太田述正コラム#2430(2008.3.18)
<チベット騒擾>
1 始めに
 日本の宗主国たる米国が金融不安に襲われ、日本の最大の貿易相手国であり、19世紀に存在していた帝国で唯一残っている中華帝国・・国号は清、中華民国、中華人民共和国と変遷した・・が辺境の少数民族のチベット人が起こした騒擾に揺れている狭間に日本が佇んでいる、というのが現在の状況です。
 このチベットにおける騒擾について、そろそろ触れなければなりますまい。
2 何が起こっているのか
 産経新聞の北京特派員は、彼女のブログで、「ラサ<(Lhasa)での>・・最初のデモは10日・・。14日、午前11時30分ごろ、ジョカン寺の近くにあるラムチ寺で僧侶がハンガーストライキをはじめた。これを・・武装警察・・が阻止しようと、殴るけるなどの暴行のあげく発砲した。7、8人が死んだ。逮捕者もでた。これをきっかけに市民に怒りが広がり、暴力的な大規模デモが起きた。他の僧院も抗議のハンストに入った・・ラサ・・市全体で・・死者<は>・・正確には分からないけれど100人以上。110から120人の間だと思う。(<チベット>亡命政府の発表は80人の遺体が確認された・・)・・<中共>政府は漢族の商人が犠牲になったようなことをいっていたけれど・・漢族の死者はない。回族が5人死んだ。・・漢族が犠牲になったというのは、政府のウソ・・」と報じています(
http://sankei.jp.msn.com/world/china/080317/chn0803171122007-n1.htm
。3月18日アクセス(以下同じ))。
 これは、通信/報道管制(後述)の下での世界的スクープかもしれませんね。
 この騒擾が、チベットを超えて、甘粛(Gansu)省、青海(Qinghai)省、四川(Sichuan)省のチベット人達の間にも広がって現在に至っているわけです(
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-tibet17mar17,1,7061040,print.story)。
3 通信/報道管制
 ラサのインターネット接続は切断され、チベット語のブログは閉鎖されています。
 北京では、多くの外国の新聞のウェッブサイトへのアクセスがブロックされています。 (以上、
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-tibet17mar17,1,7061040,print.story
による。)
 英ガーディアンは、在英中共大使宛てに、自社サイトへのアクセスがブロックされたことに抗議する書簡を送りました(
http://www.guardian.co.uk/media/2008/mar/17/chinathemedia.digitalmedia1)。
 また、ここ数日、中共の一部でCNN、BBC、グーグル・ニュース、ヤフー、ユーチューブがブロックされたり一時的に見れなくなったり障害が発生したりしています。外国人記者のEメール・サービスにも障害が生じているという情報もあります(
http://www.nytimes.com/2008/03/18/world/asia/18access.html?ref=world&pagewanted=print)。
 メールやチャットで「チベット」、「ラサ」、「デモ」、「3月14日」といった言葉を使うとこれらの言葉は中共政府のファイアーウォールによってすぐに消されてしまいます。
 もっとも、CNNやBBCは次第にブロックを解かれつつあります。
 例えば、BBCの16日(日曜)のこの騒擾についての20分間(うち5分間はダライ・ラマの発言)の報道番組は北京で視聴できました。
 (以上、
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-chispin17mar17,0,4915633,print.story
による。)
 ラサでは、外国人観光客はホテルから外出することを禁じられており、騒擾が一番盛り上がった時期には、警察はこれら観光客のデジカメのメディアを没収しました。
 外国人観光客ののホテルの電気は、回りが停電していないのに止められており、彼らがデジカメや携帯に充電したりパソコン通信を行ったりできないようにされています。
 (以上、
http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/7299642.stm
による。)
4 情宣活動
 中共国内のメディアは、チベット人の僧侶や群衆が漢人の店舗を襲う画面等を繰り返し放送しており、被害を受けた漢人のインタビューをその中に織り込む等、中共政府は国内向けに積極的な情宣活動を行っており、漢人の世論は全面的に政府を支持しています。
 この点は、1989年の天安門事件の時には、世論が学生側に同情的であったことを考えると、大きな違いです。
 また、騒擾の原因は、国外からの策謀によると報じています。
 (以上、ロサンゼルスタイムス前掲による。)
 ちなみに、急速に騒擾がエスカレートしたこと等から、在中共外国人消息通達は、何らかの形で国外からの働きかけがあったと見るべきであろうとしているところです(
http://www.time.com/time/world/article/0,8599,1722883,00.html)。
5 騒擾の原因
 騒擾の原因は第一に中共政府の宗教政策です。
 チベット人の尊敬の的であるダライ・ラマを中共政府が一貫して排斥してきたこと、最近チベット人の学生や公務員の修道院訪問や宗教的儀式や祭りへの参加が再び禁じられたこと、同じく最近、僧侶達に中共政府史観のチベット史の講義への出席とその折ダライ・ラマ非難の唱和を義務づけたことが怒りを呼んでいるのです。
 第二の原因は、中共政府が漢人のチベットへの大量移住政策をとっていることへの怒りです。漢人との経済格差がこの怒りを増幅させているのです。
 (以上、
http://www.nytimes.com/2008/03/18/world/asia/18china.html?_r=1&hp=&oref=slogin&pagewanted=print
による。)
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太田述正コラム#2431(2008.3.18)
<共和党善玉・民主党悪玉論(その2)>
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