太田述正コラム#1797(2007.6.6)
<名誉革命(その2)>(2007.12.4公開)
 (3)名誉革命に関する最近の説におおむね共通する点
  ア「名誉」革命ではなかった
 名誉革命の「名誉」とは、流血がほとんどなかったことを指しているわけですが、このことは現在では否定されています。
 
 なぜなら、まず時間軸で申し上げれば、名誉革命のちょっと前の1685年には、カトリック教徒のジェームス2世の即位に反対し、王位を狙って叛乱を起こしたプロテスタントでチャールス2世の庶子であるモンマウス公爵(James Scott, 1st Duke of Monmouth and of Buccleuch。1649~85年死刑)の事件が起こりましたし、名誉革命の翌年の1689年には、亡命していたジェームス2世が王位奪還のためにフランス軍を引き連れてアイルランド南岸に上陸する(結局1691年に至って完全敗北)という事件が起こりましたし、ジェームスの息子(Old Pretender。1688~1766年)がからんだ叛乱が1714~15年に、そしてジェームスの孫(Bonnie Prince Charlie=Young Pretender。1720~88年)のスコットランド上陸とそれに引き続く内戦(コラム#181、1136、1696)が1745~46年に起きたからです。
 そして、次に空間軸で申し上げれば、スコットランドとアイルランドで反ウィリアム3世の叛乱が起きて激しい戦闘が起き、それぞれグレンコー(Glencoe)とボイン(Boyne)でイギリス政府軍による大虐殺事件が起きていますし、スコットランドでの叛乱は断続的に1746年(上述)のカロデン(Culloden)の戦い・・叛乱側の負傷者と捕虜は全員殺された・・まで続いたと考えることもできるからです。
 また、空間的視野を更に広げれば、名誉革命の10年ちょっと前の1676年には、イギリス内戦(清教徒革命)の英領北米植民地版とも言うべき、ベーコンの叛乱(Bacon’s Rebellion)がバージニア植民地で起こっていますし、名誉革命の翌年の1689年から1697年まで、ウィリアム王戦争(King William’s War=War of William and Mary=(北米では)First French and Indian War=(欧州では)War of the Grand Alliance (但し、1688~97年) )という、イギリスにとって、かつての対スペイン戦争(1585~1604年)と並ぶような長く苛烈な対外戦争が起こっているからです。
  イ 名誉「革命」ではなかった
 イギリス内戦の時のように一般庶民が関与したわけではないこと(注2)もあり、名誉革命は、社会的な「革命」というよりは、外国(オランダ)によるクーデタ的なものであったととらえられています。
 (注2)ただし、アイルランドでは、一般庶民も対ウィリアム叛乱に参加した。
 例えば、ウィリアム3世は、それまでの国王に比べてイギリス議会により注意を払うようにはなりましたが、それは自分に忠誠を誓う英国教会信徒達を沢山議会に送り込んだ後のことですし、自由な言論が、特にコーヒーハウスで戦わされるようになったことは事実ですが、これは政府のおかげどころか、政府の弾圧にもかかわらず起こったことですし、制定された権利の章典(Bill of Rights)は、既にイギリスで確立していた自由権を再確認しただけのものでしたし、イギリス内戦の頃と違って王政廃止を唱える声など皆無でした。
  ウ しかしその後結果として革命的変化が起きた
 とはいえ、名誉革命の意図せざる結果として革命的変化が起こった、ということも指摘されるようになりました。
 例えば、少なくともプロテスタントの各派については信教の自由が完全に認められるようになりましたし、出版物への政府の介入もなくなりました。
 またウィリアム3世がフランスとの戦争の戦費を必要とした結果、議会が定期的に開かれるようになるとともに、議会で政府の出費の審議が行われるようになり、国王による任命についても議会による承認が必要になりました。
 そして、政党政治が始まり、国王大権の時代は完全に過ぎ去ります。
  エ 名誉革命は英領北米植民地に大きな影響を及ぼした
 このところ光が当てられるようになったのが、名誉革命が英領北米植民地とオランダに大きな影響を及ぼした、という点です。
 まず、北米植民地についてです。
(続く)
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<太田>
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