太田述正コラム#2530(2008.5.6)
<皆さんとディスカッション(続x131)>
<KAZU>
ご回答ありがとうございました。
 肝心の?コラム#30、58は会員にならないと読めないのですね。後日申し込みしたいと思います。
 列挙なさったコラムでは、#1420、2161で米国の戦略絡みの言及を確認しております。他は私の非力でよく判っておりません。いずれにせよもう少し時間をかけて太田さんのコラムを少しづつ読み込んでいきたいと思っています。局所で読むとついていけない事が多いので。
 それよりも海原治さんへの評価が驚きました。元祖?防衛庁の天皇なんていわれていた同氏は防衛庁の中では、どのように見られていたのだろうと思っておりましたが・・・。
 個人的には同氏の郷土防衛隊構想というのは、職業軍人に防衛(苦しいこと)を任せることはよくないことと思い、それなりに共感していました。
 ではどう考えていけばいのかということを浅薄ながら、太田さんの所論を学んでいきたいと考えております。
 人物評というのは評価する人の考え方を理解しやすくするものと思いますので、今後もいろいろな方の人物評価を期待致します。
<太田>
 
 「コラム#30、58は会員にならないと読めない」ことはありませんよ。
 
<コバ>
談合防止対策(自民党政権が続く限り、談合はなくならないでしょうが)として一般競争入札が拡大した結果、公共工事の入札不成立が相次いでおり(
http://www.nhk.or.jp/news/k10014391711000.html
)、災害復旧などの公共工事でも入札の不成立が相次いでいるそうです。談合がなくなるのは喜ばしいことですが、入札不成立の問題をめぐって何か解決策はあるのでしょうか? また、英国や米国では公共工事のシステムはどうなっているのでしょう?
<太田>
 引用されたサイトを見ると、「国や地方自治体が業者間の競争を促す一般競争入札を拡大させた結果、公共工事の入札で落札業者が1社も出ない不成立が相次いでいます。業者にとって、設定された予定価格では採算が取れないためで、このうち国発注の工事では平成18年度、道路などの維持・補修を中心に不成立が全体の10%余りに上りました。」とあります。
 こんなの、官側の予定価格の算定方式に問題があるだけのことでしょう。
 それはそれとして、入札方式、とりわけ一般競争入札方式の社会的コストは決してバカになりません。
 だからこそ、英米では民営化を推進しているのです。
 民営化すれば、気心の知れた数社から見積もりをとって、価格と信頼性のバランスのとれた発注ができるからです。
<コバ>
1954-1956年の英国有事対策会議の議事録が公開されましたが、その中で、英国が核攻撃を受けた場合について、放射能汚染などではなく、紅茶の不足が懸念されていた(
http://www.afpbb.com/article/life-culture/life/2387271/2899391
)そうです。英国人にとって紅茶が不可欠なものだからなのか、紅茶が不足することくらいしか英国に憂慮すべきことがなかったのか、英国のユーモアなのか…。重大な問題であるはずですが、面白いです。
<太田>
 いや、実際紅茶の、そのイギリス近代史に及ぼした巨大な影響(
http://www.gol27.com/HistoryTeaEngland.html
(5月5日アクセス)、コラム#895、896)と依然として紅茶が持つイギリス人の日常生活における重要性に鑑みれば、不思議ではありません。
 (コラム#895でコーヒーハウスがイギリス近代史に及ぼした巨大な影響に触れていますが、誤解を呼ぶと反省しています。というのは、コーヒーハウスは、発足時を除けば、コーヒーというより紅茶を飲む場所であったからです。)
 ごくかいつまんで申し上げれば、英帝国形成の尖兵であった東インド会社の初期の興隆は茶の輸入によるところが大であり、米国の独立戦争の直接のきっかけは英本国が茶にかけた税金であり、アヘン戦争はイギリスが支那からの茶の輸入に伴う赤字をアヘンの輸出によってカバーしようとしたことが原因であったことや、アルコール飲料であったエールに代わって茶がイギリス人の日常的飲料になったことで、イギリス人の健康状態が改善されて人口が増大を始め、工業化の推進と大帝国の形成を可能ならしめた、のですぞ。
<雅>
