太田述正コラム#2122(2007.10.13)
<集団自決問題と沖縄(その2)>(2007.11.16公開)
3 EU的枠組みの下での沖縄独立を
 (1)過去の経緯
 朝鮮日報の前出コラムによれば、「<約10年前には、>コザ市(現沖縄市)の市長を務めた故・大山朝常氏が95歳にして「過去について語れないなら、死ぬこともできない」として書き上げた『沖縄独立宣言』がベストセラーとなっていた。・・大山氏はこの本の中で、「ヤマトは帰るべき『祖国』ではなかった」、「沖縄世(ウチナユ)に戻ろう」と主張した。「沖縄世」とは薩摩藩の侵攻により沖縄が独立を失った17世紀以前の時代を指す。当時沖縄では一国二制度の下で日本の他地域とは制度の違う「自由貿易地帯」として再出発しようという議論が、現実的な方策として語られていた。大山氏はその2年後に亡くなった。だが彼の独立論も、二制度論も、大きな流れを作ることはできなかった。」とのことです。
 (2)提言
 私は、沖縄が、「完全独立」でも「自由貿易地帯」でもなく、EU的枠組み・・アジア連合(AU)(仮称)・・の下での独立を目指したらどうかと思うのです。
 当然、日本(除く沖縄。以下同じ)国民と沖縄国民は相互に自由に移動・移住ができます。
 またEUでは、英国のように、自国通貨を使っている国もありますが、大部分はユーロを共通通貨としているところ、日本と沖縄は引き続き円を共通通貨として使えばよいでしょう。
 更に、EUでは一人当たりGDPが高い国から低い国へ毎年移転支出が行われています(
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/eu/yosan_seido.html
。10月13日アクセス)が、同様の考え方に則り、日本のどの都道府県より一人当たり域内総生産が低い沖縄に日本から毎年移転支出が行われることになります(注1)。
 (注1)沖縄は、日本で一人当たり域内総生産が一番高い東京都の半分、日本の7割弱。(
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9C%8C%E6%B0%91%E7%B5%8C%E6%B8%88%E8%A8%88%E7%AE%97
。10月13日アクセス)
 AUの加盟国は当面は日本と沖縄だけなので、AUの議会は日本の現在の衆議院(除く沖縄選出議員)と沖縄選出議員団で構成し、かつ日本の裁判所がAUの裁判所を兼ねることとし、AUの執行部門は、日本政府(除く沖縄)と沖縄政府の連絡会議的なもので構成されることとすればよいでしょう。
 なお、上記移転支出のフレームや、AU議会が管轄する立法分野(人権・環境等)については、沖縄政府の同意なくしては変更できないこととすべきでしょう。
 言うまでもないことですが、沖縄では自由に教育・文化政策を決めることができるようになるのであって、教科書検定制度を採用するのであれば、例えば集団自決についての既述についても、自由に検定方針を決定することができるようになります。
 肝腎なのは、EUの加盟国の中に、NATOに入っていないスウェーデン・アイルランド・オーストリア等の国があるように、沖縄も自国だけで自由に安全保障政策を決定できることです。
 すなわち、日本の憲法も法律も適用されないのですから、自衛隊の撤収を求めることもできれば、日米安全保障条約や地位協定の当事国でもないのですから、米軍の撤収を求めることもできます。それでは安全保障上の懸念が生じると思うのなら、日本や米国との間で安全保障条約を結んでもよいでしょう。また、日本や米国がどうしても自衛隊や米軍を沖縄に駐留させて欲しいと言うのなら、土地借料をとって基地を提供してもよいでしょう。
 いずれにせよ、沖縄の基地問題は、抜本的に解決されることになります。
 (3)フィージビリティー
 日本の人口は沖縄の94倍もあり(ウィキペディア上掲)、これでは「連合」の体をなさないではないか、という声が挙がりそうですが、EUでも人口の一番多いドイツは一番少ないルクセンブルグの172倍の人口がある(CIAの国別資料)ことを思い出すべきでしょう。
 それに、AUの発足時には加盟国が2か国だけだとはいえ、加盟国が増えていくことは大いにありえます。
 日本に道州制が導入されれば、道や州の中に独立への道を選ぶ所が出てきても不思議はありませんし、モンゴルあたりが加盟に手を挙げることだって考えられます。太平洋上の島嶼諸国も続くかも知れません。そこまでくれば、韓国だって腰を上げるかもしれません。中共との問題を抱える台湾だって、EUのアフィリエート制度的なものをつくることによって実質的に加盟国になる道が開けるかも知れません。
 沖縄のイニシアティブで、このような夢のあるAUなる枠組みができれば、素晴らしいと思いませんか(注2)。
 (注2)日本と沖縄からなるAU構想の方が、台湾において時に議論されることがある、中共との間でのEU的関係構築論よりはるかに実現性があると思う。中共と台湾の政治体制が全く異なるだけでなく、中共が台湾より人口がはるかに多い一方ではるかに一人当たり所得が低いからだ。(
http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2007/10/12/2003382817
。10月13日アクセス)を参考にした。)
 なお、私のこの提言は、EUがあるからこそ、欧州や英国で、フランダースのベルギーからの独立やスコットランドの英国からの独立が現実性を帯びてきた(
http://www.latimes.com/news/opinion/la-oe-goldberg9oct09,0,1937700,print.column?coll=la-opinion-columnists
(10月10日アクセス)。なお、コラム#2071、2103も参照のこと)という事実を踏まえてのことです。
 一つの国を構成していることに、若干なりとも違和感を覚えている地域があるとして、その地域の人口が少ない場合、裸で独立国になることは躊躇せざるをえないけれど、EU的な枠組みの下であれば、安心して独立国になれる、ということです。
 皆さんのお考えもお聞かせ下さい。
(完)