太田述正コラム#1557(2006.12.9)
<イラク報告書批判(続)>(有料)

1 始めに

 イラク報告書に対する批判はまだまだ続いています。
 今回は、クルド人からの批判と、米国内からの批判をご紹介した上で、そもそもこの報告書をとりまとめたベーカー元米国務長官の本当のねらいはどこにあるのかをさぐってみましょう。

2 クルド人からの批判

 和解した元政敵のタラバニ・・をイラク大統領へと送り出し、自分はクルド人地区の総帥として残ったバルザニ・・氏は、・・「新生イラクがその上に築かれているところの連邦主義と憲法という原則に反して」イラクの中央政府の強化を訴えていることを批判しました。
 そしてこの批判に、タラバニ大統領も同感の意を表したのです。
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3 米国内からの批判

 米国のリベラルには、ブッシュ政権を批判しているとして評判が良いのですが、保守派からは、この報告書は降伏主義であるとか、イスラム・テロの淵源であるイランやシリア等と交渉せよだなど、一体何を考えているのかとか、ブッシュ政権が掲げてきた民主主義を中東に普及させるという話に全く触れていないことはけしからんとか、激しい批判が投げかけられています・・

 <ある有識者は、>報告書が、その1頁目で「イラクは世界第二の石油埋蔵量を持っている」と記し、提言第63で、イラクの石油セクターの完全民営化、つまりは米国等の国際石油資本にイラクの石油資源を自由にさせること、<等>を謳い、・・ブッシュ政権及びその背後にある米石油資本のホンネをあまりにも露骨に書いていることを批判しています。
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3 ベーカーの本当のねらい

 ベーカーが耄碌していると言う人は誰もいません。
だとすれば、一体どうして彼はあえてこんなにできの悪い報告書をつくったのでしょうか。
 英<国>のコラムニストのスティール・・の深読みは次のとおりです。

 第一の理由は、米中間選挙対策だろう。・・結果的には、選挙で惨敗したのだから、このもくろみは成功しなかったことになる。
 第二の理由は、民主党のブッシュ政権批判を和らげることだ。「超党派」メンバーが、コンセンサスに到達して報告書をとりまとめたのだから、これにはある程度成功したことになる。・・ブッシュが失敗した場合の逃げ、が報告書の随所に散りばめていることも忘れてはならない。
 第三の理由は、報告書が「政治的両極化の時にあっては、米国民が団結しているかどうかが成功の分かれ目だ。・・幅広い持続的コンセンサスによって支えられない限り、外交政策は、そしてイラクにおけるいかなる活動も、失敗する運命にある」と述べることによって、ブッシュの対イラク政策が失敗した場合に、米国民にその責任を転嫁することができるようにした、ということだ。

 そもそも、この報告書の核心部分は、ブッシュが既にやっていること・・米軍の完全撤退については現を左右にしつつ、米軍を前線から下げて米軍の死者の数を減らす・・を追認しただけ、という代物だ。
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4 感想

 ベーカーを操っているのがブッシュ父元米大統領であるとすると、ブッシュはまことに偉大な父親を持ったものですね。
 また、やはり英国人にかかると、できそこないの米国人がやることなど、すべてがお見通しなのですね。