太田述正コラム#1744(2007.4.22)
<暮れゆく覇権国の醜聞(続x3)>(2007.5.23公開)
1 ロサンゼルスタイムスとワシントンポストも退陣要求
 遅ればせながらロサンゼルスタイムスが16日付電子版の社説(
http://www.latimes.com/news/opinion/la-ed-wolfowitz16apr16,0,4176122.story?coll=la-opinion-leftrail  
。4月17日アクセス)でウォルフォヴィッツ世銀総裁退陣要求を掲げたかと思ったら、ワシントンポストまで、同日付電子版の記名論説(
で、最近までブッシュ大統領の側近中の側近であったカール・ローブ(Karl Rove)、悪評さくさくの司法長官ゴンザレス(Alberto Gonzales)、元ブッシュ政権交換であった世銀総裁のウォルフォヴィッツの三名を一斉に批判するという形で、実質的な総裁退陣要求を行ったことで、英ファイナンシャルタイムス、英ガーディアンに遅れてこわごわ(?)始まった米主要プレスによる総裁退陣要求も、ようやく英米主要メディアを横断的に網羅した論調になろうとしています。
 もっとも、このワシントンポスト論説自体、今一つ歯切れが悪いだけでなく、ロサンゼルスタイムスも翌17日付電子版に、ジョンズホプキンス大学の国際法・外交教授の総裁擁護論(
http://www.latimes.com/news/opinion/commentary/la-oe-wedgwood17apr17,0,1473306,print.story?coll=la-home-commentary。4月17日アクセス)を掲載する、という具合であり、心許ない感は否めません。
 これら米各紙と並ぶリベラル派にして反ブッシュ政権のスレート誌が、17日の段階で、総裁批判論(
http://www.slate.com/id/2164340/entry/0/  
。4月18日アクセス)と擁護論(
http://www.slate.com/id/2164368/  
。4月18日アクセス)を併せ掲載しているところにも、米リベラル派の正体を見た思いがするのは私だけではないでしょう。
2 総裁に不利な動き更に三つ
 
 (1)新たな醜聞の浮上
 この間、総裁とリザがらみのもう一つの醜聞が浮上しました。
 2003年にイラクのフセイン政権打倒後、当時の国防副長官であったウォルフォヴィッツの意向を受けて、政策担当次官のダグラス・フェイス(Douglas J. Feith)のオフィスが、契約業者に世銀職員でウォルフォヴィッツの愛人であったリザを雇って女性事情の調査にイラクに一ヶ月間派遣するよう依頼したというのです。
 リザは、有給休暇をとってイラクを訪問したのですが、これは軍事占領下にある地域への世銀資金の投入を控えることとし、世銀職員のイラク訪問を禁じていた世銀の方針に違反する行為でした。
 (以上、
http://www.nytimes.com/2007/04/17/washington/17wolfowitz.html?pagewanted=print
 (2)世銀内の上級幹部達の叛乱
 
 世銀内の総裁に次ぐナンバー2二人のうちの一人が18日、総裁を含む上級幹部会同の席上、総裁の退任を求めました。
 世銀内は、総裁退任を求めているのが中南米、東アジア、南アジア担当部局と多数であり、総裁を擁護しているのはアフリカと中東を担当している部局くらいです。
 (以上、
http://www.ft.com/cms/s/f1f83f4c-ee04-11db-8584-000b5df10621.html
(4月19日アクセス)による。)
 (3)世銀理事会調査対象の拡大
 20日、世銀理事会は、リザの件だけでなく、そのほかの総裁による人事等、世銀の行為規範や倫理規定に違反する懼れのある事項についても調査の対象にすることを決定しました。
 これは、総裁が米国防省から連れてきた側近二人の件も調査の対象となることを意味します。
 (以上、
http://www.guardian.co.uk/imf/story/0,,2062342,00.html  
(4月21日アクセス)による。)
 それだけではありません。
 世銀の、腐敗調査部局である制度的インテグリティー部の部長に、世銀内に設けられた推薦委員会が世界中から選び面接まで行った7名の候補を無視して、総裁が2006年1月、共和党支持者である米国の女性弁護士を正式に任命したことも問題視され始めています。
 ウォルフォヴィッツは、選挙で選ばれた首長が幹部を自分の支持者達ですげ替えるという米国流のやり方をそのまま世銀に持ち込んだことで、国際機関である世銀内で強い反発を生んでいるのです。
 (以上、
http://www.ft.com/cms/s/f9c1ed74-ef6a-11db-a64e-000b5df10621.html  
(4月21日アクセス)による。)
3 なさけない米保護国・日本
 上記世銀上級幹部達の中で、明確にウォルフォヴィッツ総裁を擁護しているのは、米国、カナダ、日本からの出向者だけだと報じられています(
http://www.nytimes.com/2007/04/20/business/20cnd-wolf.html?hp=&pagewanted=print  
。4月21日アクセス)。
 出向者は当然母国の指示に従っているわけであり、米国にいいなりの日本はなさけないとしか形容のしようがありません。
 それにしても、電子版を見る限り、ウォルフォヴィッツと心中するかのようなこのような日本政府の姿勢に対し、日本のメディアも野党も全く問題にしていないことは、遺憾です。