太田述正コラム#2131(2007.10.18)
<ブッシュとイラン・北朝鮮の核問題>
1 始めに
 ブッシュ大統領は17日の記者会見で、北朝鮮とイランに対する厳しい見解を表明しました。
 それぞれをどう受け止めるか、私見を申し述べたいと思います。
2 対北朝鮮
 ブッシュ米大統領は、北朝鮮の核問題に関し、「北朝鮮は核拡散活動に関するすべての申告とともに、プルトニウム、(核)兵器をどれくらい生産したのか完全な申告を行<わなければならない>」と述べるとともに、「6<か国>協議では、拡散問題は兵器の問題と同等の重みを持っている」と強調し、「北朝鮮が合意を守らなければ、代償を払うことになる」とくぎを刺しました(注1)(
http://www.asahi.com/international/update/1018/TKY200710170368.html
。10月18日アクセス)。
 (注1)10月3日に発表された6か国協議の合意文書では「すべての核計画の完全で正しい申告を年内に行う」とされたが、具体的な中身には触れていない。北朝鮮の6か国協議首席代表の金桂寛外務次官は、先月の6か国協議の際に開かれた韓国との協議等で、年内に行う申告に核兵器を含めない考えを示していた。
 朝鮮日報は、「最近米国で北朝鮮に対しあまりにも譲歩し過ぎているのではないかという世論が巻き起こっているのを意識した<発言の>ようにみえる。」と論評しています(
http://www.chosunonline.com/article/20071018000000
。10月18日アクセス)。
 しかし私は、このブッシュ発言は、北朝鮮が核計画の全貌を明らかにしなければならないということを明確に述べたものであり、シリアへの核協力といった弱みを抱えている北朝鮮としては、日本人拉致問題の全貌を明らかにすること以上の要求を突きつけられていることを意味するものである、と受け止めています。
 これまで(コラム#2123等で)何度も申し上げていることですが、この発言は、ブッシュ政権が一貫して北朝鮮の体制変革を追求してきているとの私の指摘を改めて裏付けるものです。
2 対イラン
 一方、イランの核問題については、ブッシュ大統領は、「もしイランが核兵器を保有することになれば、世界平和にとって危険な脅威となろう。だから私は、第三次世界大戦を予防しようというのなら、彼らが核兵器をつくるために必要な知識を獲得することを防止しようとすべきだと主張してきた。・・私は核兵器を持ったイランの脅威を極めて深刻に受け止めている」と述べています。
 「第三次世界大戦」というのは極めて強い表現であり、イランに対して軍事行動をとる選択肢を留保していることを示唆したものであると受け止められています。
 (以上、
http://www.nytimes.com/2007/10/17/washington/17cnd-prexy.html?hp=&pagewanted=print
(10月18日アクセス)による。)
 しかし、これまた(コラム#2123等で)何度も申し上げてきているように、ブッシュの残任期中の米国の対イラン攻撃はありません。
 ありえないのです。
 現在米国の軍部には、反ブッシュ政権の気運が漲っています。
 一番最近では、2003年半ばから約1年間在イラク米軍総司令官を勤め、現在は退役しているサンチェス元米陸軍中将が、10月12日、ブッシュ政権の指導者達を無能で腐敗しているとし、イラク占領政策の失敗は、職務怠慢の極みであり、軍人であったら軍法会議にかけられてしかるべきだと激しく非難したことが話題になりました(
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/10/12/AR2007101202459_pf.html
http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/7042805.stm
(どちらも10月14日アクセス)による)。
 それに以前(コラム#2074で)、「仮にブッシュ=チェイニー・ラインがイラン攻撃を命じたとしても、ゲーツ<米国防長官>は自らこのことをリークし、或いは制服幹部達がこのことをリークするのを黙認することによって、この命令を覆すことを目論むでしょうし、それで覆せなければ、今度はファロンが公然と異論を唱えて辞表を叩き付けることでしょう」と述べたところ、私の指摘を裏付ける、要旨以下のようなコラムがスレート誌に掲載されました。
 
 イラクの反省の上に立ち、今度、(将官達の間では絶対にやってはならないというコンセンサスができているところの)イラン攻撃を大統領から命ぜられた時にどうすべきか、侃々諤々の議論が米軍人達の間でなされてきた。
 合法的な命令には服さなければならないので、命令に服するのを頭から拒否するわけにはいかないというのが大前提だが、その上でどうすべきかについて、ようやく以下のようなコンセンサスができつつある。
 この種の軍事的にばかげた命令(注2)を大統領から受け、その命令に服すことが米国の安全保障を危うくすると信じた場合、軍人は、大統領に翻意を促す、プレスにリークする、学術論文を上梓してその中に主張を織り込む、議会でやらせ質問をしくんで言いたいことを証言する、こういったことを多数が一緒になってやる、と次第にエスカレートさせていき、それでもダメなら、辞任(resigning)するか何人かで一斉に退役(retiring)すると大統領に訴える(注3)、この辞任ないし退役を実行する、更に辞任ないし退役後速やかに声を挙げる、というものだ。
 (以上、
http://www.slate.com/id/2176122/
(10月18日アクセス)による。)
 (注2)「政治的に」ばかげた命令ではないことに注意。なお軍事的にばかげた命令には、誤った情報ないし歪曲された情報に基づいて大統領が発出した命令を含む。
 (注3)辞任と退役は全く違う。退役する場合は、医療サービス受給資格や士官クラブ会員資格等の便宜供与を引き続き受けることができるが、辞任すればこれら一切を擲つことになる。だからこそ、この40年来、辞任した将官は一人もいない。
 イラン攻撃はありえない、と信じていただけましたか?
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 有料版のコラム#2132(2007.10.18)「報道の自由「後進国」の日本・再訪」のさわりの部分をご紹介しておきます。
 コラム全文を読みたい方はこちらへ↓
http://www.ohtan.net/melmaga/
・・・・今年も国際的NGOの「国境なき記者団」が「2007年世界報道自由度ランキング」を発表しました。
 それによると、調査対象169カ国中、昨年51位だった日本が37位に上昇し、31位だった韓国は39位に下がりました。
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 「2007年世界報道自由度ランキング」の原典・・にあたってみたところ、・・日本には閉鎖的な記者クラブ制度があること<等>が挙げられていました。
 これらは一貫して日本が批判されている点です(コラム#936参照)。
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 記者クラブの存在による病理であると最近思えてならないのが、防衛記者クラブ会員社であるところの新聞社やTV局等の主要マスコミが、どこもほとんどと言ってよいほど防衛省不祥事を取り上げていないことです。
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 その結果、おかしなことが起こっています。
 民主党が、・・防衛省の守屋武昌前事務次官の証人喚問を要求したのですが、守屋氏を証人喚問する理由が、氏が防衛局長時代に海上自衛隊のインド洋での給油活動での給油量の訂正や航海日誌の破棄などが相次いだことへの責任を問うためだけだというのです・・。
 ・・せっかく守屋氏を証人喚問するのであれば、少なくとも併せて防衛省不祥事についても問い質すべきでしょう。
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 民主党が取り上げようとしない最大にして唯一の理由は、主要マスコミが本件をいまだに報道していないことだと私は見ているのです。
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