 –鉄のトライアングルを崩そう(マスコミ編)(ふっと思いついた手法ですが)–
 本当は色々議題を出しながら(#2528参考に)話の本筋をずらすのもどうかと思いますが、前から太田先生が言われている「報道の多様化」の実現方法の「一つ」として、
一、電信版新聞を増やすと共に
二、発行する紙媒体の新聞の割合を削りつつ
三、大型報道企業の電子版の進出を遅らせつつ
四、フリー動画、ニュース類をインターネットで開陳し
五、英語をできる人を増やせば
今の報道各社がどれほど政府筋に沿った報道をしているか国民全体が理解すれば自ずから、「真」の報道の自由が実現できますね。
 とこの机上の行程の複雑・いる年月を考えれば、政権交代が一番手っ取り早いと思った私でした、、、。
<太田>
 そのとおりです。
<sophy>
 コラム#2452「マケイン?!(その2)」を読みました。 
 MLでの冷泉彰彦さんの記事に、「「ライト師の問題」について、「どうしてこの時期に?」という疑問が出ていたのですが、それは「本選になってからこの問題が噴出すれば良かったのに、こんな時期に出したら11月までにはネタ的に風化してしまう」という意味だというのですが、共和党側のホンネはそんなところにあるのかもしれません。」は当たっていると思いますが、そう簡単にアメリカの原罪が忘れ去られるとも思えないのです。とはいえ選挙はわからない部分が多いのですが、日本人が考えているほどオバマ氏が強いとは思えないのです。
<太田>
 おっしゃる通りであり、米国はまだ対有色人種差別、就中対黒人差別を完全には克服していないのであり、ブラッドレー効果(コラム#2294、2351)もこれあり、オバマがマケインに勝つと決めてかかるわけにはいきません。
 しかし、対黒人差別はとにかく克服しなければならないのであり、共和党は、ただ一人も現在、上下両院共和党議員247名中黒人議員を擁していないという文字通りの黒人差別政党である(
http://www.nytimes.com/2008/05/04/opinion/04rich.html?ref=opinion&pagewanted=print
。5月4日アクセス)こと、また、ブッシュ政権が対イラク戦等の不手際等で米国の国際イメージを失墜させ、富者優遇の経済政策によって米国の貧富の差を未曾有のレベルに引き上げるとともに、経済の停滞を招いたことは、ブッシュの個人的責任ではなく共和党全体の責任であること、からすれば、共和党のマケインを、しかもロートルでトロいマケイン(コラム#2450、2452)を当選させるほど米国民は愚かではない、と信じたいですね。
<大阪の川にゃ>>
1、戦前のドイツでは石炭から石油を造る技術が既に確立されていました。ドイツが使う石油の何割かはそのような人造石油でした。確かにコストは割高でしたでしょうが。日本国内に石炭は大量に産出したわけですから、石油を大量に必要とする日本海軍がプラントを造らなかったのは何故でしょうか。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%BA%E9%80%A0%E7%9F%B3%E6%B2%B9
 人造石油プラントが稼働していれば、米英蘭から石油禁輸されても「自衛戦争」に打って出る必要はなかったのに、と思われるのですが。もっとも、人造石油からは、船の重油はできても航空機用のガソリンは精製不能なのかな。
2、日本軍が南部仏印に進駐した理由として、海軍が陸軍に対ソ戦をさせないためだったとする説があります。(『日米開戦の謎』鳥居民、草思社1991年)すなわち、予測していた対日石油禁輸という米国による封鎖をあえて呼び込んでまでして、対ソ戦を止めたかったというものです。
 対ソ戦になると予算が陸軍にとられるので等等、との説明です。
 いくら陸海軍の仲が悪いといっても、そこまで分裂していたとは考えにくいのですが、太田さんはいかがお考えでしょうか。やはり、南部仏印への進駐は米英蘭への「石油だけは止めるなよ、分かってるな。」という威圧だったと解釈しています。結果としてその威圧は逆効果になったようですが。
 まあ、本命の欧州の戦争に介入したいルーズベルトは、日本が南部仏印に進駐しなくともいずれ石油を止めたような気もします。
http://ja.wikipedia.org/wiki/ABCD%E5%8C%85%E5%9B%B2%E7%B6%B2
