太田述正コラム#2079(2007.9.22)
<ミャンマー動く>(2007.10.25公開)
1 始めに
 ミャンマーで反政府活動が活発化しており、山が動き出した感があります。
2 事の次第
 ミャンマーでは、英領時代以来、仏教の僧侶達は、学生達とともに反権力闘争の前衛でした。
 1962年から始まった軍政に対する1988年の約3,000人もの犠牲者を出した暴動の際にも僧侶達は学生達と手を携えて闘いました。
 1990年の小暴動の際にもおなじことが繰り返されたところ、僧侶達は兵士とその家族のために宗教的儀式を行うのを拒否したものです。この時は何百人もの僧侶達が当局に拘引されました。
 今回の反政府活動のきっかけになったのは、8月15日に突然当局がガソリン等の燃料を2倍に値上げしたことでした。
 8月19日から、まず、軟禁中のアウンサン・スーチー(Aung San Suu Kyi) 率いる民主同盟(National League for Democracy=NLD)の指導者達や学生達が抗議行動の先頭に立ったのですが、当局の弾圧を受けて逮捕されたり逃亡したりして抗議行動が下火になったところへ、若い僧侶達が抗議行動に参加し始めた、という経緯をたどって現在に至っています。
 2週間前に、(ミャンマー第二の都市のマンダレー(Mandalay)の近くで仏教教学の中心である)パコック(Pakokku)での僧侶達のデモ隊に兵士達が襲いかかって何百人もが殴打され、かつ威嚇射撃まで加えられたことに対し、僧侶達は当局に9月17日までに謝罪するように求めました。
 しかし謝罪はなされず、9月18日から、僧侶達による抗議行動が、ミャンマー最大の都市であり、つい最近まで首都であったヤンゴン(ラングーン)等で組織的に行われるようになったのです。
 9月18日という日は、1988年の暴動に際し、軍部がクーデターを起こして大弾圧を開始した日でもあります。
 なお、抗議行動に加えて、僧侶達は、軍とその家族との接触を断ち、彼らから喜捨を受けない姿勢をとっています。ミャンマーのような仏教国では、これは大変なことなのです。
 22日には、マンダレーで約4,000人の僧侶達を中核とする約10,000人のデモが行われました。
 これは、1988年の暴動以来の大規模なデモであると言えます。
 ヤンゴンにおいても、連日降りしきる雨の中で、21日の約1,500人の僧侶達によるデモに引き続き、22日、約1,000人の僧侶達に約800人の一般市民が加わる形でデモが行われました。
 この間、「全ミャンマー僧侶連盟(The All Burma Monks Alliance)」という耳慣れない団体が、一般市民に対し、僧侶達による抗議行動に加わるように促しました。
 「われわれは、僧侶を含むあらゆる人々を貧困に陥れている悪の軍事専制を全市民の的であると宣言する。・・この共通の敵である悪の体制をミャンマーの土地から永久に放逐するために、団結した大衆は団結した僧侶勢力と手を携える必要がある」と。
 こんなことは、独立以来、初めてのことです。
 そしてこの団体は、23日の日曜日の2000時に全国民が家の玄関に立って15分間の祈祷を行うように呼びかけたのです。
 今回は、軍事政権(the junta)は武力を用いることを躊躇しているように見えます。
 抗議行動の中核が、一般市民の敬意の対象である僧侶達であるということ、当局が民主主義的装いをこらすべく今月初めに新憲法の骨子を発表したばかりであるということ、通信手段が発達したために写真やビデオ映像が瞬時に国内外に広まってしまうのでこれまでのように当局が情報遮断をすることができないということ、がその理由でしょうが、今後当局が強硬な弾圧に出てこないという保証はありません。
 米国の国連大使は、ミャンマーの状況は地域の安定にとって脅威であるとし、ミャンマー当局が国連ミャンマー特使のガムバリ(Gambari)氏の入国を可及的速やかに認めるよう求めました。
 また、英国の国連大使は、「平和的な抗議行動を沈黙させ、異論を唱える者を弾圧するためにミャンマー当局がとってきた措置に慄然としている」と述べました。
 (以上、
http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/7005974.stm
http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/7004625.stm
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/09/18/AR2007091802082_pf.html
http://www.nytimes.com/2007/09/21/world/asia/21myanmar.html?ref=world&pagewanted
(いずれも9月22日アクセス)による。)
3 感想
 北朝鮮とシリアの核開発提携疑惑にも、この風雲急を告げるミャンマー情勢にも余り日本のメディアは関心を示していないようで、まことに困ったものです。
 日本の数多ある市民団体はどうしてミャンマーの反政府勢力への連帯と支援のアッピールの一つくらい行わないのでしょうか。
 どうして日本の外務省は、ミャンマー当局に警告を発しようとはしないのでしょうか。 現在の日本では、他人のことを顧みようとする人物など払拭しているということなのでしょうか。