太田述正コラム#2069(2007.9.17)
<退行する米国(続x3)(その1)>(2007.10.18公開)
1 始めに
 退行する米国シリーズでは、ブッシュの(日本にも関わる)ひどい演説の話から出発して米国のファシスト国家化という深刻な結論に到達したわけですが、今後ともこのテーマは機会あるごとにとりあげていきたいと思っています。
 今回は、経済学者のグリーンスパンとライシュのブッシュ批判に触れたいと思います。
2 グリーンスパン
 グリーンスパン(Alan Greenspan。1926年~)は、言わずと知れた、1987年から2006年にかけての18年間、米連邦準備制度理事会議長を見事に勤めあげた経済学者(注1)です。
 (注1)ユダヤ系。ジュリアード音楽院でクラリネットを学び、一流のジャズ奏者と競演したというユニークな経歴を持つ。ニューヨーク大学で経済学の学士号、修士号を取得した後、コロンビア大学の博士課程に入学するもドロップアウト。学位論文も書いていない(?)のに、1977年にニューヨーク大学から博士号(Ph.D.)を授与される。彼は、哲学者でかつ文学者であるランド(Ayn Rand。1905~82年)女史の客観主義(Objectionism)哲学の熱心な弟子でもある(
http://en.wikipedia.org/wiki/Alan_Greenspan
。9月17日アクセス)。
    ちなみに、ランドもユダヤ系であり、ソ連のペトログラード(サンクト・ペテルブルグ)大学を卒業した後21歳の時に米国に亡命し、ハリウッドの脚本書きから出発し、在野の哲学者・文学者として生涯を終えた。彼女の客観主義哲学については、私はその内容をつまびらかにしないが、毀誉褒貶が激しいらしい。いずれにせよ、米陸軍士官学校の卒業式の祝辞の中で彼女は、「米合衆国は、その建国理念において、世界史上、最も偉大で最も高貴で、唯一の道義的な国家であると私は断言できます」と述べたというのだから、私としては、彼女の客観主義哲学なるものは、敬して遠ざけることとしたい(http://en.wikipedia.org/wiki/Ayn_Rand
。9月17日アクセス)。
 グリーンスパンは共和党支持者でもあるのですが、彼がこのたび自叙伝’The Age of Turbulence’を上梓し、その中でブッシュ大統領と共和党を激しく批判していることが話題になっています。
 すなわちグリーンスパンは、クリントンの財政政策とは違ってブッシュの財政政策は、政治的ウケ狙いの放漫財政であり、共和党は、財政規律を権力追求のために犠牲にし、その結果、昨年の上下両院選挙でその両方とも失ってしまった、と力説しているのです(注2)。
 (以上、特に断っていない限り
http://www.latimes.com/features/books/la-na-greenspan15sep15,0,6425254,print.story?coll=la-books-headlines
(9月16日アクセス)による。
 (注2)グリーンスパンが、対イラク戦の本当の目的は石油だったはずだと書いたことも話題になっている。彼によれば、大量破壊兵器疑惑はタテマエとしての対イラク戦開戦理由に過ぎず、開戦の本当の目的が、サダム・フセインがホルムズ海峡を閉鎖して、世界の石油市場を大混乱に陥らせるようなことがないようにするためだったことは明白だ、というのだ。(
http://www.guardian.co.uk/usa/story/0,,2170661,00.html
。9月17日アクセス)
3 ライシュ
 ライシュ(Robert Reich。1946年~)カリフォルニア大学バークレー校教授は、クリントン時代の1993~97年に労働長官を勤めた、日本でもおなじみの経済学者です。
 彼が、このたび上梓した’Supercapitalism: The Transformation of Business, Democracy and Everyday Life’は、直接ブッシュ大統領を批判しているわけではありませんが、米国における所得と富の不平等化、雇用不安定性の増大、地球温暖化の放置を問題視している、という意味ではこれは、まぎれもないブッシュ批判の本であると言えるでしょう。
(続く)