太田述正コラム#2119(2007.10.12)
<海自艦艇インド洋派遣問題(続)(その5)>
 (3)アフガニスタンかイラクか
 海自が給油した米艦艇が対イラク戦に従事したのではないか、という問題については、既に一度コラム#2066で取り上げたところですが、国会におけるその後の議論の進展も踏まえ、再度この問題に触れておきましょう。
 米国防省は10月10日、海自補給艦「ときわ」から2003年2月25日、米補給艦ペコスが80万ガロンの燃料を補給され、ペコスはその直後、米空母キティホーク(母港は横須賀)に67万5,000ガロンを給油したところ、ペコスからキティホークへの67万5,000ガロンがすべて、「ときわ」から補給された分だったと仮定しても、キティホークの当時の航行速度や作戦行動と照らし合わせると、3日間で消費し尽くす量だとした上で、同艦はこの間、海上阻止活動のための監視などのOEFに従事しており、その後の同28日夜になって、ペルシャ湾北部で、イラク南部の飛行禁止区域を監視する「南方監視作戦(OSW)」の支援活動に入ったという声明を出しました。
 2003年5月にテロ特措法の最初の延長が論議された頃、当時官房長官だった福田首相は、「ときわ」が米補給艦に給油したのは20万ガロンであり、これは空母が1日に消費する量に過ぎず、ペルシャ湾に入る前に使い果たしたはずなので、イラク作戦への転用はありえない、と説明したのですが、上記米国防省声明は、この福田答弁を訂正したものです。
 これについて朝日新聞は、10月11日付の社説で、
 「確かに空母はペルシャ湾に入ったが、日本の燃料を使っていたと思われる3日間はあくまでアフガン作戦だけに従事していたというのだ。空母の艦載機がペルシャ湾内からアフガンまで飛ぶには、国交のないイラン上空を経なければならない。それは無理だろうから、大きく迂回して飛んだことになる。事実なら、なんとも不自然だ。そもそも、空母がイラクに向かってペルシャ湾を航行すること自体が、イラク作戦のための行動であり、テロ特措法の目的から外れているように見える。 」
と疑問を投げかけています。
 (以上、
http://www.asahi.com/politics/update/1011/TKY200710100383.html
http://www.asahi.com/paper/editorial.html
(10月11日アクセス)による。)
 また、これに関連し、「ときわ」が、ペコスに補給したのと同じ日に米イージス艦ポール・ハミルトンにも燃料を直接提供しており、そのペコスがイラク戦争に参加した可能性があるという指摘もなされており、防衛相は、そのポイントは、ポール・ハミルトンが巡航ミサイルのトマホークを搭載していた艦艇なのかどうかだとして、その点を米側に照会したいと国会で答弁しました(
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2007101101000609.html
。10月12日アクセス)。
 アフガニスタンかイラクかの問題については、私は次のように考えています。
 私は、コラム#2066で、
 「こんなことが政治問題化するなんて噴飯ものです。・・インド洋でパキスタン沖に展開している米艦等の行っている業務は、アフガニスタンにもイラクにも共通する、いわば汎用性のある業務ばかりであり、特定の艦艇がアフガニスタン用に業務をしているのかイラク用に業務をしているのか、本来その艦艇に聞いたって分からないはずだからです。それに、この海域に所在する米艦は、すべて米第5艦隊、及びその上級司令部である米中央軍の指揮を受けており、中央軍司令官または第5艦隊司令官の命があれば、ただちに業務を変更したり、パキスタン沖海域を離れて別の海域、例えばペルシャ湾、に赴かなければならないのであり、そんなことを日本が詮索できる立場ではないことを考えればなおさらです。」
と記したところです。
 この際、誤解がないように補足しておきますが、これは米艦がペルシャ湾に入ったらイラク用の業務だけをしているとみなされる、という趣旨ではありません。
 パキスタン沖にいようとペルシャ湾内にいようと、米艦はアフガニスタンにもイラクにも共通する業務を行っているはずであり、このことは、タリバンやアルカーイダがスンニ派の過激派であって、スンニ派の住民が多数を占めるところのペルシャ湾西岸諸国(湾岸諸国)とヒトやカネ等の面で密接なつながりがあり、アフガニスタンやパキスタン北西部と湾岸諸国とを海上ルートで行き来する可能性があることを考えれば当然のことでしょう。
 米国防省が、キティーホークが、ペルシャ湾南部及び中部を北上中は対アフガニスタン業務を、ペルシャ湾北部に到着してからは対イラク業務を行った、と説明したのは日本政府と口裏合わせをしたものであって、この空母は、実際には常に両方の業務を行っていて、ペルシャ湾の北部に行けば行くほど対イラク業務の比重が大きくなった、というのが本当のところでしょう。
 なお、これまで対アフガニスタン業務、対イラク業務といった言い方をしてきましたが、テロ特措法の正式タイトルが、「・・アメリカ合衆国において発生したテロリストによる攻撃等に対応して行われる国際連合憲章の目的達成のための諸外国の活動に対して我が国が実施する措置・・に関する特別措置法」である(
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H13/H13HO113.html
。10月12日アクセス)ことからお分かりのように、特段この法律が、海自の行える業務を「アフガニスタン」に係るものだけに限定しているわけではない、ということも付言しておきましょう。
 なお、以上の議論は、米艦が(攻撃機を艦載しているところの)空母であろうと、空母以外の艦艇であろうと、またその艦艇がトマホークを搭載していようといまいと何ら変わりはありません。
 興味深いのは、朝日が、アフガニスタンに係るものであれば、米艦の活動が狭義の不朽の自由作戦(狭義のOEF)に係るものであるか海上阻止行動(OEF-MIO)に係るものであるかの違いは問題視していないことです。海上阻止行動にあたらないところの、「空母の艦載機がペルシャ湾内からアフガンまで飛ぶ」ことを特段問題視していないのことから、このことは明らかです。
 これは私の認識と同じく、朝日の認識も、狭義のOEFだって米国による単なる自衛権の行使ではなくて国連によってオーソライズされた作戦であることから、狭義のOEFに従事している米艦に対する海自の給油に関して日本による集団的自衛権の行使云々の問題は生じない、というものであるということを推測させます。(ただし、2003年2月時点で既にオーソライズされていたという認識か、その後でオーソライズされたので遡って2003年2月時点でもオーソライズされていたとみなされるという認識かは定かではありません。)
(続く)
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 有料版のコラム#2120(2007.10.12)「集団自決問題と沖縄(その1)」のさわりの部分をご紹介しておきます。