<太田>
 引用された
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%BA%E9%80%A0%E7%9F%B3%E6%B2%B9
にも、回答が書いてあるじゃないですか。
 gas to liquids=「GTLの技術は、1923年(大正12年)にドイツでフランツ・フィッシャーとハンス・トロプシュにより発明された。現在GTLは天然ガスを加工する技術として位置付けられているが、当初は石炭をガス化させたものを化学反応により液化する技術として開発された。・・・1940年(昭和15年)に福岡県の大牟田と北海道の滝川にGTL工場が建設された。同工場ではガソリン、軽油及びワックスが生産されたが、生産量は戦時下の需要を満たす規模とはならなかった。大牟田の工場は1945年(昭和20年)に爆撃破壊され、その他の工場も建設途中で爆撃されるなど完成には至らなかった。」と。
 実際に戦時中に日本がドイツからGTL技術をどのように導入したかは、
http://en.wikipedia.org/wiki/Shale_Plant_at_Fushun,_Manchuria
(5月6日アクセス)に出てきます。
 「太平洋」戦争の原因はマクロ的にとらえるべきです。
 黄色人種差別意識に基づき、日英同盟を終息させた米国が、代わりに日本に「押しつけた」ワシントン条約体制を遵守せず、支那のナショナリズムを跳梁するにまかせたため、たまらず日本が満州を含む支那に軍事介入して行ったという背景の下、ご指摘のように、(英国から覇権を奪取するとともにドイツを叩くねらいで、共産主義に大甘の)ローズベルトが対ドイツ戦参戦を実現するため、日本を対米開戦に追い込んだ、というのが私のマクロ的な「太平洋」戦争観です。(典拠コラムが多すぎるので挙げない。)
<MS>
 雅さんのコラム#2528(もともとは#2515)での投稿に良い社会(自由民主主義的な社会)であるためには、その構成員が以下の認識を持つことが精神的なインフラとして重要だと思います。
1. 人間主義的価値観があること。
2. 1. にもとづき他の構成員が信頼できること。
 この2点では、血縁者と自分の才覚しか信じない中国人や、カネや抽象的な理念(宗教を含む)しか信じるものがないアメリカ人の精神的インフラは非常にもろいものだと思います。
 日本やイギリスのように人間主義的価値観が自然と根付いている国が、これらの国を導く必要があるのではないでしょうか?
 さもなければ、アメリカの信奉する資本主義を原動力とするグローバル化(それ以外のグローバル化もありうると思うのに)を推し進めていくことになり、世界全体が中国やアメリカのように他人を信じられない社会になってしまうのではないかと思います。
 しかし、インドが一応自由民主主義的な国になっているのはなぜでしょう?
 イギリスの植民地支配やカースト制度との関係で説明できるのでしょうか?
<太田>
 「人間主義」は、私の用いているところの、和辻哲郎由来の「じんかんしゅぎ」のことなんでしょうね?
 そうだとしたら、おっしゃる通り、日本とイギリスはそれを共有しています。
 インド文明が多神教(ヒンズー教)ないし無神論(仏教)的文明であること(コラム#777、778)、インド亜大陸がイギリスによって植民地統治されたこと(コラム#27、893、894)、その直前のムガール帝国が、モンゴル、すなわち遊牧民の民主主義的伝統と全く無縁ではなかったこと(コラム#637、2324)、一見そうでないように見えるが、インドは単一民族国家であること(コラム#2006、2008)、がインドの自由民主主義がまがりなりにも機能している背景だと思います。
 話は変わりますが、#2528で取り上げた食糧問題について、ファイナンシャルタイムスが専門家のコメントを更に掲載している(
http://blogs.ft.com/wolfforum/2008/04/food-crisis-is-a-chance-to-reform-global-agriculture/
。5月5日アクセス)ので関心のある方はご覧下さい。
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太田述正コラム#2531(2008.5.6)
<オバマ大頭領誕生へ?(続x8)(その1)>
→非公開