太田述正コラム#2357(2008.2.10)
<天下りについて(その2)>(2008.3.25公開)
2 防衛省以外の中央省庁の天下り
 (1)全般
 ここで改めて注意を喚起したいのは、天下りを核心とする政官業癒着構造は、全中央省庁を通じて見られるということです。
 (2)防衛省と共通の話
 競争入札が行われている分野においては、防衛施設庁に司直の手が入った一昨年以降、農水本省や農水省所管の独立行政法人である緑資源機構における官製談合が露見しています。(
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20070419ig90.htm 
(2007年4月20日アクセス。以下、特に断らない限り2007年)、及び
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2007052502018837.html  
(5月25日アクセス))
 その他の省庁でも官製談合は行われてきたはずです。
 なお、一昨年、福島県、和歌山県、宮崎県で相次いで知事が絡んだ官製談合・・文字通りの政官業癒着・・が露見したことも覚えておられる方が多いと思います(
http://www.asahi.com/national/update/1116/SEB200611160015.html
。2006年11月17日アクセス)。
 更に、防衛装備品の調達には随意契約が多く、これも天下りの温床になっているわけですが、これも防衛省だけの話ではありません。
 省庁や国会、裁判所など16機関が2006年4~12月に締結した工事(250万円以上)や物品購入(160万円以上)など計14万 1990件の契約のうち、56.5%の8万294件が随意契約で、予定価格に対する契約額の割合は97.3%で、競争入札を実施した場合の落札率(予定価格に対する落札価格の割合)86.3%に比べ、11ポイントも上回っており、かつ、契約先で所管する財団法人など962法人に約1万人の省庁OBらが天下りしていることが判明しています(
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20071017it14.htm  
。10月18日アクセス)。
 都道府県も同じでしょう。
 (3)防衛省以外の中央省庁の旨み
 以上は、防衛省と他の中央省庁共通の話ですが、他の中央省庁には、天下りの観点から、防衛省には見られない旨みがたくさんあります。
 第一に、防衛省には1つしかないけれど、職員数で全部合わせて防衛省をちょっと上回る程度の他の省庁は、合わせて101もの所管の独立行政法人(独法)を持っていることです。
 2006年4月現在、この101の独法に653人の役員がいましたが、このうち、28.3%に当たる185人を各省庁のOBが占めており、各省庁のOBがゼロの法人は17法人と全体の16.8%にとどまっています。
 ちなみに、独法は国の援助を受けており、2007年度予算では、この101独法のうち93法人に国から3兆5231億円が補助金などとして交付されています。
 (以上、
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20071022it02.htm  
(10月22日アクセス)による。)
 また、2007年10月1日現在で全国の国立大学法人・・広義の独法と言ってよい・・計87校のうち7割の60校に計65人もの文部科学省出身者が役員(理事60人、監事3人、学長2人)として在籍しています(
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2007100801000189.html  
。10月9日アクセス)
 中央省庁から、独法に天下った後、更に民間企業や省庁所管の公益法人へ天下った各省庁OBが、2006年4月までの10年間で少なくとも366人にのぼり、独法が各省庁から企業などに天下る抜け道になっていることも分かっています(
http://www.asahi.com/politics/update/0627/TKY200706260481.html  
。6月27日アクセス)。
 第二に、既に出てきたところの公益法人も、防衛省は、特定の業界を所管しているわけではないことからごくわずかしか持っていませんが、防衛省以外の中央官庁は無数と言ってもよい公益法人を抱えていることです。
 キャリア官僚OBが関係する公益法人などを渡り歩く、いわゆる「渡り」でもって、社会保険庁長官OBが、実に給与や退職金で計3億6600万円以上も受け取ったケースがあることが話題になったことをご記憶の方もあると思います(
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2007060202020884.html
(6月2日アクセス)、及び
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2007060702022290.html  
(6月7日アクセス))が、こんなケースは防衛省のキャリア官僚や将官のOBでは考えられません。
 第三に、やはり特定の業界を所管しているわけではない防衛省には、主として業界助長行政の手段であるところの補助金なんて雀の涙しかありませんが、防衛省以外の中央省庁は、補助金だらけであると言っても過言ではないことです。
 各省庁が補助金を交付している企業・団体にこの各省庁のOBが天下っているのは言うまでもありません。
 当然そこには自民党政治家が絡んで来ます。
 JA全中は2006年度に農水省から約9億円の補助金を受給、JA全農も同年度に1238億円の補助金を受けており、政治資金規正法は、国の補助金を受けた企業・団体について、交付決定から1年間、政治活動に関する献金を禁じています。
 しかし、2007年7月の参院選で初当選した元JA全中専務理事の山田俊男参院議員(自民、比例)を支援するため、JAグループの政治団体「全国農業者農政運動組織連盟」(全国農政連)が2006年9~12月に計18回の政治資金パーティーを開き、国から補助金を受けているJA全中とJA全農が、政治資金規正法で禁止されていないところのパーティー券を計3300万円分購入したほか、JA共済連、農林中央金庫などから、合わせて計1億980万円を同議員が代表を務める自民党支部に寄付していました。
 (以上、
http://j.peopledaily.com.cn/2007/09/28/jp20070928_77501.html  
(9月29日アクセス)による。
 これはほんの一例に過ぎませんが、国の補助金を与えられた業界が、その補助金の一部を自民党の政治家に還流している構造がはっきりと見て取れます。
 ちなみに、政治資金規正法は2000年から政治家個人への企業・団体献金を禁止していますが、政党支部を通じた献金は認めているため、このところ自民党の支部が急増している状況です(
http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/kokkai/news/20070928k0000m010196000c.html
9月28日アクセス)。
 第四に、防衛省以外の中央官庁は、助長行政の手段として税金の政策的な減免も実施しており、税金の減免先の企業・団体に天下りを行っていることです。
 第五に、防衛省以外の中央官庁は、規制行政も行っているということです。
 規制行政は、規制の対象となる企業や団体がどれだけ金銭的に裨益しているか、一見明白でないだけに、通常ほとんど問題にされませんが、規制に手心を加えてもらうことを期待して、これら企業や団体も省庁のOBの天下りを受け入れているのです。
 もちろん、第四にも、この第五にも、政治献金の形で企業・団体からみかじめ料をせしめている自民党の政治家の姿が見え隠れしていると言ってよいでしょう。
3 終わりに
 福田首相は昨年10月、国会で、キャリア官僚の独立行政法人への天下り者数がここ数年で減少している実績を強調し、「丁寧に(退職官僚の)人生設計をしてあげる必要があるのではないか」と答弁しており、天下りを是認する姿勢がはっきりしています(
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/071017/plc0710171933009-n1.htm  
。10月18日アクセス)。
 この期に及んでも、自民党は天下り、ひいては政官業癒着体制を温存しようとしているわけです。
 ですから、私が何度も申し上げているように、自民党政権を打倒しない限り、更に正確に言えば、自民党系政治家達を基本的に政権の座から遠ざけない限り、天下りは根絶できず、従ってまた、政官業癒着体制を瓦解させることもできないのです。
 ただし、天下りを根絶するためには官僚機構を手なづけなければならないのであって、恩給制度の復活はそのためにも必要不可欠であることを、ここでも強調しておきたいと思います。
(完)