太田述正コラム#2013(2007.8.21)
<米印原子力協力と日本>
1 始めに
 「2006年12月18日にブッシュ大統領が署名して成立した米印平和原子力協力法<(Hyde Act)>・・は、NPTに加盟していない国への核<技術や核燃料の>・・輸出を禁止した国内法においてインドを特別扱いすることを認めるものである。
 その代わり、インドは、<今後核実験を行わないこととし、また、民生用原子炉について、IAEAの査察を受けることとしている。>
 日本も含む45ヶ国からなる原子力供給国グループ(NSG<=Nuclear Suppliers Group>)は、NPT未加盟国への原子力関連輸出を認めていないため、この規則の改定が必要となる。NSGは、コンセンサスでものごとを決めるので一国でも反対すれ ば改訂はできない。・・
 米国の国内法もNSGも、1974年にインドが行った核実験を契機に出来たものである。インドは、「平和利用目的」で入手したカナダ製の原子炉・・で米国製の重水を使ってプルトニウムを生産し、これを材料として核実験を行った。米国は、このような「平和利用」技術の軍事用転用が生じるのを防ぐために作った法律と、自らが主導して設立したNSGの規則を対中国の戦略的構想の下で変えようとしている。・・
 <日本には、>米印両政府や国内の産業界などからNSGで米印原子力協力を支持するようにとの圧力がかかっている。」
 (以上、
http://kakujoho.net/us/us_ind3.html
(8月20日アクセス)、及び
http://news.bbc.co.uk/2/hi/south_asia/6955652.stm
(8月21日アクセス)による。)
 以上を踏まえ、「核兵器を持ちNPT(核拡散防止協定)にも加盟していないインド。核兵器廃絶という立場に立つ日本ですから本来は米印原子力協力にも反対しなければなりません。もちろんインドが核兵器を放棄し、今後一切軍事用の核開発をしないと約束するなら話は別でしょうが、そんなことはありえないでしょう。・・」という投稿が情報屋台の掲示板になされたので、これに答える形で私も投稿しました。
 以下は、その投稿です。
2 私の投稿
 日本は米国の保護国であり、米国の核抑止力に依存する立場ですから、米国の主要核政策に背馳するような政策を日本が貫き通せるわけがありません。
 そう言ってしまうと身も蓋もありませんが、本件を考えるにあたっては、少なくとも以下のような諸事情を勘案すべきでしょう。
 1974年にインドは「平和目的」で核実験を行いましたが、1998年5月に一連の核実験を行い、核保有を宣言したのは成立間もない、ヒンズー教政党たるBJP(Bharatiya Janata Party) 政権でした(
http://www.ucpress.edu/books/pages/8386/8386.ch01.html
。8月21日アクセス)。
 2004年にシン(Manmohan Singh)氏を首相とする現在の国民会議派中心の連立政権が成立した(コラム#354、355)のですが、この政権が推進している米印平和原子力協力に対し、最大野党の右派のBJPと現連合政権に閣外協力している左派の4つの共産党が反対しています。
 BJPの反対理由は、インドが今後核実験を行えなくなり(注)、しかも民生用原子炉に対しIAEAの査察を受けることは、インドの核安保政策のフリーハンドを失わせるというものです。
 (注)米国の米印平和原子力協力法は、インドが核実験を行ったらこの法律は自動的に失効すると規定している。また、その場合、米国はこの協力法に基づいてインドに供与された核技術と核燃料を返還するよう求める権利を留保している。
 共産諸党は、米国の経済的政治的覇権への反対を党是としており、とりわけ米国によってインドのイラクやイラン政策に制約が課されることを懼れています。
 連立政権としては、BJPの反対は仕方がないとしても、共産諸党が閣外協力を止めると政権運営が成り立たなくなるので悩ましいところです。
 (以上、特に断っていない限り、BBC前掲及び
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/08/19/AR2007081900882_pf.html
(8月21日アクセス)による。)
 以上ご説明したように、米印原子力協力は、インドの核開発に制限を課する側面があることから、必ずしも核廃絶を推進してきた日本の立場と抵触するわけではありません。
 しかも、インドが世界第2の人口大国であり、かつ近年その経済が活況を呈していることから、同国との友好関係を増進させることは日本の国益にも合致します。
 また、(訪印しようとしている)安倍首相にとって、その価値観外交の観点からも、インドの世界最大の民主主義を擁護すべきところ、宗教原理主義的なBJPやアナクロの共産諸党の攻勢に晒されている現中道主義的連立政権の足を引っ張らない配慮が必要でしょう。
 それに何と言っても、インドは、共産党の支配下にある隣国中国と好むと好まざるとにかかわらず対峙している日本にとって、地政学的観点から生来的同盟国であることを忘れてはならないでしょう。
 ですから私は、日本としては、NSGで米印原子力協力に賛成することとし、その上でNPTへの加入等、核開発に係るより一層の制限を受け容れるようにインドに働きかけて行くことが得策であると思うのです。