません。
 面白そうだと思ったら、購読してあげてください(http://facta.co.jp)。
 実物を手にとって読むことができないのでは、判断しようがないと言われるかもしれません。
 だけど、「選択」という経済総合誌(月刊。やはり予約購読方式)をご存じの方はかなりいらっしゃるはずです。
 FACTAはこの選択と、そっくりの雑誌だと思ってください。
 阿部君は1999??2003年に選択の編集長を務めており、この雑誌の親会社の不祥事を機に辞職して、雌伏の後、ファクタ出版株式会社を設立し、FACTAの創刊に漕ぎ着けたものです。
 お気づきかと思いますが、彼は選択の編集長当時、私の書いたものを二度、同誌に掲載してくれました。
 ただし、私がFACTAを推薦するのは、あくまでも私が、彼のジャーナリストとして、そして編集者としての能力を高く評価しているからです。
 ちなみに阿部君は、東大文卒、日本経済新聞ロンドン駐在編集委員、論説委員、という経歴であり、中公新書から「イラク建国「不可能な国家」の原点」を出しています。

3 貸金業規制法改正をめぐって

 (1)背景

 利息制限法は年利の上限を15??20%と定めていますが、1983年にできた貸金業規制法では、(1)業者が一定の書面を交付、(2)借り手が任意で支払う、という条件で、出資法の上限(同29.2%)までの「グレーゾーン金利」を認めています。これは、上限を超えた利息を支払っても返還を求めることが出来るという判例を「骨抜き」にする立法だったとされており、消費者金融等の貸金業者はこの法律を根拠に高金利を受領し、空前の利益を上げてきた一方で、多重債務者などの自己破産は年間20万件にのぼり、借金苦で多数の自殺者が出るに至っていました(注)。

 (注)消費者金融が貸し付け相手に生命保険をかけていた問題については、http://www.nikkei.co.jp/neteye5/ota/(11月20日アクセス)参照。

 そこへ、今年1月に最高裁判決が出て、貸し金業者のほとんどが設けている「返済が滞れば一括弁済する」という特約が「借り手に高利を事実上強制するもの」として(2)に当たらないとされた結果、そのままでは貸金業者は超過利息の受領が不可能になってしまいました。
 そこで、10月31日、政府は、グレーゾーン金利を撤廃し、多重債務者救済につながる貸金業法改正案を国会に提出したわけです。

 (2)FACTAの問題提起

 FACTA、つまりは阿部君は、この動きに真っ向から反対しました。

 「上限金利引き下げという経済政策と、多重債務者を減らす社会政策は本来別である。金利はお金の価値を示す。収入が少ない人、信用力のない人にとってのお金の価値は高く、自然に金利は高い。・・金利をこうした市場メカニズムにさらすことを資本主義社会という。弱者をないがしろにするわけではない。真っ先に元凶のリボローン(元本返済をさせない融資)をやめさせ、強引な債権回収に厳罰を下し、信用情報センターで業界が独占する与信情報は銀行・カード会社と共有すればよい」という理屈です。
そして阿部君は、この動きの背後に、金融庁の与謝野馨金融担当相(当時)の大衆迎合、五味廣文金融庁の神奈川県知事選出馬意欲(?)、本件の事務担当者の森雅子企画課課長補佐(任期付き採用の弁護士。当時)の、父親がサラ金で苦しんだ事への私怨、があったのではないか、と指摘しています。
 (以上、
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20061105k0000m040105000c.html
(11月5日アクセス)、FACTA2006年10月号14??15頁 による。)

 そう言えば、森さんはその後、10月の福島県知事選に自民党から推されて立候補して大敗したのでしたね(
http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/senkyo/archive/news/2006/11/20061113dde001010008000c.html)。

 (3)消費者金融事情

 消費者金融大手4社のデータによれば、このところ、口座数が減少する一方で1口座当たりの貸付残高は増えています。また、新規契約は減少し、申込みに対して実際に融資に応じた契約率も低下しています。
 つまり、このところ、消費者金融大手は、新規顧客が減少する中で、既存顧客にできるたけ多くの与信を与えて、貸し付け総額を一定に維持し、収益を確保しようとしてきた、と考えられるのです。
 こうして、多重債務者中、債務残高が年収の4割を超える者が450万人、5割を超える者が300万人にも達するに至ったのです。
 ここから分かることは、消費者金融業が、すでに行き詰まりの様相を呈していた、ということです。
 ですから、何らかの形でこの業界に抜本的なメスを入れる時期に来ていたことは確かなのです。
 貸金業規制法改正案が成立すれば、上述したように上限金利が引き下げられるほか、年収の3分の1を超える融資が禁止され、業者の新規参入に対するハードルが引き上げられるので、多重債務者の多くは従来の消費者金融から返済資金を貸し付けてもらえなくなることは必至であり、こうした人々が、ヤミ金に殺到することを防止するとともに、彼らを自己破産や任意整理に誘導してやる必要が出てきます。また、彼らに対する公的融資などセーフティー・ネットの整備も必要になります。
 しかし、多重債務者に対するこのような救済策の検討は後回しになっているのです。
 (以上、日経ビジネス2006年12月4日号 134??137頁)

 (4)私見

 このように見てくると、FACTAは問題提起の前段で、上限金利の引き下げの必要性は認めた上で、もっぱら「多重債務者に対する社会政策」の遅れを問題にすべきだったように思います。
 また、問題提起の後段の与謝野・五味・森批判は、民主主義の否定につながりかねないイエロージャーナリズム的臭みを感じさせます。
 しかし、貸金業規制法改正の本体に対する慎重論が国会内で全く提起されず、国会での議論と言えば、激変緩和のための経過措置の必要性をめぐる議論だけであった(FACTA前掲)からこそ、FACTAのような問題提起は貴重であったのではないでしょうか。